毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手はこはまもとこです。
今日のゲストはフラメンコギタリスト、沖仁さん。 #沖仁
この親しみやすくて優しそうな沖さん。実はスゴい人。
3大フラメンコギターコンクールの一つであるムルシア"ニーニョ・リカルド"フラメンコギター国際コンクールで、日本人で初めて優勝したことをはじめ、ジャンルも国も越えて大活躍。
傍らに愛用のフラメンコギターを携えてにこやかにスタジオ入りです。
この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→ FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)
沖さんが今日のドライビングミュージックで選んでくれたのはJosemi Carmonaの『Ni Contigo Ni Sin Ti (feat. Alex Cuba)』。
「スペインのマドリッドの人でフラメンコギタリストではあるんですけど、元々ケタマって言うスペインのポップスグループをやっていて非常に洗練されたセンスなんですね。 この曲もいわゆるフラメンコサウンドと違うんですけど根底にはフラメンコギターとリズムがあって最先端な感じのスペインのフラメンコポップスみたいなことになりますね」
やっぱりスペインはフラメンコベースのポップスが主流なんですか?
「カフェとか入ってるとポップスは流れているけど、絶対にフラメンコギターが入ってます、うん。 ほぼ100%。フラメンコギターが入ってないと物足りないみたいな感じがあるのかな」
あのフラメンコの独特のリズム、あれ やろうと思ってもできないですよねえ。
「向こうのロマ民族の人たちはリズム遊びで一晩中遊んでるくらいですからね。手の叩き方『パルマ』って言うんですけど、それだけが仕事の人もいるくらいで奥深いんですよ。うん。 住んでる街によって叩き方が違うとか、ノリが微妙に違うとかその町の地区によってまた違うとか、まあすごいマニアックな話になっちゃってますけど(笑)」
「こういう音楽を聞くと、向こうのタクシーに乗ってる時の感じを思い出しますね。絶対フラメンコだったりフラメンコポップスがかかってますからね。うーん。運転手さんも運転しながら叩くんですよねパンパンパンパン。危ないんだけどね(笑)。学んで身についたと言うより湧き出てくる、止められないんでしょうね」
そんな沖さん、10月31日に日本スペイン外交関係樹立150周年を記念した、初のスペイン作品集『Spain』をリリースしました。
ロドリーゴの『アランフェス協奏曲』、タレガの『アルハンブラ宮殿の思い出』など、今まで収録する機会を温めていたスペイン由来の楽曲の他、ライブの定番曲『禁じられた遊び』、チック・コリアの『スペイン』など新しいアレンジで再録音した楽曲を収録。また、ボーナストラックには、大人気アニメーション『ユーリ!!! on ICE』で使用する楽曲『愛について?Eros?』の沖仁バージョンも収録されています。
今までもスペイン音楽とっ取り組んで来た沖さんですが、クラシックの名曲が多数収録されてタイトルも「スペイン」でザ・スペインという趣。
「実は初めて弾く曲がほとんどだったんですよね。 クラシックギターの人が弾くのは当たり前なんだけど、それは僕らフラメンコギタリストの領域じゃないよ、みたいな。ちょっとナワバリの話じゃないけどそういうのがあるんですよ。それを踏み越えてみましたってことなんですね。」
なんと、そんな暗黙のなにかがあるなんてびっくり。
「そもそも僕らフラメンコの人間って五線譜が読めないからドレミが分かんないんですよ(笑)。ドの上だからレだろうみたいな(笑)クラシックの人はパッと初見で弾くじゃないですか。全っ然できないですよ。どんだけ苦労してるかっていうくらい大変なんですね。僕も少しクラシックをかじっていたので、全く読めないわけじゃないけれど、どえらい苦労しながら『これ本当にあってんのかな』って思いながらやってました。フラメンコの僕らはクラシックに手を出しにくいってのはそういったハードルもすごくありましたね」
なんか、初めて聞く驚愕の事実ばかり。スペインのギターの音楽だからなんとなく同じかも?なんてざっくり思っていたので意外でした。
「フラメンコってのはもともと即興性が高いし、ドレミで誰も解釈してないくって、手の形で覚えるんですよ。そもそも教わるレッスンとかも、師匠が目の前にいてその手の形を真似して同じように弾くってそういうレッスンなんですよ」
すごい。まるで落語か三味線のお話のようです。
「そうですね、民俗芸能ですよねフラメンコってのは。だからやっぱり、アカデミックなクラシックの世界とは水と油っていうところはありますよね。うーん」
そもそも沖さんはエレキギターから入って、カナダでクラシックギターと出会ったわけですよね。そこからフラメンコギターだって思ったのは何だったんですか?
「何か悩んだんですよね。当時クラシックギターでアメリカの音楽院に留学をすることが決まってて、クラシックって子供の頃からみんあがやってるじゃないですか。僕なんて高校出たぐらいから始めたもので、どこまで通用するのかって、そういう不安ももちろんあったし」
ギターを極めるべくクラシックの道を一度は選んだものの、沖さんにとってはそんな技術的な不安とともに、クラシックの世界と自分の相性みたいな漠然とした不安もあったようです。
「路上で弾くのとかすごい好きで。クラシックをかじってたけど、それを路上でいつも弾いたり、カナダのカフェとかに行って弾かせてくださいつって、結構いいよ! って言ってくれて、ギャラは出せないけど夜ご飯食べさせてやるからとか、そういうノリが好きだったんですよね。そういう感じってクラシックのかんじと折り合わないような気がしてたし(笑)どっちかというとフラメンコに近いですよね、ストリート感とか。うーん。日銭を稼ぐとか、そっちに惹かれている自分がいて、その狭間で悩みましたけど結局勢いでフラメンコに決めちゃって、うーん」
そうやってフラメンコの道に進んで。
今回あらためてスペインのクラシックの音楽と向き合って発見はありましたか?
「すごくいっぱいありましたね。全部知ってるんですけどね曲は。それでなんで知ってんのかなと思った時に、自分の兄が子供の頃に聞いてたんだってこと思い出したんですよね。一歳上の兄がいて、幼少時代に隣から聞こえてきてたんだけど、それで自分の体に入ってたんだ、なんてこと今更気づいて。ロックとかやる前にそれが伏線として、スペイン音楽ってものが自分の中に入ってたんだってことに気づいたし、うん、だから、それを自分が今この歳になってやるって言うことは、何か今になってそういったことが解けて、何かひとつになってきたような手応えだったり、うん」
そんな自身の原点に思い当たったり、そしてなによりフラメンコギターにも改めて向き合う契機にもなったそう。
「フラメンコギターって豊かなものだなあと今回本当に思いましたね。激しくかき鳴らして人を高揚させて躍らせるだけじゃないって言うか、ほんとにクラシックのオペラ歌手の方が歌いあげているメロディーをフラメンコギターでやるっていうことの重圧ももちろんあったんだけど、アリだな!ってやっと思えた っていうかそれは初めてでした。うん」
クラシック好きでコーラスもやっていたというこはまさん。2曲めに入っている歌劇「カルメン」からの一曲「ハバネラ」はいつか自分で歌いたいと思っていただけに、沖さんのギターの表現にいたく感激したそう。
そしてもうひとつ思い出したのは、当番組でもすっかりおなじみの小曽根真さん。近年、ジャンルを超えてピアノという共通項でクラシックの世界に果敢に挑戦していくお話が、ギターを端緒にジャンルを超えてクラシックに挑む、沖仁さんの姿に重なるところもあり、「クラシックとフラメンコ」って「クラシックとジャズ」の関係にも似ているなと思いました。
「わかります。若い頃はクラシックってちょっと堅苦しいとか、それより『俺は溢れ出るパッションだ!』みたいなところもあったけど(笑)今さらながらクラシック音楽の偉大さっていうのが、歳とともに切実に感じるっていうか。そのこだわり抜いた『この1音じゃないと駄目』って書いたその1音の重さ、っていうのはやっぱりすごくあるし、それが何百年の時の洗礼を経てそれでも生き残ってきた、その説得力ってすごく今感じますね。うーん」
一方、今回のアルバムを聞くとクラシックの名曲たちの根底にもやっぱりスペインの音楽が流れているんだな。逆にそんな発見もありました。
「スペインのファリャ(はかなき人生)アルベニス(アストゥリアス) ロドリーゴ(アランフエス協奏曲)とかっていう人達の、特に今回収録した作品はフラメンコギターをかなり意識してるなーってのやってみてわかりましたね。だからこういった曲をフラメンコギタリストとしてカバーするっていうのは、作曲家の人たちも実は嬉しいんじゃないかな、みたいなことは勝手に思ってますよね。 そうあってほしいなというか。作曲家の人が聞いて、『なんだこれは』ってなんないで、『実はこういうことを意図してたんだよ』って言わせたいな、みたいなところは実はありましたね」
なるほど、このあたりは小曽根真さんも全く同じ様な事を、以前この番組でお話されてましたね。
今回のアルバムはそういう意味も含めて、「スペイン」というタイトルで改めてスペインの音楽に取り組んで新しい扉をまた開いたところもありそうですね。
「すごくそうですね。まだまだ色々やりたいことが増えたと言うか、うーん。そうですね。フラメンコギターっていいなあって(笑)今回思いました」
繰り返しそう言って顔をほころばす沖さんのお顔を見ながら、今回、一番の収穫はこれなのではって思いました。それは意外と得難いことですよね。
沖仁 CONCERT TOUR 2018 福岡公演
福岡・電気ビルみらいホール
開場 16:30/ 開演 7:00
沖仁、崎洋一(Piano)、智詠(Guitar/Cho.)、容昌(Perc.)
今回の興味深くて楽しい話をたくさん聞いた上での今回のステージ、とても楽しみです。
「シンプルにフラメンコギターの豊かさだったり、奥深さだったり1音生まれただけでフワッとこう何か幸せな感じが自分の中に広がるんだけど、それをお客さんにそのまま伝えたいなと思ってます。ぜひいらしてください」
「随分マニアックな話になっちゃったなあと、何か心配だったけど(笑)何か話しながら気づいたこともあったし、小曽根さんもジャズの方だけどクラシックに挑戦してるし、話してて新しいものも感じられました。」
まだまだマニアックなお話もありそうで、いろいろお話を聞かせていただきたいところ。
落ち着いた声でニコニコお話をしていた沖さんですが、傍らをちょっと見て、
「フラメンコギター持ってきたけど触らなかったですね。」
来週もお迎えしてこの続きをぜひ。
フラメンコギターももしかしたら?
どうぞお楽しみに。
次週、11月24日も引き続き沖仁さんをお迎えします。どうぞお楽しみに!