10月20日のゲストは桑原あいさんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手は香月千鶴です。

今日のゲストは桑原あいさん。 #桑原あい

平成3年生まれの27歳。2012年にアルバム・デビュー、以降各メディアのジャズチャートやメディアで話題となり今や国内外で活躍する、今大注目のジャズ・ピアニストです。

そんな華々しい活躍を頭に入れつつお待ちしていると、「よろしくおねがいしまーす」とふんわり入ってきた桑原さんは人懐っこい笑顔が素敵なごくごく普通の女性という感じ。だけど、ひとたび音楽の話となると、その語り口は切れ味が良くて、放出される底知れない陽性のエネルギーは、才気あふれるアーティストそのもの。なによりそんなお話を楽しそうにする姿がとても魅力的であっという間の今回のスタジオでした。


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今年に入っても次々と様々なスタイルでの様々なアルバムをリリースしている桑原さんですが、今年8月には最新作、Ai Kuwabara the Project名義初のアルバム『To The End Of This World』をリリースしました。

「『To The End Of This World』っていうタイトル「この世界の果てまで」って私は訳してるんですけど、去年の9月から私のレギュラートリオのメンバーが一新したんですね。ベースの鳥越啓介さん、ドラムスの千住宗臣さんと二人の先輩をお迎えして新しいアルバムをつくろうってなった時に、すでにライブで二人とやるために書いた曲が4,5曲あったんですよ。で、その楽曲全部にリンクしてる何かがあるなあと思って、考えてる時にふと『この世界の果てまで』っていう言葉がぱっと浮かんで、これにしようタイトルって。そこからテーマとかコンセプトに集中して作っていくという感じだったんです」

今回はベースの鳥越啓介さん、ドラムの千住宗臣さんという新レギュラートリオに加え、"ものんくる"の吉田沙良、現代ジャズ・シーンの注目サックス奏者、ベン・ウェンデル、サックス奏者、武嶋聡、気鋭のチェリスト徳澤青弦率いるカルテットなど多彩なゲストを迎えて、世界のジャズの新潮流に共振しつつ、ジャズの枠を軽々と越境する賑やかで刺激的なアルバムになりました。

「今まで自分のアルバム、今回7枚目なんですけど、シンプルなピアノトリオでずっと作ってきたんですね、それが今回ゲストが12名いるんですよ。いろんな人に楽器を入れたかったんだねって言われるんですけど、そういうわけじゃなくて曲によって、この楽曲はこの音が欲しがってるみたいな感覚で入れていたので気づいたら12名になってたという。本当に音楽に委ねたらこうなっちゃったと言うアルバムなので不思議なアルバムになりましたね」

収録曲の大半は桑原さん自身の作曲によるオリジナル曲ですが、どの曲もとても刺激的なのにどこかパーソナルな温かい手触りを感じる楽曲も少なくありません。

例えば5曲目「When You Feel Sad」。歌人、劇作家である寺山修司の詩「悲しくなったときは」を英詞にし桑原さんが曲をつけたものです。

寺山修司さんって世代ではないですよねえ?

「そうなんですけどね。 彼の『なみだは人間の作るいちばん小さな海です。』っていう詩があるんですね。それを高校2年生の時に何かの雑誌で読んでびっくりしてして!しかも、なんなら全部ひらがなとかで書くんですよ。なんかもう小学生でも書くようなこんな簡単なシンプルな言葉たちを、どういう想像力でこんなキラキラさせてるんだって。それに衝撃を受けたんです。そしたら私の母も寺山さんが好きだったみたいで、家に詩集があったんです。そこからですね、もうだーいすきです」

そういうとニッコリ笑う桑原さんです。

そんな桑原さん自身が、より深く紐解くべく選んでくれた曲は京都出身シンガー/ラッパーDaichi Yamamotoのラップをフィーチャーしたこのアルバムを象徴するような挑戦的なナンバー「MAMA」です。それでいてその動機はとてもほっこりした始まりでした。

「『ママ』ってタイトルの通りでお母さんのことなんですけど。私はお母さんと日頃は仲がいいんですけど、ある時、泣くレベルの大喧嘩をしまして。そしたら腹立ってベースラインが浮かんだんですよ(笑)。で、これ曲になるなと思って。最初はピアノトリオで演奏してたんですよ」

そんな中で桑原さんはこの曲に足りない何かがあると思いはじめます。

「曲を書きながら、絶対サックスを入れようと思ったんです。でもこの曲には絶対もう一個必要な要素があるんだと考えた時に、喧嘩した時のことを思い出して。なんで(あの時)私は泣いたんだろうと。その時に、一番分かってもらいたかったことが、お母さんに分かってもらえなかった悔しさがすごい残ってたんです。要は私はお母さんに一番理解して欲しかった、あなたが好きだから!って、これお母さんの愛の曲なんですよ

その愛を表現する方法とは。

ダイレクトに言葉を載せたいなって思った時に、女性より男の子とお母さんとかの方が性別も違うから温度差が出るんじゃないかなって考えて。じゃあラップにしよう、リズムもヒップホップ的なグループがあるのでたぶんラップもすごい乗せやすいって想像したらすごいかっこいいと思って。それで収録する時は絶対ラップを入れるようと決めたんです。

だけど問題なのは、ラッパーを誰にしようかって。それでDaichi Yamamotoという彼にお願いしたんですけど、私は元から彼と友達では、なくって。めちゃくちゃを探した先に、録音を担当してくださったエンジニアさんが『Daichi Yamamotoって知ってる?めちゃくちゃ良いよ彼』って教えてくれまして、YouTubeで検索したら一言目で『彼だ!』って思ってすぐ連絡したらすぐOKが出て。口説きましたね、もう口説きましたね(笑)」

そんな、個人的な体験から始まったこの曲は、Daichi Yamamotoを迎えて極めてジャズ的に広がりをみせていきます。

「リリックも彼なんですけど『なんといっても母への愛の歌だから、あなたが思う愛情を歌詞にしてほしいと、あとはいつもどおりのスタンスで自由にやってね』で、後はおまかせしました。

任せるってのもジャズの良いところで、相手の信頼度によってアンサンブルの仕方が変わってくるのでお任せたんです。大地くんは、ジャマイカのお母さんと日本人のお父様とのハーフでいらっしゃって。そのお母様が33年前に日本に結婚して来た。その時にちょっと人種差別だったりまだそういうのがある時代で日本で生きていくのがすごく大変だった。そこから自分を産んでくれて、こういう風に自分は誕生してっていうのを歌詞にしてくれたんですよね。 私はお母さんの生い立ちを歌詞にするっていう想像がなかったので、その歌詞がぱっと送られてきたときにこういう愛の形があるんだと思ってそれで感動してしまって、 Daichiくんありがとう、あなたに本当頼んでよかったんだってそんな風にして完成したんです。自分でも思ってもなかったような形になりましたね」

縁というか化学変化というか、音楽の不思議さを感じますね。

そんな色んな想いが詰まったこの曲、最後はフェードアウトで終わります。

「最後に畳かけてDaichiくんが『ありがとう』って言って終わるんです。それでそのまま帰っていく後ろ姿、だからフェードアウト。それしか表現方法がなくて。結構短いフェードアウトでなんか母さんの面影とかがフっと消えてしまうみたいなちょっと寂しいイメージで。うふふ! 」

そんなお話を聞いた後で改めてこの「MAMA」を聞くと、桑原さんの愛、Daichiさんの愛そして渾然一体となった気合溢れる演奏に胸が熱くなるようですね。ぜひもう一回聴いてみてください。


そして、この秋、東京、大阪、名古屋、福岡の4大都市で『To The End Of This World』リリースツアーの開催が決定しています。

Ai Kuwabara the Project 「 To The End Of This World 」Release Tour

2018/11/4(日) Gate's7
15:30開場 16:00開演

詳しくはキョードー西日本(関連サイト


「今回3人で来るんですけど、私、福岡はピアノソロでは何回か来たことあるんですけど、バンドは始めてなんですよ。超嬉しいんですよ、もうその時点で嬉しいんですよ。しかもレギュラートリオの大好きな2人と来れるって嬉しいしかない!しかも福岡初日なんですよ、CD に入ってる曲もトリオバージョンでお披露目が初なので、ウチらも良い緊張感でできるんじゃないかなって思ってます」

無邪気に喜びを伝えてくれる桑原さん、かわいいなと思ってしまいます。でも、こんなすごいアルバムを作り上げたんだなあ。とも。

おしゃべりしている桑原さんは表情豊かで、素直に感情を表す素敵な方です。一方でその音楽への熱意と愛を熱く語る姿からはエネルギッシュで、JAZZという音楽のもつパワーと自由が伝わってくるようです。

最後にリスナーの皆さんへひとこと。

「ジャズは本当にフレッシュな生物なのでライブも毎回オーディエンスが違うし、レコーディングとはまた違った臨場感とか、ライブでは体験できたかなと思いますのでぜひ一緒に音楽を楽しみに来てくれたらなと思います」

KUWABARA WEB (外部リンク)

  

次週、10月27日はきのこ帝国をお迎えします。お楽しみに。