毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。本日のお相手はちんです。
今日のゲストはきのこ帝国の佐藤千亜妃さん。 #きのこ帝国
昨年、結成10周年。同世代のバンドの中でも唯一無二のバンドサウンドと佐藤千亜妃さんの詞とボーカルが一体となった焦燥感や切なさを内在したハードなロックサウンドで頭角を現したきのこ帝国。以降は不動のメンバーで常に変化することを恐れない音楽を送り続けています。
そんな佐藤さんがドライビングミュージックとして選んでくれたのは、SUPER BUTTER DOGの『コミュニケーション・ブレイクダンス』。
「まず、SUPER BUTTER DOGすごい好きなんです。永積さん(永積タカシ、ハナレグミ)の声とこのグルーブ感みたいなのがすごいドライブに合うんじゃないかなと思って選んでみました」
なるほど。ボーカリストとして他に尊敬するシンガーさんはいますか?
「すごいたくさんいるんですけど美空ひばりさんとか」
美空ひばりさん!
この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→ FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)
「人から聞いた話なんですけど伝説で、レコーディングはもう基本的に来て挨拶して一発ですぐもう帰っちゃうみたいな。一発しか歌わないとか現在ではありえないじゃないですか。何回も録り直したり一部を手直しししたりとか。そういうのなく、シンガーとしてめちゃめちゃかっこいいスタンスだと思いますね」
ちょっと意外。でも、常に貪欲に最良を求めているイメージのきのこ帝国と考えればこのお話に深く納得です。
そんなきのこ帝国は、今年9月通算5枚目、そして10周年の記念したアルバム「タイムラプス」をリリースしました。
「かなりキラキラしたって言うか青臭いと言うか、そんな感じのギターロックっぽい音像ではありつつも人生の思い出の一つ一つを振り返るような、ワンシーンワンシーンを振り返るような。そういう苦味とか痛みとか深みみたいなのも根底にある楽曲は並んだアルバムになったかなと思いますね」
よどみなく出てきたこの言葉に、アルバムの全体が凝縮されているように思います。
タイムラプスは「時間の経過」という意味。転じて、長時間を早回しでぎゅーっと移り行く時間の経過を見ることができる撮影と動画。最近はスマホでも人気の機能ですが、時間とともに常に変化していくバンドにはピッタリで今回のアルバムのテーマにもそのものですね。
10年を越えて佇まいは変わらず常に変わり続ける。
そんな中で今回の「タイムラプス」は、今までで一番と言っていいくらい自分たちをそのままを出してきたようなそんな印象もあります。
「色んなことをやってきたんですけど、私あまのじゃくなので、想定されている音楽を出したくないっていうのがあってカウンターばかりやってきたんですけどね。10年ということもあったのかも知れないですけど、もうそういう事をやんなくてもいいのかなっていうモチベーションになってきて。出来上がった曲をメンバー同士で、きのこ帝国らしく『素』でアレンジしてするパッケージするって言うので十分なんじゃないかなみたいなモードになってきて。そんな流れで開けつつ良いサウンドのアルバムができましたね」
10年を経過して、自分たちの音楽に揺るぎない自信を得た結果なのかもしれません。逆にそんなお話を聞くとどんどん変化していったのは、固定したイメージに囚われたくないって思いもあったんですね。
「多分かなりあると思います。一側面をフィーチャーされるのがすごく嫌で。いや、違う面もあるんだよっていうのもあってずっとやってきたので」
勝手にカテゴライズされることへの反発と同時に、常にいま時点の自分たちの音楽へ誠実に向き合った結果が、変化を恐れない音楽性につながったのだともいえそうです。
「そうですねやっぱりバンド然としてるって言うことに、面白みをあまり感じないタイプだったので、なんかこんなバンド居たんだってやっぱ言われたいっていうのがあって、そういうの意識して急にポップにしたりとかちょっとダビーにしたりとかでは色々トライはしてきましたね」
そんな時代も経ての今回のアルバム。
自分たちにとっても手応えを感じた自信作となっているようです。
「初めてきのこ帝国にとって名刺みたいなマスターピースのアルバムができたかなと思ってて、今までのアルバムはやっぱりどこかの側面を切り取って表現してるアルバムが多くて。だけど今回はやっぱり今までの総括じゃないですけど、いろんな側面がちゃんと一枚にぎゅっと凝縮されてるかなっていうのは思いますね」
そんなアルバムの中から1曲さらに深く紐解いて頂くべく選んでくれたのは「タイトロープ」。
歌詞はシニカルでリアルなトーンもありますが、アルバムの中でもとりわけタイトでかっこいい1曲。今の「きのこ帝国っぽさ」を代表する曲かもしれませんね。
佐藤さんとしてはコード進行を軸にした楽曲がお気に入りのようです。
「あまりやらないコード感をやってるんですけど、なんか自分でも作った時に『これはキタな!』と思って。F#m(Fシャープマイナー)から F に行くみたいなところ。例えば メジャーからマイナーってよくあるんですけどマイナーからメジャーに行くコードの流れっていうのが珍しいんですね。すごいそれは自分のツボ的にはかなりぐっとくると言うか、してやったりって感じのコードの流れ なんですけど。サビではまたちょっと違う転調っぽいコードが入ったりとか。そういう意味でコード感とメロディの妙みたいなのがすごく表現されてるかなって思います。 」
ここ数作、きのこ帝国の作品は明らかに作品として、より質の高い楽曲へ取り組んでいこうという意思が感じられます。
「昔は結構2コードの曲ばっかりで(笑)。でも。結構そのループ感とか言葉のフロウする感じとかも好きだったんですけど。ここ数年好きで聞いてる音楽が、かなりコードがいっぱい使われている曲が多くて1曲の中で10コード以上を使ってるみたいな。そういうのも作ってみたいなーとか思って。 そこからいろいろ聞いたり音楽解析したりもやってたのでそれがまあ作曲の時に影響が出てるかなとは思います」
この曲にもそういった部分や成果は生きていますか?
「おもしろいのがきのこ帝国ってコードの数を多くすればいいバンドじゃないと思ってて、狙い撃ちのコードの4つとかで持っていかないといけない。だから、逆にいろんなたくさんのコードを使う曲とかを作ったのを経たおかげで、逆にシンプルになった時に効いてくるコードっていうのが明るみになるっていうか、自分の中で昔よりも狙いすました感じだけれどもコードの数はそんなに多くない、みたいな事を『タイトロープ』では結構やれたかなと思ってますね。」
例えば以前と同様に2つのコードで曲ができたとしても、そこにはこの間の膨大な経験を重ねた上で多くのコードを削ぎ落として選びに選んだ研ぎ澄まされたシンプルな2つのコードで豊かな曲を作るというようなお話。その他にもこの曲にはありきたりでは済まさない色んな工夫が詰め込まれています。
「サビとかは普通ならAメロとかで使われてるコードのままサビに入った方が気持ちいいんですけど、そこを2個目のコードで『♪タイト ロープ』ってちょっと不安な感じの音程に行くんですけど、それはすごくうまくいったなと思います。また、全体にサウンドが出すところと引くところが明確にあって。イントロでガーッとくるんですけど A メロとかで歌い始めると急にベースとドラムと歌だけになるみたいな。で、サビ直前で二本分のフィードバックが時間差でヒュー、ヒュー』ときて、急にバーン!とサビなんでそこまでギターを我慢して我慢して、みたいな潔いところも好きな曲ですね」
フィードバック。初期のきのこ帝国のサウンドを象徴していたサウンドのひとつ。
ギターとつないだスピーカーが磁気同士や弦が拾って共振し発生するノイズ。マイクとスピーカーの間で起きる「ハウリング」とだいたい同じ原理です。本来はノイズであるこのフィードバックはロックギターのテクニックとして活用されています。
最近のきのこ帝国ではグッと活躍することが少なくなったフィードバックがこの曲では効果的に使われています。
「スタジオでやってる時にギター2本、どっちがフィードバックやる?みたいな話になって、じゃあどっちもやればいいんじゃない?ってなって(笑)。じゃあ1番は時間差で2番は同時にびゃーっと二人でいこうよ。みたいな話になって。それじゃあ、もったいないからそこの先でギター入るとこまでは、もう我慢してリズム隊に任せようとしてこういうコントラストの曲になりました」
自らの手になる楽曲のお話では慎重に言葉を選びながらしっかりと伝える意思を感じる佐藤さんでしたが、このレコーディングでのお話ではフっと肩の力が抜けて楽しそうです。
そんなちょっとしたところにバンドへの信頼感やバンドとしてのきのこ帝国の今の関係の良さを感じます。
このアルバムでは、他にもヒットメイカープロデューサー・アレンジャーの河野圭を迎えて華麗なストリングスと美しいメロディ、そして佐藤さんの歌詞でエモーショナルに歌い上げる、このアルバムもう一つのハイライト「夢見る頃を過ぎても」はじめ、佐藤さんのお話の通り今のきのこ帝国のあらゆる面がすべて凝縮された渾身の一枚となっています。
あっという間にお時間。
佐藤さん、ホッと一息。
今日も限られたお時間になんだかとっても深いところまで根掘り葉掘りと聞かせていただきましたから、どうもすみません。が、今のきのこ帝国の音世界を少し紐解くことができました。
「想像よりもディープな話ができて、音楽雑誌みたいで楽しかったです」
そう言って笑顔の佐藤さん。
いやもう本当にありがとうございました。
きのこ帝国 OFFICIAL WEBSITE (外部リンク)
次週、11月3日は小曽根真さんをお迎えします。お楽しみに。