1月12日のゲストはひきつづき、上妻宏光さんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。お相手はこはまもとこです。

今回のゲストは前回に引き続き三味線プレイヤー、上妻宏光さん。 #上妻宏光

昨年11月に発売されたアルバム「NuTRAD」はEDMと三味線の融合にチャレンジした意欲作。
先週はその制作意図と、三味線とEDMに取り組む難しさと楽しさを、生演奏も含めてお話しいただきました。

今週はさらにその音世界を紐解いていきたいと思います。


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まずはドライビングミュージックとしてチョイスしてくれたのは、「NuTRAD」から「BEAMS -NuTRAD-」。

この曲はデビュー作「AGATSUMA」の翌年に発表され、やはりエレクトリックやロックとの融合を図って鮮烈なイメージを与えた2nd「BEAMS~AGATSUMAII」のリードナンバーをリアレンジしたものです

「2002年ですから6年前ですね。1枚目の「AGATSUMA」がオリジナル曲5曲と半分が古典を入れたんですね。その1枚目のツアーをやってる時にディレクターから『上妻くん次は全部オリジナルでやろうよ』って言われたんですけど、1枚目でようやく絞り出した5曲だったので。しかもツアー中に『次は』っていやいや!インプットもしてないのにもう作るですか?って状況でなんとか作り出した1曲めがこの『BEAMS』なんです(笑)で、デキてみたら『結構キャッチーでいいじゃん』てことになってアルバムタイトルも『BEAMS』になったんですね。それを今回アレンジさせてもらって、今の感じのダンスチューンに仕上げました」

2つの異文化の融合という、今回の「NuTRAD」にも通じるテーマに挑んだ若き上妻宏光さんが、最新のクラブサウンドのアプローチで蘇って来たようなそんな感慨も浮かぶ楽曲でもありますね。

「自分で運転しながら聞いててもちょっと高揚感と、テンポも速いわけじゃないですけどこれからのこのリズムにこの三味線の譜割りがすごく良かったので、これは体が動くというかワクワクする感じになりますね」

このナンバーはじめ、EDM、Future BassやTropical House、ネオソウルといった先端音楽と三味線の伝統音楽が違和感なく一枚に収まった「NuTRAD」は、新しい音楽と出会う高揚感や新鮮な驚きにあふれています。

ワクワクってだんだん少なくなってくる感じがするんですよね。で、新しいものに出会うということも、大人になってくればくるほど、少なくなってくると思うんですよ。10代の頃とかって、1年長く感じるじゃないですか。でもこれが20代、30代、40歳になってくると、パッとみて『ああ、知ってる知ってる』ってなるし、朝起きるともう夕方!早い!早いじゃないですか。『あけまして』なんていってますけど、もう少ししたら『もう12月か』ってなりますからね(笑)。
僕がカザフスタンであったときのワクワクっていうか、中央アジアの音楽とかまだ世界中に知らない、出会わない音楽があったんだなと。そういうワクワクドキドキってのをアスタナ万博で感じて」

前回、お話しいただいたアルバム制作のきっかけとなったアスタナ国際博覧会での中央アジアの音楽との出会い、そして改めて感じた「踊る」ということへの思い。

そして「今」に切り込むために上妻さんは、最先端の若い才能を必要としました。

「『踊る』ということに関しては三味線っていうのは古典から伴奏としてあるんですね。ただ三味線(が主役)の音楽に踊りをつけるってことはないので、じゃあ逆の発想でEDMのトラックに三味線を乗せることで、三味線を知らないリスナーの皆さんにもこういうこともできるんだ、ということを知ってもらいたいなと。それなら同じ世代のクリエイターというよりは若い、20代とかのクリエイターを紹介してもらって、サンプルを聞いて『あ、彼の作る音楽はいいな』って思った人を何人かピックアップしてオファーをかけたんですね」

そうやって作り上げた今回のアルバム。
より具体的にその課程を探るために、一曲だけをピックアップして上妻さん自身に紐解いていただきました。

選んでくれた楽曲はアルバムのオープニングを飾る今回のEDMと三味線の融合を象徴するようなアグレッシブなナンバー「AKATSUKI」です。

アルバムがスタートしていきなり浮遊感溢れる電子音から始まり、何が始まったのかなと思いますね。そう言うと、上妻さん思わず笑顔です。

「意外性ですよね。ハッとするでしょうし そこから別になんだ次何だろうというワクワク感ですよね」

その制作の過程も今までの上妻さんのアルバム作りとはかなり異なっていたようです。

「EDM のトラックなんてもちろん作ったことないですから、僕主導というよりはまずトラックのベースを作ってもらおうかなと。

まずなんとなくイメージをスケッチで出してデモトラックを作ってもらったんですね。

その上で、自分はいつものような作り方ではメロディアスで、ちょっと合わないかも知れないと思って、三味線でリフのようなものを作って、トラックメイカーの子に渡したんです。なんとなく半分くらい作ってから実際にスタジオに入って、そこで『三味線でこういうこともできるぞ』とか向こうからも『こんなことはできないか』みたいなやりとりを重ねて、実際に録音してスタジオのスピーカーで確認して『うん、ここはもうちょっとこうしてもいいかもしんないな』ってことでもう一回スタジオに入って録音して、そうやって一曲デモを作り上げたんですめ。その上で、ようやく仕上がった音入れてからスタジオで、全体をバーっと頭から聞いて、OKこれでいいな、と思ってからちゃんと本チャンのスタジオで本番の録音をしたんですね」

つまり一回全部やり取りしつつ作ってみて、これで良さそうだって思ってから、もう1回録りなおしたわけですね。今までのやりかたとは全く違う工程。むしろ真逆の工程だったようです。

「それまでの僕の作品っていうのは、テーマがあったり 即興で演奏スタイルが多かったり、全部ミュージシャンであったり人が相手だったわけですね。
だから一度パーっとリハーサルやって『OK OK わかった』で当日スタジオに入って『じゃあ行くよ!せーの!』で、バーっと行くわけです。だから最近の僕の作品は一曲の中で最初と最後でテンポが違ったりしてるんですね。興奮してきて速くなってきたりしてるんですね(笑)。普通はドンカマっていってメトロノームみたいなものを使って、ダビングであとから直すこともできるんですね。 でも僕はスタジオに入る時、ミュージシャンに『絶対ダビングはしないから。一発で行くからね』と言います。緊張感がないとちょっと演奏が違うんですよ。だからもうできるだけ直さないと、そんな状態でやってるので、とても人間臭いところがあるんですね」

一方、デジタルとの取り組みは勝手が違ったようです。それでも上妻さんなりの工夫が随所に凝らされています。

「でも、今回はデジタルで。ちゃんとこう刻みがあるんですよね。テンポが合うということは必要なんですけど、それだけでは自分としてはつまんないな、と。そこであえてリズムからちょっとずらす、レイドバックっていう遅くからテンポやメロディを出したりして行き来をしようかなと。リズムがジャストのところ、突っ込んだところ、後ろにいくという3つのリズムのとり方でゆらぎというか、カクカクカクっていうよりは流れるような感じにしましたね」

つまりはデジタルでのグルーヴ感。最近のクラブサウンドやHip-Hopでも近年重視されるポイントを上妻さんも最初から自覚的だったことがよくわかります。さらに三味線自身の音色にもEDMと融合するための工夫が凝らされています。

「三味線の音ってちょっと強いんですよね」

確かに先週の生演奏を目の前で体験すると、三味線の音の力強さと迫力に圧倒されました。

「生で聞くとね。それで三味線の音色には、今回はエフェクトと言うか変化をつけているんですね。ディストーション、コーラス、ディレイそういったエフェクトを使うことでEDMになじむように工夫しているんですね」

そういった上妻さんの姿勢や三味線の音は、20代の若いクリエイターやDJも刺激を受けたでしょうね。

「やっぱり刺激しあわないとつまらないですよ。馴れ合いやなあなあになると、確かに阿吽というか良い呼吸はできるんでしょうけど、どこか緊張感というかそういうものが必要ですし。ステージに上って刺激し合えるからこそ、化学変化が生まれてくるんじゃないかと思ってますね」

今回、アルバムを携えて東名阪のみですが、ライブツアーを開催します。
『AKATSUKI』で組んだ、世界で活躍するサウンドクリエイターYuyoyuppe(ゆよゆっぺ)さんとのステージでのコラボレーションも楽しみです。

上妻宏光LIVE TOUR "NuTRAD"

1月16日(水) 愛知公演】名古屋ブルーノート
1月17日(木) 【大阪公演】ビルボードライブ大阪
1月24日(木) 【東京公演】ビルボードライブ東京



「リアルタイムに彼も音を作ることもできるので、今までにあまりない形態と言うか組み合わせですね。 そこで彼が僕の演奏に触発されて、あ、オモシロイと思った瞬間に彼の引き出しからまた違う音が出てくるという、そんなデジタルとアナログの融合が、今回3回やりますけど、毎回違うなにかしらアプローチになると思うので、それは僕にとってもまた新しい刺激をもらえるというふうに思いますね」

そんなあたりで、スタジオには改めて『AKATSUKI』が流れます。

ダブステップ的な緩急も鮮やかなビートと渾然一体となって上妻さんの三味線が近づいてくるようなサウンドに改めて驚きと、その一体感に不思議を感じます。そこには今までお話しいただいたリズムとの絡み方の工夫、エフェクターを積極的に活用した音色の工夫、さらに三味線ならではの奏法にも秘密はあるようです。

「すこし重さというかテンポの中でどう遊べるかという、リズムの置き場というかポイントがまたひとつ重要で。 三味線というのは例えばバイオリンなんかとは違うんですね。バイオリンは弦を弾くとスーッと音が出るんですが、三味線は打点が違う。ダンっと打ったらそこに点がいっちゃう打楽器に近いところがあるんですね。
だから、音を出した瞬間のリズムと、音を出した瞬間に左手で弦をスライドさせて、ズンと最初の音が出た瞬間に左をスライドさせてズゥゥーンと音を伸ばしながら長くタメてるんだけど、リズムに帳尻を合わせる。そこが僕の演奏の特徴という気がしますね」

ちょっと難しいですが、一音を出す瞬間に技術で変化と打楽器的というよりは弦楽器的なコントロールをしているということでしょうか。なんだかすごい。

そんなお話しをしながら、上妻さん、実に楽しそうです。
それは自身の音楽への絶対的な確信と、その一音一音に込められた思いを直接伺うことができて、私たちにとっても至福の時間となりました。

「いやあもう今年も楽しいですね。
クラシックもそうだと思うんですけども、バッハの時代だってモーツァルトだって、やっぱり当時は先端の音楽であるし、モーツァルトもその時代に何々が流行っていたらそれを取り入れているわけですね。
だから僕がやってることだって、別にものすごく新しいことではなくて、昔からあることなんですね。ただ、三味線の中ではまだまだそういった人が少ないということなんですね。
だからこれを大きくしてムーブメントとなれば、また三味線人口も大きくなるでしょうしリスナーも増えてくれるのかな。と」

そうお話する上妻さんの顔はキラキラと輝くようです。
そしてクラシックのお話しをしてくれたのは、これから取り組みたいこんな意図もあったようです。

「僕ら三味線はもともと口伝で即興でする音楽ですから、再現できるというのはクラシックってすごい音楽だなと思うんですね。だからこれからはスコア、譜面で残していくという作業もこれからどんどんやっていきたいなと思いますね」

やりたいことはどんどん拡大していくばかり。
そしてそれはすべて三味線がポピュラーな楽器として、広く世間に広まっていくこと。

愛用の三味線を少しグッと前に出しながら穏やかに笑顔を見せる上妻さんの挑戦はまだまだ続くようです。

上妻宏光 三味線プレイヤー Hiromitsu Agatsuma Official Website (外部リンク)

  

次回1月 19日はSINSKEさんをお迎えしてお送りします。どうぞお楽しみに。