毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。お相手はちんです。
今回のゲストは平原綾香さん。 #平原綾香
2003年ホルストの組曲『惑星』の『木星』に日本語詞をつけた『Jupiter』でデビュー。またたく間に評判となり大ヒット。以降、クラシックやポップス、さらにミュージカルへと多様な表現で活躍を続ける平原綾香さん。
軽やかにジャンルを越えて縦横無尽に活躍するさまは他のアーティストとは一線を画す唯一無ニの存在です。
今回は最初からそんな原点に触れることができました。
爽やかなサックスブルーのワンピースでふんわりとスタジオに入ってきた平原さん。着席するとまずはご自身で選んでくれた疾走感溢れる爽やかなドライビングミュージックがスタジオに流れます。
平原まことの『Spring Wind』。そう、日本を代表するサックス奏者であるお父様の一曲です。
この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→ FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)
「父の音楽を小さい時からずっと聞いてきて、ドライブの時は必ず父のCDを聞いているという思い出がありますね。 それで、きれいな夕日を見つけると車を止めてオーディオの音をちょっと大きくして家族で見るっていう思いとか」
父親の平原まことさんは現役マルチリード奏者。祖父に当たる平原勉はトランペット奏者。後に姉のAIKAさんは、シンガーソングライター/サクソフォンプレイヤーとして活躍する音楽一家。小さい頃から音楽に溢れているご家庭だったんでしょうか。
「父はスタジオミュージシャンもやっているので『今日はジャズのレコーディングだったよ』とか『今日は演歌で吹いてきたよ』童謡とかポップスとかいろんな仕事があるので、音楽にジャンルというものが存在するって知らなかったんです、ちっちゃいときから。 クラシックもポップスの一部のような感じで。だから後になってからジャンルというものが存在するっても気付いたり」
ジャンルの存在を知らないってすっごいですね。そう考えると今のジャンルに拘らない活動はそこからすでに始まっていたんですね。
「ホントに影響ありますね。
最初デビューした時に私はサックスを吹いたりとかする歌手になるのかなと思っていて。でも大学1年生の時に私はジャズ科でサックスを吹いていたのですけど、クラシックを聞く授業をとっててそこで偶然先生が聞かせてくれたのがホルストの「惑星」だったんです。これを歌詞をつけて歌いたいってスタッフにお願いして今があるんですけれども」
名曲「惑星」はそうやって生まれてきたんですねえ。
「その後にアルバムを制作する時に、クラシックっぽいものもあればジャズっぽいものがあったり、ポップスだったり本当にジャンルがとにかくめちゃくちゃで、統一感がないアルバムになっちゃったんです。
途中からもっとみんなみたいに統一感があるアルバムを作りたいって目指したんだけど、どうしてもいろんな歌を入れたくなっちゃって。これはもう、このままで行こうって思った時にCDショップのPOPに『平原綾香の音楽は平原綾香というジャンルです』って書いてくださっていて。だからね、私頑張ってきてよかったってCDショップのその前で一人で泣くみたいな」
笑いながらお話してくれる平原さんですが、その言葉の中にはジャンルに囚われないがゆえの人知れずの苦悩もあったことがよくわかりますね。
そんな多様な活動の中で、とりわけ近年はミュージカル方面での活躍が目立ちます。
今年2月にはディズニーのミュージカル映画『メリー・ポピンズ リターンズ』でメリー・ポピンズの吹き替え声優と歌、そしてエンドソング「幸せのありか」(2月発売)も担当。これはディズニー作品としてははじめての快挙です。
「やっぱメリーポピンズって、世界の人たちがいろんな自分にとってのメリーポピンズ像を描いてる中で、どういう感じで声を演じて良いかってすごい迷ったこともあったりしたんです。舞台でミュージカルのメリーポピンズも演じていたんですけど。その舞台の後に映画の吹き替えのオーディションの話が来て、エミリーブラントさんの演じ方とかそういうものがもとにあったから、声を乗せていくという研究はしていたんですけど」
舞台で自ら演じるメリーポピンズと、エミリー・ブラント演じるメリーポピンズに声を乗せていくことは表現としてはかなり違って戸惑うところもあったということでしょうか。
「ありました。まずメリーポピンズは宇宙人なんだって言われて。宇宙人だったら私できるかもと思ったんですけど逆に(笑) メリーポピンズの謎めいたところとか 人間だけど人間でもない宇宙人だけど宇宙人でもないような、ツンとしているけど優しい。 そんな彼女の魅力を出すにはどうしたらいいんだろうと思ってすごく苦労しました」
映画のエミリーブラントさんのお声と比べて、平原さんは意図的にかなりトーンを変えているような気もしました。かなり意識されてますか?
「変えましたね。吹き替えで言うとエミリー・ブラントさんの声って結構低いんです。あんまり日本語で低いとすごい怖い感じでドスがきいてしまうのでちょっと上げたり。そしてイギリス英語を日本語で表現するにはどうしたらいいかかなり研究しました」
るほど。ちなみにどうするんですか?
「滑舌良く。そして迷いがない喋り、黒柳徹子さんの迷いがない喋り方」
ハキハキして品よく格調高く。
「そうです」
今回の「幸せのありか」に関しては劇中とエンドソングと2度聞くことができるんですが、やっぱり劇中ではメリー・ポピンズとして、最後は平原綾香として歌うことで意図したことや考えたことはありますか?
「できるだけ考えないようにしました。
このメロディ自体がとても泣けるので、これは色んな人にきいてもらいたいなあとそれを思って歌っていましたね」
「歌詞がいい。ホントにこの『幸せのありか』って歌詞がいいんです。英語の元々のタイトルは『なくしたものが住む場所』という和訳なんですけど『なくしたものが住む場所』ってなんぞやってかんじもしますけど、子供の頃からずっと大切にしていたものなのに、いつのまにかなくなってしまうものだったり、会えなくなってしまった人だったりそういったものを実は歌っているんですね」
映画の中では子守唄としてメリー・ポピンズが歌ってあげるんですよね。
「そうそう。子守唄なんですけど私ビックリしたのが、私姪っ子がいるんですけど、 初めて子守をしましたこの間の姉の子供なんですけどもロスアンジェルスに住んでいるので なかなか子守をする機会もなくてお前が初めてしたんですけど、寝ないんです全然。お母さんがいいとか絵本読んであげてもだめで。 最後の手段だと思って『幸せのありか』を歌ったんですが2小節目で寝ました! 」
音楽の力ってすごい。
「しかもカスカスな声で歌ってみたんですよ。シーって音はお腹の中の音と似てるって聞くので。そしたらすぐ寝てくれて、だから夜のお母さんたちに伝えたいです。歌詞もいいんですけど曲の持ってる元々のパワーが、やっぱりメリーの魔法がかかっているような作品なのでぜひ全国に広めたいですね」
スタジオでも笑顔でちょっと歌ってくれたりしてホントに素敵な歌声。
というかなんて贅沢な子守唄なんだろう。そう思っちゃいますね。
さて、続いてこれからの活動を垣間見せてくれるナンバーをも一曲紹介してくれました。
ただ今制作中のアルバムから先行して公開された「Radio Radio」です。
「こだわりのポイントはですね。ラジオに関する歌ってだいたいラジオに対して話しかける歌が多いじゃないですか。『壊れかけのレディオ』とか『本当の幸せ教えてよ♪』みたいに、 いろんな時代を生きてきたラジオに語りかけるんですね。それも素敵だったんですけど、そういうのって真似になっちゃうなと思って。なんかラジオを題材に、もっと平原綾香流で作れないかなと思った時に、ラジオから人間に語りかける曲を作ろうと思って。実はこのラジオは人間の女の子に恋をしているそういう歌なんですね。
でもそれはラジオでもあるけど実は人間の男でもあって、自分はいつもはラジオみたいにおしゃべりしてる人だけど君の前ではどうしても愛してるとは言えないとかそういう面白い歌詞の構成を考えました」
ラジオ賛歌でありラジオを愛する人への応援歌。
ラジオファンもそしてラジオに関わる人も泣いて喜ぶ、高揚感溢れる素晴らしい楽曲だと思います。
「うれしいなあ。きっとね。ラジオの人間の悲しみとか痛みとかそういうの消したいって思いがあったり、そのラジオの思いってのは、実は製作者でもあって。ラジオ業界で働く人たちが傷ついてる人たちを応援したいとか、震災にあった人たちもそうかもしれないけど遠くの人たちにもラジオで元気付けたいっていう思いを持って働いてる人たちがたくさんいる。それは話し手もそうだし、皆一人のメッセンジャーだってことを表現したかったんですね」
ラジオの周りに集う人たち。日々の生活の相棒として会いしてくれるリスナーのみなさんだけではなく送りての想いまでも包み込んでくれるような素敵な曲だなあ、と感激です。
もうひとつ、この曲では印象的な管(楽器)が入っているじゃないですか。
「あー。サックスのポヘーっての。あれは父です(笑)。あのため、あそこだけのために吹きに来てくれました」
親子共演だったんですね。
「『俺、あそこだけなんだけど大丈夫かな』って言ってましたけど。
コーラスには姪っ子が参加してくれてるんですよ。赤ちゃんの声です(笑)ちょうど姉も日本に帰ってきてて姪っ子抱っこしながら『ラ・ララララ』って歌ってたんです。アレンジは姉の旦那さん兄のニコラス君です」
そういうと嬉しそうに笑顔を見せる平原さん。
ああ、じゃあホントに一家総出で参加しているんですねー。
だからかな。この曲の暖かさというか多幸感みたいなものはそんなところにも関係しているんでしょうね。思いもかけず素敵なお話を聞くことができました。
そんな平原さん、この後も予定が目白押しです。
6月12日には、昨年、10月21日にNHKホールにて行われた、15周年の記念ツアー最終公演を
完全収録したDVD『平原綾香 15th Anniversary CONCERT TOUR 2018 ~Dear Music~』をリリース。そして6月15日からは、『平原綾香 CONCERT TOUR 2019 〜 幸せのありか 〜』がスタートです。
平原綾香 CONCERT TOUR 2019 〜 幸せのありか 〜
7月14日(日)福岡市民会館
※詳しくは平原綾香オフィシャルページでご確認を
今年もまだまだ新しい平原綾香さんに出会えそうですね。
「次はねスケート滑りながら歌うんです」といきなり言い出して笑う平原さん。
ええ。なんですかそれ。
「『氷艶』っていう宮本亜門さんのプロデュースの氷の上のミュージカルなんですけど、お相手が高橋大輔選手、荒川静香選手が出演されていて、私は歌担当で呼んでいただいたんですけど、滑るんです。滑らなきゃいけないんです」
平原さん、スケート滑れるんですか。
「すべれません。だからね、ある意味滑らないように気をつけながら今、練習している最中です(笑)」
氷艶hyoen2019~月光かりの如く~
7/26(金)〜7/28(日) 横浜アリーナ
始終笑顔で自身の音楽を語る平原綾香さん。
包み込むような優しい語り口で話されるその音世界は、ジャンルなんて関係なく、自由自在にそれぞれを自身の表現として取り込んでいくその姿勢についてなんだかよく理解できたような気がします。
ありがとうございました。
平原綾香 Official Website (外部リンク)
次回は、高田漣さんをお迎えします。どうぞお楽しみに。