10月13日のゲストは引き続き小曽根真さんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手はこはまもとこです。

今日のゲストは先週に引き続き小曽根真さん。 #小曽根真

先週も楽しくて濃密なお話をたくさん聞かせていただきました。今週もどんな音世界についてお話を聞かせてくれるのかとても楽しみですね。

ですが、今日はその前にかるーく小曽根さんがピックアップしたドライビングミュージック、タワーオブパワーの「Squib Cakes」でスタート!と思いきや、いきなり思いもよらない「神童:小曽根真」のお話が聞けちゃいました。


この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→  FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)


「1970年代ですね。このバンドが初めて日本にツアーに来た時に僕小学校の6年生だったんですね。それで神戸国際会館の一番後ろの席が取れたんで見に行ったんすよ。ハモンドオルガンを使ったバンドってそんなにその頃なかったんですね」

その頃ってもう鍵盤には触れてらっしゃったんですか?

「触ってましたね。大阪の読売テレビでレギュラー一本持ってた頃ですから生意気のさかりを通り越してもうハッハッハ(笑)ぶん殴ってやろうかってくらい。
佐良直美さんが出ている番組で佐良さんがジャズを歌後ろでハモンド・オルガンで伴奏してました。その時にね、舞台袖に八代亜紀さんとかデビューする頃の森昌子さんがいらっしゃって、八代さんが演奏の後に僕に「坊や上手ね」って言ってくださって」

なんと。12歳前後で、すでにテレビのレギュラーを! 八代さんとは2年前くらいに会ってその頃のお話もしたんだとか。小6にしてすでにプレイヤーとしてタワー・オブ・パワーを聞いていたんですねえ。

「この曲の頃はレコードですから、あの時代は擦り切れるほど聞きましたね。(空気感が)乾いてますよね。お天気の良い日にこれを聴きながらカリフォルニアでオープンカーを借りてウエストコーストのハイウェイ1を走るのが夢だったですね。まだやってないですね。いつかやらないと」
今日もびっくりのエピソードでスタートしました。
小曽根真さん、いつだってこちらの期待を軽く上回るお話を披露してくれます。今日も楽しみですね。

さて今日は小曽根真さんの楽曲を、小曽根さん自ら1曲ピックアップして頂いて深くその音世界を紐解いていただこうと思います。

その一曲とはショパンの『子犬のワルツ(ワルツ第6番変ニ長調 《子犬》)』。
小曽根真さんがクラシックのショパンを演奏したアルバム『Road to Chopin』に収められています。


小曽根さんとショパン。
そこには小曽根さんのショパンへの複雑な想いと、時を超えた理解の物語がありました。

「最初、『小曽根さんショパン弾きませんか?』って言われた時、最初嫌だって言ったんですよ。もちろん嫌いだったわけじゃないけど僕が弾く曲じゃないって思ってて。というのもショパン自体の音楽が非常に装飾音が多いんですよ。僕にしてみると装飾音ってのはアドリブの部分っていう風に感じてるので、それは俺が決めたい。書かれてあるものは弾きたくない。ジャズ屋はほとんどこういう人が多いんですよ。へそ曲がりなんですよ。」

そう言って笑う小曽根さん。

「特にショパンっていうのは日本ではポピュラーなんですけど、クラシックの世界ですごくきれいに美しく弾くことが先に立ってる気がしたんですね。間違ったらごめんなさい。僕はそう感じたんですね。
それがロマン派の時代のマリーアントワネットのロココ調のちょっと華美な貴族の気持ち悪い所につながっちゃったんですね。僕はそういうキンキラキンのゴテゴテなのは嫌だと思ってたんです」


そんなショパンに対して複雑な思いを抱えていた小曽根さんは、あるきっかけで180度印象を改めます。

「ちょっとご縁があって、ポーランドのアンナ・マリア・ヨペックというシンガーに出会って、ポーランドに行った時に『ポーランド共和国という国が地図に載ったのは70年前なんですよ。それまでこの国は独立してなかったんですよ』という話を聞いたんですね。ポーランドという国は、ずーっと昔のローマ帝国の時代から、ドイツが侵略する、ソ連が来る、いつも周囲から侵略されてる歴史がずーっとあって、その中で活動家として戦っていた一人がショパンだったんですね。でもここにいたら才能が潰されるから絶対に駄目だって、無理やりフランスに出されて、フランスで祖国のことを思いつつずーっと彼は作曲して、ポーランドから亡命した人のためにタダで音楽会やったりとか。実は全然『華美』とは正反対

ショパンは祖国ポーランドを20歳で後にして、祖国への強い思慕の念を胸に秘めながら作品を作りつづけ、生涯、祖国に戻ることはなかったそうです。

僕は『なんやそれブルースと一緒やん!』って思ったわけですね。かつて多くの黒人の人がアフリカから連れられてアメリカに渡り、突然、奴隷となっても死ぬまで自由は無かった。そこで生まれてきた音楽がブルースでありジャズですから。そしたら僕が弾く意味があるのかも、と思ったんですよ。それでポーランドのアンナさんとアルバムを作る中で、僕がショパンを弾くならどう弾くだろうってことで作らせていただいたのが『Road to Chopin』。『小曽根真・プレイズ・ショパン』ってそんなおこがましいことは言えないので『ショパンへの道』っていうタイトルでアルバムを作ったんです」


小曽根さんここまで一気に喋って「相変わらず長いですよねえ」と大笑い。そんなことないですよ。ショパンへの当初の違和感から理解への過程はとても興味深くて、深く感じ入ってお話を聞いていたこはまさんも思わずテンションアップ。おなじみの口フレーズを交えつつそういう歴史を経て演奏された「子犬のワルツ」の感想を熱く伝えます。

「ショパンの子犬のワルツの有名な「ティラリラリラリラリラリラ」っていうフレーズと、小曽根さんの左手が「ジャッジャッ、ズッチャチャズッチャチャ」ってこれがすごく面白くて」

小曽根さんも「そうなんですそうなんです」とグイと少し前に乗り出し、セッションのようにこの曲の凝りに凝ったアプローチについて解説をしてくれました。どこまでお伝えできるか。詳しくはタイムフリーでお聞きくださいね。

「これワルツですから三拍子ですね。例えば口で歌うと「ぶん・ちゃっちゃ、ぶん・ちゃっちゃ、ぶん・ちゃっちゃ」じゃないですか。これがウィンナーワルツなると「ンチャッチャー、ンチャッチャー、ンチャッチャー」と、ちょっと舞踏会で踊るクルクルクルクル回るリズムがあるんですね。これがジャズになると「ンカトゥクターン、ンカトゥクターン、ンカトゥクターン」と跳ねるんですよ。これどれも全部三拍子なんですよ。

僕はこの『子犬のワルツ』を弾く時にサビの部分、まショパンにサビなんかないよっていわれるでしょうけど(笑)まあ、俗に言うサビに当たる部分で『ベネズエラン・ワルツ』っていう、普通の「ぶん・ちゃっちゃ、ぶん・ちゃっちゃ」じゃなくて「チャ・ドゥンドゥン、チャ・ドゥンドゥン、チャ・ドゥンドゥン、チャ・ドゥンドゥン、タンツカドンドンドンタン、タタツタドン、タタツタドン、タタツタドン」こんな風にアクセントが最後に来るんです。それを使って弾いてみたんですよ。そしたら『イケルやーん』ってことになって。

じゃスタジオで即興でやったら面白かったんで、アルバムに入れようってことになったんですけど、このアイディアがなかったらこの曲はこのアルバムに入ってなかったと思います

ピアノの詩人の名曲に対して敬意を払いつつ、実は一方で極めて挑戦的なアプローチで臨んでいたことがよく分かるエピソードです。

「だけどおそらくショパンはめっちゃ怒ってると思いますよ(笑)。絶対怒ってると思う。『そこまでせんでもええやろ』って大阪弁で怒ってはると思いますね。 それにね、ショパンのメロディは情熱的なのでまた南米のリズムに合うんですよ。めちゃくちゃ合うんですね」

「ショパンはまたジョルジュ・サンドとマジョルカ島に愛の逃避行をしたくらいの情熱的な人ですしね」と、クラシックに造詣の深いこはまさんもすかさず一言、補足です。


ここで番組ではで改めて「子犬のワルツ」が流れたのですが、音楽が流れている間も気がつけばふたりでリズムをとりつつ興味深いお話は止まりません。

「これはまたジャズ的に裏でアクセント入れてるんですね。実は怖いんですけどねこれ。8分音符で2拍半づつアクセント入れていくんですよ。3拍子に2.5づつ入れていくからどんどん足りなくなってくるんですよ」

「失礼ですけどよく弾けるなって思うんですけど!」
「そこは、もう天才ですから(笑)」
「ありえないですもん。リズムが違うものが右と左でね」
「そう。だけど入るのはここしかないってのがあるんですね。ちゃんと勘定して入れてるんです。こんなことばっかりやってるから友達がいなくなっちゃう(笑)」

リズム談義。とまらないです。

一つの曲に込められた、歴史上の偉大な作曲家と現代の当代随一のプレイヤーとの時を超えた誤解と和解の物語。いかがだったでしょうか?もっとも、そんな風に言えばご本人からきっと「とんでもない!」と叱られそうですが、名曲というものはいつもそうやって、現代の演奏家との格闘の末に今もイキイキと息づいているのでしょうね。そんなことを教えてくれる素晴らしいお話でした。


さて、福岡でも開かれる今回のコンサートでは、もうひとりのクラシックの巨人バッハに挑みます。


小曽根真 ピアノ ソロ "クラシック×ジャズ"2018

【スペシャルゲスト】中川英二郎 2018年11月29日(木)
開場18:30 開演19:00
福岡シンフォニーホール
※詳しくは小曽根真 Makoto Ozone Official Website (外部リンク)でご確認を。


「バッハは手強いですね。音数が少ないのに完璧な音楽なので、じゃあこれを僕らがどう料理するっていう。料理できないってのも料理のひとつなのかなと思たりもするけど。でもせっかくだから僕らしかできないことをしたいですね」

そんな風にショパンとは全く違うバッハへの思い。
これはぜひふかーく聞かせていただきたいですね。そんなわけで、小曽根さんには無理をお願いして嬉しいことにさらに延長戦決定です。

ただし、しばしお休みいただいて次回は11月3日の放送で。

「じゃあ、2週間ほどどこか行ってきます(笑)」

素晴らしい小曽根真さんのお話、また聞けます。とても楽しみですね。

  

小曽根真さん、次回は11月3日にお迎えします。
次週、10月20日は桑原あいさんをお迎えします。お楽しみに。