12月22日のゲストは、中村中さんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手はちんです。

今日のゲストは中村中さん。 #中村中

歌手として役者として幅広いフィールドで活躍し熱い支持を受け続ける中村さん。
表現者として自身をさらけ出し、社会と自分たちの間に横たわる違和感や意味を問い続け、一方で普遍的な愛を歌うアーティストです。

そんな中村さんの今日のドライブミュージックは、KIRINJIの『時間がない』。

「ま、KIRINJIが好きだっていう(笑)。 堀込高樹さんの詞が好きなんですね。 もちとんサウンドメロディも好きなんですけど。
私がよく仕事仲間とか飲みに行く友達が、割と年齢が自分より20個とか30上の人と仲いいんですけど、みんなが口々に言うんですよ『時間がない時間がない』って。『やりたいことやらないとお迎えが近い』なんてね、おっしゃる(笑)。 そういう世代と付き合ってるとこの歌は染みますね(笑)。 ドライブ好きなんですけど、爽快な気持ちで運転するよりもそこに少し憂いを感じながらアクセル踏むのが好き

爽快なのに憂いを含んだ、いかにも中村中さんらしいドライビングミュージックがスタジオに溢れて、今日のドライブも楽しくなりそうですね。


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そんな中村中さん、今月5日に8枚目のオリジナルアルバム『るつぼ』をリリースしました。

墨絵師、東學さんが全裸の中村さんにに「蛾」のペイントを施した美しくも衝撃的なビジュアル、そしてジャケットから今回のアルバムへの意思が感じられそうです。

今回のアルバムは現代の『おかしなこと』をテーマに書き下ろした全10曲が収録されています。

『おかしなこと』とは何なんですか?

「私がおかしいなと思ってることなんですけど、例えば過重労働が問題になっていたり、あるいは格差社会の中で苦しんでる人も多いし。今年はね夏に『LGBT は生産性がない』なんていう、だいぶキャッチーなコピーをね。 ちょっと論点がどこにあるのかがわからない」

世間でも大きな議論となったあの一件は、今回のアルバムのトーンを決定づける大きなきっかけとなったようです。

「でもま、取るに足らないなって思ったけど、でもちょうどアルバムを作ってる時期だったんですよ。これはちょっと私もなんかカウンターを当てなくちゃなと思って。まあまあ腹が立ちました(笑)。 自分一人だったらそんなでもないんですけどなんかこう LGBT 当事者の友達とかのことを考えると腹が立ちましたね」

今までも様々な形で戦い続けてきた印象の中村さんですが、今回のアルバムはとりわけそういったメッセージが強く心に届きます。

「なんかこのタイトルもそうですし、私は怒ったり悲しんだりしてますけど、私自身もそういうウジャウジャした現代社会の中で、混沌としているものの中に入っているし、抜け出せないし一人では生きていけないし。でも、その中ででも、どうやって己をなくさないようにするかとかね。

大きな流れに巻き込まれそうになるじゃないですか?発言とか人と違うことを恐れてしまったりとかね。 私はその中でも、自分の好き嫌いとかは守らなくちゃなと思って、そういう現代社会をどう生きるか みたいなことやりたくてこのアルバムを作ったところはありますね」


2015年のオリジナルアルバムとしては前作に当たる「去年も、今年も、来年も、」では、中村中ならではの心地よいAORやフォーク、スカなどバラエティ豊かな音楽にコーティングされた自身のやるせない心情や問題提議を含ませる独自の音楽性を極めた感もありました。

対して今回の「るつぼ」では音楽的にもメッセージ的にも強い意思、決意のようなものを感じる気がしますが。

「ちょっとありますよ。シンガーソングライターだし、常に今を書こうっていうような思いと、あとは今回気をつけたのは、自分の言い方で書こうってことですかね。例えば『去年も今年も来年も』とかっていうのは、チームで万人に聞けるようなものを作ろうとかね、まやかしのような言葉が飛び交うわけですよ(笑)。『老若男女に響くように』とかね、響くかどうかは個人の感じ方だからって私は思うタイプなんですけど。 でもチームで考えてることだから、一回それをやってみようと思って取り組んだのが『去年も今年も来年も』でした。

それもやったおかげで今回は、意識して自分の描き方にする。多少耳障りが悪かったり分かりづらい表現でも『私だって話し言葉でこういう風に言うもん』みたいな。そこはかなり気をつけて書きました」

今回はサウンド的にも、今までになくアンビエントやヒップホップの要素が強く感じられますね。

「デモを作ってるときからそんなイメージだったんです。アンビエントのところが深夜の感じを出したかったんですけど、今回ヒップホップのアプローチ多いのは今、時代が人間と機械、携帯電話とか SNS、ゲームのオンラインとかもそうですけどもすごくそれがせめぎあってるイメージがあって、そこを生演奏のものと打ち込みで表現できたらいいなって言う」

中村中さんはどうしてもメッセージや生き方に注目されるところが多いのですが、「音楽家」としての部分はもっと注目されるべきって思ってるんです。

「あら、私音楽家として注目されてると思ってますよ(笑) 」

あ、すみません。
「パフォーマー中村中」と「音楽家中村中」は、また違う顔があるような気がして。

そんなお話しは、このあと更に続きます。

ともあれ、結果できあがったものは、一曲一曲に中村さんの中にある苛立ち、不満、問題定義、悲しみ、そんなことを全体として表現していきながら、最後の一曲でそんな諸々をすべて受け入れて踏み越えて前に進もうという素晴らしいアルバムとなりました。

そんな中から更に一曲ピックアップして、中村さんにさらに深く音世界を紐解いてもらいました。

そのナンバーは「裏通りの恋人たち」。アルバムの中でも一番ポップかつ、冒頭のちょっとスモーキーな感じや歌い方、歌詞の譜割りも含めて、とてもヒップホップ以降のポップスを感じるナンバーです。

「今回、ヒップホップのアプローチが多くて。ヒップホップってはっきり政治批判とかもするし、今回私は現代社会の嫌だなと思うことを書いていたし、それをなるべく自分の言葉で書こうっていうことを意識してたんでヒップホップのトラックを使うっていうのが私の中でつながっているんですね」

つまり今回のアルバムを表現するには精神的な意味でもヒップホップ的である必然性があるというわけですね。
その一方で、中村さんならではのユニークな視点で書かれた歌詞にも注目です。

「『裏通りの恋人たち』は『上手く波に乗らなきゃ弾かれる、僕ら裏路地の野良』って歌詞が出てくるんですけど、これが野良猫だと思って聞くと色々面白いという。都会のイメージなんですけど、どんどんオリンピックとかに向けて東京は競技場を建設したり、外国のお客様が泊まる場所とかすごい建物が立ってるんですけど、古き良きものと言うか自分が住んでる街とかもどんどん景色が変わっていく。だけど、猫の嗅覚で生きていれば、どんなに街並みが変わってもあたしたちは愛しい人に会えるのだと。あと猫目?猫って夜でも目がきくから、野生的な嗅覚と夜も見える目でこの先どんな暗闇に包まれようとも絶対愛しい人に会ってやる。みたいね。そんなイメージで聞いて欲しくて」

そこにはやはり先程のあの一件が大きく関わっていました。

「その暗闇がなんなのかってことなんですけど。さきほどちょっと触れました今年の夏の『LGBT は生産性がない』という言葉を言われて、あの言葉があってから最後に書いた曲なんです。掲載された内容を読んで、やっぱり人に影響力を与える立場の人が言うにはちょっと不適切な形になったなと思ってね。
私はやっぱりそこに腹も立ちましたし、そこに何かカウンターをと思って書いたんですが、そこでただ反発するだけでは能がないと思って、なるべく愛しい人に会いたいっていうのはあなたも同じじゃないですかっていう結びにしようと思って」

恋人たち、恋愛、そして裏通りの人たち。
ある意味中村中さんがずっと大切にしているモチーフを織り込んだ含蓄の深い歌詞に対して、メロディ、アレンジはとてもPOPで可愛らしいサウンドが印象的です。

「それはねやっぱり楽しくいきたいじゃないですか(笑)裏通り歩くのでもルンルンと歩きたいでしょう。下向いてくるとね寂しいですし、やっぱりそれはバランス感ですよ」

そう言って笑う中村さん。
味付けはいつも甘口辛口に絶妙に調整されながらも、楽曲として最終着地するポイントは決してハズさない。驚くような多様な音世界を送り出し続けるのクリエイターとしての確かな技も感じられます。

ここでちょっと意地悪なこんな質問をぶつけてみました。

『中村中、実は曲を作っているのか説』というのがありまして... 』
とりわけアルバムでの曲順について色々言われているようで。

「私ね時々書かれるんです(怒)。たぶん本人が曲順作ってないなとか、このプロデューサーだったからこの曲順になったんだなとかって書かれることがあるんですけど、すごいムカついてます。デビュー盤以外は曲順を誰かに作ってもらったことないですもん

もちろん、今回のアルバムを全て作詞作曲をアレンジメンバーの人選も含めて中村中さんの手になるもの。

個人的な意見では、常に表現者としての存在にスポットライトが浴びる一方で、作家としては過去から今までずっと楽曲ごと、アルバムごとに全く違うサウンドがあり、本当に一人の人が曲を作っているのかな?と思われるほど多彩な音作りゆえという気がしてます。

中村さんのバラエティ豊かな楽曲作りの秘密については、発言の中にその答えがハッキリありました。

「今回の『るつぼ』とかもそうなんですけど、いつもコンセプトアルバムを作ってるつもりなんですね。そういうコンセプチュアルに作る時って、曲それぞれに、なってもらう役割っていうのがあって、 例えば『箱庭』はゲームの世界に自分の居場所を求めてる人、『不夜城』だと過重労働に苦しんでる人っていうふうに、登場人物みたいに考えてるんですね。そうするというかその人の性格とかも置かれてる立場も変わるじゃないですか。だから、私じゃない主人公だからかもしれないですね」

クリエイターとしての自我というよりは、すべては作品に対する奉仕の方が上回ってるということなのですね。それは簡単に言えば、無意識か意識的か、聞けば誰でもわかるような「〇〇印」のような烙印を押すような「エゴ」がないということ。非常にプロデューサー的な視点で作品作りをされていることが分かります。

プンプンしつつ楽しむような中村さんの口からはそんな、音作りから表現までをすべて引き受ける覚悟と自信に溢れているように思いました。

いやほんとにごめんなさい。でも、すごく本質的な部分を聞くことができました。

そんな、自信作を携えてのライブ、いやが上にも期待が高まりますね。

『中村中 アコースティックツアー 阿漕な旅 ひとりかるたとり』

広島公演 2019年1月10日(木) 『Live Juke』。
福岡公演 2019年1月14日(月・祝) 『Gate's 7』

※詳しくは、中村 中 オフィシャルサイト「中屋」 (外部リンク)にて。


「アコースティックギターをメインに、ピアノがある場所ではピアノを弾こうと思います。『るつぼ』は結構アレンジが多彩なんですが、一人で回るのでデモ音源に近いというか、詞とメロディーがくっきりと伝わるライブかなと思います。今回のナンバーも入っておりますからね、是非一緒に参加して楽しんでいただきたいと思います」


そんなわけで、とても濃密な時間となった今回の音解。

中村中さんは楽しい場では楽しく、正面に向き合えば向き合った人に誠実に答えを返してくれる人。そんな一方的な信頼感があって、中村さんでしか聞けないような失礼な質問も真っ直ぐに投げさせてもらったんですが、やはり面倒な質問にも自分の思うところを、まっすぐに答えを返してくれました。

そしてその言葉は淀むことなく、時に笑顔で流れるようにこちらに届いてきます。
中村中さんのそんな魅力の一端をみなさんにお届けできたのでは?と思うのですがいかがだったでしょうか。

最後に中村中さんからみなさんにメッセージ。

「年末年始、楽しいことをいっぱいあるでしょうから、体調には気をつけながらしてください」

そういってフフと笑う中村中さんでした。

  

中村 中 オフィシャルサイト「中屋」 (外部リンク)

次週、12月29日は、THE BAWDIESをお迎えします。どうぞお楽しみに。