1月5日のゲストは、上妻宏光さんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年最初にお迎えするゲストは昨年10月以来の登場となる、上妻宏光さん。 #上妻宏光

ジャンルや国を越え世界各国で三味線の可能性を追求し続ける上妻宏光さん。もうおなじみですよね。傍らに愛用の三味線を携えて「一発目にね、ありがたいですほんとに」とにこやかに登場です。

そして上妻さん自らピックアップしたドライビングミュージックは、ジャミロクワイの『Virtual Insanity』。

ちょっと懐かしくてクールなクラブサウンドがスタジオに溢れてにっこり。
前回も今回も上妻さんの選曲はいつも意外。ですが今日は実はピッタリ。なのかもしれませんね。


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「もうー、10代の頃だったんですかね。ビデオクリップが物凄い衝撃的で。あの体の動かし方とかライブも観に行ったりもたんですけど、帽子まで買わなかったですけども真似してね。あの独特のサウンドを作り上げるってのは、そのう自分も三味線やってて『あ、このサウンド聞いたら上妻だ』そういうものを音楽家としては作り上げたいので、そういう意味でもジャミロクワイってのは独特な音で彗星のごとくバーっと現れてすごく衝撃がありましたね」

意外にも上妻さんの原点の一部にはジャミロクワイもあったとは。

「コレ聞いているとドライブもすごくゆったりというかスムーズにいける感じがするんです。開けていくというか、道がガーッとひらけていく目的地に向かってのワクワク感というかドキドキ感というものがすごくこの曲からは感じられて ドライブに合うんじゃないかなと」

そういう上妻さんはちょっと少年時代に戻ったような表情でした。


伝統と革新をテーマに挑戦を続けている三味線プレイヤー上妻宏光さん。
そんな上妻さんではありますが、昨年11月に発売されたアルバム「NuTRAD」は衝撃を持って迎えられました。今回のテーマはなんと「三味線とEDMの融合」。

でも、ジャミロクワイのお話しのあとに聞くとなんだか少し納得。

「NuTRAD」のタイトルがいいですね。

「『NEW』じゃなくて『Nu』。
EDMとかでも『NuEDM』とかJAZZの『Nu JAZZ』とかってスタイルがあるんですけど、昔からあるメロディーにこう新しいトラックというか武器をもって音をまた生まれ変わらせるというような。
僕の場合また『NuTRAD』という新しい民謡というか、何か違うものが提示できたらな、というような意味合いでつけました。今までにもちょっとない世界だったのでこういうサウンドがまずパッと来るとは想像しないと思いますね」

ピコピコ音からはじまりますね。
電子音と三味線が融合するんだという驚き。

「僕も新しいトライだったんで。ただ音楽ですから。これはもう相手側もクリエイターは僕の方に寄って、僕もそちらに寄れば絶対公約数というか遊べるね、スペースはできるだろうって信じてるので。そんなに大きい不安もなかったですね」

そもそもどういうキッカケで今回のコンセプトができたのでしょうか。
すると思いもかけないところから話が始まりました。

「きっかけは、カザフスタンで開催されているアスタナ国際博覧会の日本館のオープニングイベントに招かれまして。日本のアーティストを連れてってプロデュース公演をしたんですね。そこで、せっかくなんで、中央アジアの音楽とミュージシャンの方と共演をしました。三味線のルーツをたどると中東からシルクロードを流れてきた影響もあると思うんですね。中央アジアなんてなかなか行く機会も触れる機会もなかったんで、ものすごく新鮮でしたね。ただやっぱりアジアということなのか、ものすごく身近に感じるような感覚もあったんですね」

シルクロードを挟んでアジアの民族楽器同士が共振するライブで刺激を受けた上妻さん。そこで上妻さんは予想以上の手応えを感じました。

「民族楽器同士でしかも新しい音楽だったんですがオーディエンスの方が、ワーって盛り上がってくれたんですね。その時、伝統楽器でみんなが騒ぐとか踊るとかいいなあって思って。コレちょっといいなと思って『踊る』って今、何だろうなって考えた時に EDM=エレクトリック・ダンス・ミュージックが世界で最も熱いシーンなんですね。もちろん三味線はその世界に入ってはいないので、これはフロンティア精神としてはちょっといくしかないなって思ったんですね(笑)。それで今回は『踊らせたい』ってテーマにこのアルバムを色々作曲したり選曲しました」

伝統楽器で踊らせるのもアリ、と思い当たった上妻さん。
とてもおもしろい発想ですよね。

「そうですね。どうしても三味線と言うと静かに聞いてると言うかね、騒がず聞いてるようなイメージもあると思うんですが、僕、真逆が結構好きなので(笑)だから立たせようと、踊らせようと、実際ダンスでなくとも心が踊ってくれてもいいなと思ってるんですね」


EDMにネオソウル、フューチャーベース...最新の音楽とのコラボレーションを成功させるために、バリバリの第一線のサウンドクリエイターが招聘されました。若い世代との邂逅は音楽同様とても刺激的だったようです。

「20代のクリエイターの人たちというのは三味線をそんなに知らないというか聞いたこともない。だから最初にデモの音源作る時に三味線こうやって弾いたら『ああっ、そういうこともできるんですか。じゃあEDMならこういうリフやったらかっこいいかもしんないですけど?』って言われて『ああ、できるできる!』『あ、すごいっすねえ!じゃあこれは』なんて具合で、自分にもないフレーズができたりして『あ、これならハマるかもしんないすね』 みたいなやり取りを一つ一つ積み重ねながら作っていったんですね」

面白いですね。確かに普段三味線に触れる機会がないと、三味線がどんなことができて、どんな可能性を秘めてるかさえわからない。そこでの若いクリエイターの発見と斬新な視点が上妻さんにも大きな刺激を与えたわけですね。

「ジャズのマイルス・デイヴィスもそうですね。『帝王』呼ばれる彼の音とかスタイルも、大きく変わらなくても時代を取り入れながらビバップから音楽の表現の幅を広げていきました。三味線も同じように大きく変えなくても、ちょっとしたこのフレーズや時代の流れをちょっと組み込むことによって、20代とか10代の人達にも届くサウンドってものが作れるんじゃないかなと思うんですよね。

そうすることによって一つの伝承とか伝統という。ひとつの音楽をずっと深く追求してやっていくことも伝統ですが、また違った意味で僕は『タテ線』じゃなくて『ヨコ線』の十字に交わるポイントでいきながら三味線ってものを広めていきたいと思っているんですよね。

そのための一つのきっかけとしてEDMを使わせてもらって、このアルバムを通して、例えばEDMしか聞かないって層にも『うぉー、日本にもカッコいい楽器があるじゃないか』って存在を知ってもらえたら良いなと思いますね。ちょっと前だとインドのシタールがヒップホップで頻繁に使われた時期もありましたしね。いずれ三味線でもJ-POPでもクラブミュージックでも『あ、でもこれ三味線あっても良いね』と気軽に言われるくらいの認知度と言うか使われ方がこれからどんどんされるように、表現者としては提示していきたいなと思いますね」

今回のサウンドの劇的な変化に驚きつつも、その根底にあるのはいつもの伝統と革新を推し進めることで『伝承』への熱い想いに少しもゆるぎはないんですね。


ここでずっと傍らにあった三味線でほんの少しその音色を聞かせてくれました。

アルバムの中からサウンドの冒険が終わったあとに再びオーセンティックな三味線の音色の真髄を聴かせてくれたラストナンバー『JONKARA (旧節)』の触りを。

ここはぜひタイムフリーでお聞きください。
実際に目の前で聞くとその研ぎ澄まされて多彩な音色と空気感に鳥肌が立つようです。こんな音がたったの三本の弦によって、しかも動きが見えないほどの手の動きで表現されることに心底驚かされます。

「糸をバチで打つ、救う、弾くの組み合わせなんですよ。確かに先人たちはよくこんな技術を作ったと思いますよね」

と笑顔の上妻さん。三味線の音色について西洋と東洋の表現の違いで説明してくれます。

東洋と西洋の違いってのは単音かハーモニーかってところもあると思うんですね。
絵に関しても日本には水墨画があって、白と黒だけの世界でその濃淡だけで豊かな表現する、そこに(西洋の)色彩とかいろんな部分で海外とは違う絵の表面の仕方ってものもありますね。音楽も(西洋は)やっぱり石で作られた家の中で、どう響いてどういう言葉を喋って、そんな世界から生まれてくるメロディーてものがあると思うんですね。アジアは割と単音で、歌と同じようにメロディーを奏でる。海外の方は歌とはまたちょっと違ってハーモニー。ハモって音の厚みを作る。
和太鼓なんかもそうなんですけど、どどどーんといきなり叩くんじゃなくて叩く前から、手を大きく動かす動作があっての、ハッ、ドーンっってやるわけですよ。この一発が濃いというか、緊張感があってね。三味線もなんか弦がいっぱいあるわけじゃないので、一音のその情報量っていうか、空気を変えると言うかギターなんかの深みとはまた違う、東洋の楽器ならではの独特の世界観とかあるのかなと思いますね」

アルバムは最前線のEDMと伝統の音楽を行き来しながらその多彩な音世界を綴っていきます。

こはまさんはアルバムの中の朝倉さやさんをフィーチャリングした「MOGAMIGAWA (最上川舟唄)」に注目しました。「こーれーはホントに良かったですね」

「山形の最上川舟歌というのがあるんですね。船頭さんが 『♪ヨーエサノマッガーショ エー』って歌いながら舟を漕いでくれるわけ。 やはり民謡っていうのは、その土地のエネルギーやパワーが入っている音楽かなと思うんですね。今回、以前共演したことのある朝倉さやちゃんという歌い手さんが山形の民謡を勉強していて、今はJ-POPで活動されてる方なんですが、彼女のハイトーンがまたパワーがあって、そのハイトーンで歌ってもらうんだったらこの曲かなというのがあったので『最上川』というものをちょっとアレンジして、収録しました」

そんなアルバムを携えて今回は東名阪のみですが、ライブツアーを開催します。


上妻宏光LIVE TOUR "NuTRAD"

1月16日(水) 愛知公演】名古屋ブルーノート
1月17日(木) 【大阪公演】ビルボードライブ大阪
1月24日(木) 【東京公演】ビルボードライブ東京


「今回は『AKATSUKI』のトラックを作ってくれたYuyoyuppe(ゆよゆっぺ) くんという、BABYMETALとかもやってるんですが、加わってもらって。CD の音源曲をまあ再現するということもあるんですけど、DJと三味線のリアルタイムにセッションというのもやりたいと思いますし、朝倉さやちゃんも参加して、古典の民謡も何曲か歌ってほしいなと思ってます。

さらに、いつもお願いしてるピアノの伊賀拓郎君とかパーカッションのはたけやま裕ちゃんが参加してくださいます。デジタルとアナログの世界でも行き来しながら、あるいは古典の民謡ってものと海外の音楽ってものがあるので、日本と世界を行き来しながら皆さんに楽しんで頂けるライブになると思います」

どんなライブになるのかまさに見てみるまではわからない。そんなワクワクのステージに期待です。


そんなあたりで時間いっぱい。
上妻さんには来週もスタジオにおいで頂いて、さらに音世界を紐解いていただきたいと思います。

次週もどうぞお楽しみに。


  

上妻宏光 三味線プレイヤー Hiromitsu Agatsuma Official Website (外部リンク)

次回1月12日も上妻宏光 さんをお迎えしてお送りします。どうぞお楽しみに。