10月6日のゲストは小曽根真さんです。

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小曽根真さん

毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手はこはまもとこです。

今日のゲストは小曽根真さん。 #小曽根真

昨年も登場いただいて楽しいお話をたくさん聞かせてくれた小曽根さんですが、この間、名門オーケストラ『ニューヨーク・フィル』との共演、その感動のステージを収録した初のクラシックアルバム『ビヨンド・ボーダーズ』のリリースとその活躍と進化は留まることはありません。

今回はそんな溢れるような音世界の話にとどまらず、ラジオの前のみなさんの人生にも響く金言いっぱいの聞き逃がせない音解となりました。そんなわけで、今回はその一部始終をできるだけ再現。詳しくはぜひタイムフリーでお聞きください!

この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→  FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)


小曽根さんは昨年12月2日から4日、ニューヨーク・フィルの本拠地、NYリンカーン・センターにあるデヴィッド・ゲフィン・ホールで開催された定期演奏会にソリストとして出演しました。

「これはね、僕の人生設計の中には微塵もなかったですね。僕が2014年にアジアツアーに参加させていただいたというところから始まるんです。今年レナード・バーンスタインの生誕100周年のフェスティバルを世界中でやってるんですね。ニューヨークフィルというのはバーンスタインさんが11年間音楽監督を務めた地元のオーケストラなんですが、この指揮者のアランギルバートっていう指揮者とすごく仲良くなって、バーンスタインの100周年のコンサートには真に弾いてほしいといわれたんです」

そのコンサートを収録したのがアルバム『ビヨンド・ボーダーズ』です。
3日間の公演はすべてソールドアウト。終演後のスタンディングオベーションが鳴り止まなかったとか。

そしてこの日の演奏曲にも小曽根さんが注目される理由がありました。

「普通コンサートでピアニストが出るときってのはコンツェルト(協奏曲)なんで前半にやるんですよ。そして後半はシンフォニー(交響曲)ですからピアニストはいないんです。ところが今回は前半に『Rhapsody in Blue』っていうガーシュインのピアノコンツェルトを弾いて、後半に『不安の時代』という交響曲をやるんですが、これは実はピアノフィーチャーの交響曲なんですね」

通常、ピアノが入らない交響曲ですが、バーンスタインはピアノフィーチャーの交響曲を作っていたんですね!

「そういうことですね。 それだけでも画期的なのに、おそらくバーンスタインさん本人がピアノ弾く人なのでおそらく弾き振り(演奏しながら指揮をすること)を考えて書いたんじゃないかなと思うんですね。でこの『不安の時代』は、テーマもそうなんですけど、人生のドロドロした物語があるんですね。25分間その物語をずっと通ってきて、最後に『赦し』の部分があるんですよ。最後の5分間で神様が天からワーッと光を降り注いで降ろしてきて、みんなが赦されるっていう愛につつまれる音楽なんですけど。その最後の5分間の為に、めちゃくちゃめんどくさいところを25分間みんなで旅しなきゃいけないすごい曲なんです(笑)ヘビーなんですよ」

「ちょうど第二次大戦の最中に男3人とある女の1人がニューヨークのバーで会ってね。みんなでその戦争の事について語ったりとか言うイギリスのオーデンって人が書いた『不安の時代』という詩があって、それをもとにバーンスタインが曲にしたんですね。だから物語が全部音楽になってるんです」

バーンスタインってどうしても「ウエストサイド物語」とかミュージカルのイメージがあって、バーンスタインの交響曲自体聞いたことない人は多いかもしれません。だけどミュージカルのように音楽が物語そのものになっていると聞くと、また興味がグッと湧いてきます。どんなお話なんでしょうね。

「例えば『楽しいことやろうぜ』ってみんなで仮面舞踏会を4人でやるんですけど誰も心から楽しめてないんですよね。口では言ってもやっぱり自分達の心の中にわだかまりっていうか何かスッキリしないものを持っていて。結局、楽しくないってことで別れて、もう一度自分たちの現実のとこに戻ったところに上から光が降りてくる。
そんなもう、すごいめんどくさい曲、って言ったらバーンスタインに怒られるかな(笑) でも素晴らしい曲なんですよ。それをレコーディングして」

そんな難しくて素晴らしい曲を、心から理解して表現するには随分時間がかかったようです。お話は17年前の初演奏に遡ります。

「実はこの曲を初めて弾いたのはもう2001年で井上道義さんっていう指揮者のもと新日本フィルハーモニーで東京で一回でやってるんですよ。
その時はね、何を弾いてるんだか全然よくわからなかったですね。とにかく難しい曲ってイメージしか僕の中にはなくて。2001年でしょ。17年前ですから僕はまだ40になったころ。まだもう全然若造ですよね。だから。何もわかってない、自分のことすらわかってない若造がこれを弾いてもやっぱり...そのなんだろうな。自分の弱点とか、自分の弱いところとか、自分の汚いところとか、そういうものと向き合って、初めてこの曲の意味がわかる、ということをね、今回すごく教わりましたね」

実に自分なりに納得の演奏ができるまでには、ご自身の17年の成熟を待つ必要があったということでしょうか。

2001年の時点で小曽根さんはジャズのピアニストとしての地位も自信も確立していたと思うんですが、それでもやっぱり年齢を重ねて感じるものは変わってくるものなんでしょうか。

「まあそれは少しずつでも前進してれば見えてくる景色は当然変わってくると思いますね。僕の場合『できないことが宝物』って思っていて、これ僕が教えてる学祭たちにも言うんですけど、できないことがあると悔しいんですよね。悔しいんだけどそれは僕の中では恥ずかしいことじゃないんですよ。楽しいことになっちゃう。だって、できないことがあれば練習すればいいだけの話じゃない、ま結果はどう出ても」

と笑います。

「一番怖いのは、ある程度自分ができるようになってきて、プロになってできるようになってきた時が実は一番危ないですね。なぜならそれで仕事は回していけるけれども、進化はしてない状態が続くわけですよ。進化してないかどうかって周りが決めることもあるんですけど、一番それで気持ちが萎えるのは自分本人なんですね。

自分が一番わかってんですよね『俺、最近伸びてない』って。なぜなら人の演奏会を聴きに行ってないし、忙しくなることってすごく危険なことなんですよね。だって「忙」しいって心を亡くすって書きますからね。
だから僕は努めて、忙しいって言わないようにしてる。『スケジュールが詰まってる』と言うけど、忙しいって言うと言霊があるから怖いから言わないですよ」

私達の人生にもつながる大切なお話。『できないことが宝物』のお話はさらにこう続きます。  

「だけどできないことがあっても、そこに飛び込んでいくには やっぱり、やり続けなきゃいけないって思いますね。
なんかこうね、生きてる以上大層なことじゃなくてね、次の瞬間何が起こるかわからない。いいこともあるし悪いことも。そしたらハッピーじゃないことが来た時にどうやってそれと立ち向かうか、それと向き合うか、そこ逃げては通れないですよね。逃げてても同じ。絶対問題がいずれ先に出てくるから。だから普通に生きてるだけで皆さんはもうジャズミュージシャンのようにインプロバイザーなわけですよ」

音楽と人生は同じなんですねえ。
そうやって小曽根さんは前に前に。そしてそんな小曽根さんを観て、聞いて、私達は力をもらえるんですね。

こはまさんも「ドキっとしました。やっぱりこの仕事に慣れてそんな毎日をそれでやっていけるんですよね。そのことに対して慣れてはいけないっていうのはすごく思いますね」と心から一言。


「僕が例えばニューヨーク・フィルとやるとか普通考えたらね、いい結果だけを望んでたらできないんですよ。失敗するかもしれないけど、絶対神様っていうのは1年に1回か2年に1回かわからないけど忘れた頃に、ポンとありえないような仕事を持ってくるんですよ。

学生たちにも言うんですよ。『弾くか?』っていうと『私まだ準備できてません』って言うからそれ待ってたら一生できないよって。だから準備できてないかもしれないからこそ今やるんだよ、このコンサートまでの間にめちゃくちゃ練習したら、ひょっとしたら、その時には準備できてるかもしれない。可能性を自分で伸ばしていくっていうのは常にそういうチャンスが来た時には『やりますっ』で、失敗したら何が悪かったのか自分で勉強すればいいし。失敗しても死なないんですよ音楽の場合は。だからガンガンやればいいんですよ」

挑戦し続けることを時に手振りを交えながら熱くお話してくれる小曽根さん。毎回、音楽の話だけど気がつけば人生の話を教えてもらえますね。


そんなお話を踏まえて改めてアルバム『ビヨンド・ボーダーズ』の交響曲第二番「不安の時代」を聞くと人生の深みや素晴らしさに胸を打たれます。

「ちょっと何回も聞かないとね、本当に深い物語なので。深いドラマの映画、人間を描いてる映画を見るようなもんだと思いますけども、楽しんでいただければと思います」


そして、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」。あまりにも有名なこの楽曲は、小曽根さん自身も今まで数々のセッションやソロで演奏してきました。それを今回はオーケストラで。誰もが知る曲ゆえの難しさについてお話してくれました。

「皆さんよくご存知な曲なのでブーイングが来るかブラボーが来るか。これはもう本当に終わるまでわからないんですね。 だから、やっぱりそこはもう本当に正直な気持ちで、その時に聞こえてきたものを弾くっていうところで音楽アプローチしないと、こうやったらお客さん受けるかな?とか考えた瞬間に、音楽って死んじゃうんで、その気持ちの中でのピュアさだけをずっとキープするかっていうのをものすごく気をつけて弾きましたけどね」

まさに積み重ねてきた経験と魂をぶつけないといけないのですね。

そんな自身の「ラプソディ・イン・ブルー」をスタジオで聞きながら、
「僕ニューヨークに住んでる頃、リンカーンセンターの前何度も歩いてましたけど、ここでニューヨークフィルやってんだなーと思ってましたけどね。まさか自分がその中に入るとは夢にも思いませんでした。僕の場合は嬉しがりなんで、なんでもやるやるって言っちゃうんですけど(笑)」

そうやってやっと落ち着いたように郷愁混じりの大きな笑顔の小曽根さん。
気がつけば、濃密な時間も残り少しとなりました。

そんな小曽根さんのコンサート、福岡でも間もなく開催です。
小曽根真さんのピアノソロと、日本を代表する世界的トロンボーン奏者、中川英二郎さんとのデュオで「音楽の父」バッハに挑む極上の一夜です。

小曽根真 ピアノ ソロ "クラシック×ジャズ"2018

【スペシャルゲスト】中川英二郎 2018年11月29日(木)
開場18:30 開演19:00
福岡シンフォニーホール


「英二郎くんもやっぱりクラシックとジャズと両方できる人ですけど、普通トロンボーンというとゆっくりしたイメージがあると思うんですが、この人がトロンボーン吹くとなんか時速200 kmで走るサイみたいな(笑)、そんな感じですごいです本当に」

さらに今回はとびきりの趣向で、巨人バッハに挑みます。

「ヴィオラ・ダ・ガンバっていう楽器があって、バッハの時代の古楽器に近い弦楽器ですけど。その楽器とピアノのためのソナタがあって、それを今回トロンボーンとピアノで弾きます。ただ、そもそもトロンボーンのために書かれた楽器じゃないので英ちゃんが練習しだして気づいたんですけど『息継ぎする場所がない』って(笑)。 今息継ぎ場所を考えてますつってましたけどね」

小曽根さんにとってのバッハ、そこには深い思い入れがあるようです。

「バッハの音楽ってのは非常に僕にとっては宇宙的なものだと思っていて。完璧にできた音楽なので今まであえて僕は演奏しなかったんですね。ジャズに近いってよく言われるんですけど僕は全然逆だと思ってて。300年以上前に即興であんな音楽を掛ける人は宇宙人以外ないと思ってますから僕は」

まだまだ溢れるバッハへの思い。
次週も小曽根さんをお迎えしましょう。

次回はそんなお話も含めて、まだまだ聞かせてほしい小曽根真さんのお話、音世界を探求していきたいと思います。次週もどうぞお楽しみに。

 

小曽根真 Makoto Ozone Official Website (外部リンク)

次週、10月13日は、引き続き小曽根真さんをお迎えしてお送りします。どうぞお楽しみに。