毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。お相手はこはまもとこです。
今回のゲストは先週に引き続きマリンバ奏者のSINSKEさん。
昨年8月にデビュー15周年を迎えて、昨年12月にデビュー15周年記念アルバム「Prays Ave Maria」をリリース。
古今東西の「アヴェ・マリア」を集めた全曲「アヴェ・マリア」の意欲的な一枚。
あまりに多様な「アヴェ・マリア」の豊かで美しい世界と、それらをアレンジしてマリンバで表現するSINSKEさんの真髄も存分に味わえる一枚となりました。
今回もこのアルバムを中心に、たっぷりSINSKEさんの音世界を紐解いていただこうと思います。
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せっかくですから、今回のドライビングミュージックもこのアルバムから一曲。
『アヴェ・マリア ~カッチーニによる~』です。
この曲、シューベルト、グノーと並んで「3大アヴェ・マリア」として永年親しまれてきたのですが、ルネッサンス時代末期の作曲家カッチーニを名乗りながら近年、実は旧ソ連のウラディーミル・ヴァヴィロフの手になるものと判明したといういわくつきの一曲。
「ここも色々諸説ありますけれども。その当時はね、自分が作曲したのに他の人が作曲したんですよっていう話にしてしまって。その曲を神格化して有名にさせようという面白い試みですよね」
それにしても泣きのフレーズが美しい楽曲ですよね。とこはまさん。
「カッチーニが書いたにしては近代的なメロディすぎますよね(笑)。本当に美しいポップスのような和音進行があったり、そういった意味で今回の中でも一番ポップスに近いアレンジのスタイルを使いながら、クラシックと融合しているという形でアレンジしてみましたけれども。これドライブに向くんじゃないかなと思いながらアレンジしていましたね」
アルバムの中でもアクセントとなる一曲で、盟友、藤原道山さんの切り込むような尺八も印象的です。
「アヴェ・マリアって、どうしても全体的に少ししっとりしがちなところもありまして、やっぱり疾走感があるトラックっていうのは一つ欲しいなと思っていたんです。そこに風を切り裂くような道三さんの尺八のフレーズが入れば、何かこう風景が一気に噴き出すみたいな、そんなエネルギーがこのトラックに集まっていると思ってます」
そんな、多様な楽曲が収められている今回の「Prays Ave Maria」、楽しくて意欲的な一枚です。
「幼少時からの教会での経験というものが自分の元々のルーツっていうものを構築しているんだなっていうところに、今回はすごく自分でも感じられたと言うか、自分の中にスッと落ちてきた感じがありまして。 15周年記念ということで、今回しかこのアヴェ・マリアを出すタイミングはないなと思って、作らせていただきました」
こはまさんはライナーノーツをあわせて読み「アヴェ・マリアって聖母マリアへの祈りの歌で、全ての人達にとって自分を産んた母への賛歌でもあるんだなっていうのを改めてすごく思ったんですね」と感想をひとこと。
「そうですね、作曲されてる方も時代を超えて、本当に幅の広い1500年代から今まで生きてらっしゃる方も書いてますけど。それぞれの作曲家の中にマリア様ってのがいて、それは母なのか信仰心なのか分かりませんが その母の存在を曲にしていくってことで、それぞれ違ったアヴェ・マリアがどんどん出来上がってく。そしてこれからもどんどん増えていく。それは世代を超えて時代を超えて曲が愛されてきた一つの理由でもあると思うんですよね」
いろいろな時代や国を超えたアヴェ・マリアが収められていますが、「アヴェ・マリア デビュー15周年記念メドレー」も収められています。ジョスカン・デ・プレやアルカデルトといったルネサンス時代の作曲家から、メンデルスゾーンのロマン派、そしてブルックナーと時代をどんどん新しくなるという趣向も楽しい一曲です。
「音楽がだんだんわかりやすくなっていくという。最初のうちは混沌とした和声の移り変わりっていうものが近代化していくにつれて一つのメロディーが際立ってだんだんとフィーチャーされていくっていうところもがらタイムトリップをしているようで。そんな作品になったらいいなと思って今回メドレーを編集しましたね」
そして、このアルバムにはSINSKEさん自らが作曲した「アヴェ・マリア」その名も「Prays Ave Mari」も収められています。
今日はこの曲をじっくりと紐解いていただきましょう。
古今東西の名作を前に自分の「アヴェ・マリア」を書くにあたっては、やはりかなりのプレッシャーがあったそうです。
「今回作品を書くということを自分で決めてから、最初のうちはやっぱり歴代のアヴェマリアが迫ってくるんですよね。
いろいろ分析したりすると、お互いスタイルとしては関連性はほとんどないじゃないですか。モーツァルトはカノン形式で書かれてたりとか、聖歌の形式で書かれていたり、グレゴリオ聖歌の流れもあったりするので。そう考えると『アヴェ・マリア』っていうワードにとらわれすぎるとこれは書けなくなるなと思って、僕がこのアヴェ・マリアに対する『思い』ってものを曲にすればいいんだということで、この『Prays Ave Maria』というタイトルに落ち着いたわけなんです」
その思い。
語り始めるとまるでSINSKEさんの口から言葉が音楽のように溢れるようで、それはまるで楽曲をそのまま言語化したようでもありました。
「僕が元々留学をすると決めたのがベルギーのアントワープというところなんですけど、アントワープの大聖堂っていう聖堂がありまして。そのカテドラル、大聖堂は青空の中に白い塔の教会がガーンとそびえていてそこに大きな金色の文字盤が光っているんです。
そこに自分が最初に入っていた時に受けた感動、その感動によって僕はこのベルギーのアントワープっていう町に住みたいって思ったんですよね。
その場所は、『フランダースの犬』のあのキリスト降架でネロが跪いたところなんです。僕の中では自分のルーツである教会と、何か繋がったのかもしれないですが、それを理由に僕は留学先を決めてしまった、というほどのシンパシーを感じたんです。
この曲っていうのは僕はその時の茶色い重いドアをね、白い美しい外側からガって中に入っていく時に、ひんやりとしたちょっと土の香たいな匂いとともに美しいステンドグラスがふわっと見えてきて、その教会に一歩一歩歩みを進めているときの感覚 。そして聖母マリア像があって、あそこに座って僕がちっちゃい頃に何かお祈りをしているようなイメージを込めてこの曲を作曲いたしました」
すごく画が思い浮かぶんですね。最初ピアノがガーンガーンとなるのが大聖堂の鐘の音...
「そうです、鐘の音なんですね。そこが一番ポイントになっていて。
入口からだんだんこの中に向けて歩みを進めると、周りの美しさなどに感動しつつ、だんだん中に行くに従って『ああ、もっと前に行ってあれを見たい』っていうその思いっていうものが、テンポがだんだん上がっていったりするところにつながっているわけなんですけど。
曲がずっと進んでいくとですね、そのまま気持ちが盛り上がって自分の思いを祈りに捧げ、その後お祈りを一心に捧げている時にフッと周りがなんか白くなった瞬間、みたいなのがあって。そこで一気に全部の楽器の音が無くなって僕のソロになるんですけど、何か自分の気持ちがスッと軽くなっって周りが真っ白になる。実は僕そんな夢を見るんですよね。あの夢の中で自分がすごい真っ白な空間の中にいるような、その時の情景っていうものアレンジの中で取り入れてみたんです」
その感想はこはまさんの以下の言葉に集約されています。
「やっぱりその情景というのが目に浮かんできますね。行ったことないのにでもその話を聞き、そしてこの曲を聞くと教会が目の前に現れて、自分がドアを開いて歩みを進めていく。この物語の中ではSINSKEさんがそうやって歩みを進めることを曲に落とし込んだのだと思うのですが、でも聞く人一人一人がそうやって自分が主人公になって歩みを進められるなと思いました」
SINSKEさん、我が意を得たりと思わず顔をほころばせました。
「やっぱり楽器音楽っていうのは歌詞がないぶんだけ。それぞれ聞いているリスナーの方の立場に立って、私はこういう教会を見たっていうその思いをそこに乗せることができる。それは歌詞がない分、限定されてない世界だからだと思うんですよね。皆さんにとっての『Prays Ave Maria』をそれぞれ頭の中で構築してストーリーを作っていただけたらなと思いますね」
3月に福岡で行われるコンサートではこのアルバムを携えて広田圭美さん(ピアノ)、服部恵さん(マリンバ)そして藤原道山さんをスペシャルゲストに迎えての編成で行われる予定です。
SINSKEデビュー15周年記念マリンバコンサート「Prays AveMaria」
2019年 3月 14日(木)福岡シンフォニーホール
開場 18:30/開演 19:00
アクロス福岡シンフォニーホールという会場では、どんなコンサートになりそうでしょうか。
「壮大なコンサートホールなので、自分の中の想像力がさらに広がって教会堂の中で演奏しているような、先ほど話した教会堂が重なってくるんじゃないかなと思います。良いコンサートホールで叩くとマリンバのパイプの中で鳴った音が、上に行ってるよ!っていうのが矢印が見えるような感じがするんですよね。 それはシンフォニーホールでもきっと矢印が見えるんじゃないかなと思っていて、心待ちにしています」
今回はA席については学生さんは無料です(S席は1,500円)。
「僕はマリンバのいい音を聞いてマリンバをやりたい、と思った人間なので。僕はそれが21歳だったんですけど、もしもっと若い頃に聞いてたらもっと早く始められたかもしれないと思うと、是非皆さんに最高のコンサートホールでマリンバの音を聞いていただきたいと思います。」
2週に渡ってお送りしたSINSKEさんの音解。
いつも楽しいお話を聞かせてくれるSINSKEさんですが、今回はこのアルバムを通して自身の原点に関わるお話しもたくさん聞けたように思います。
ずーっと笑顔で柔らかな物腰の向こうには、音楽へのアツイ情熱がありました。
また次回の登場が楽しみです。
ありがとうございました。
SINSKE OFFICIAL WEB SITE (外部リンク)
次回2月2日は、瀬尾一三さんをお迎えしてお送りします。どうぞお楽しみに。