毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。今週のお相手はちん。です。
今日のゲストはキセル。 #キセル
1998年、兄、辻村豪文、弟、友晴で結成された京都府宇治市出身の兄弟デュオ。
一貫して浮遊感溢れる音像を時にサイケデリックに時にドリーミーにそしてあくまでポップに独自の音楽をマイペースで送り続けています。
スタジオに登場したお二人は、もうイメージにピッタリ。
どもどもって感じでやってきて、自分たちの音楽について朴訥とした語り口で論理的に誠実に語ってくれました。主に豪文さんが喋って、要所要所でスッと友晴さんが補足。さすが兄弟、阿吽の呼吸ですねえ。
そして一つの楽曲、アルバムができるまでたくさんの時間と工夫を重ねるアーティストの姿を垣間見ることができました。
この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→hthttp://bit.ly/kicell_oa
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員の方が聞くことができます)
変わらないようでいつも変わってる。
そんなキセルの最新モードが詰まっているのが昨年12月に発売された最新アルバム『The Blue Hour』です。
今まで以上に洗練された楽曲に、フルートや管楽器を積極的に取り入れてブラジル音楽やソフトロックのような風情ももつ12曲。
キセルといえば、ふわふわした雰囲気の裏でメロディの、特にサビの部分の美しさには定評があるところですが、今回はあえてその部分を抑えて、ミニマルでより雰囲気を重視しているように聞こえます。
「そうですね、今までで一番その統一感を意識したというか。こないだ母親に聞かせたら「全部一緒やな」って言われましたが(笑)」
単純で味の濃いジャンクフードの対極にあるような、上品な椀物の料理のよう。コク深い出汁にそこだわって、その上でれぞれの具材がバランスよく配置されて、全体が一体となって初めて深い味わいになるような。音楽に身を委ねれば夢見心地でどこかリアルなキセルの世界にどっぷりです。
それにしてもキャッチーさをあえて抑えるとはなんて変わってるんでしょ。だけど、じゃあPOPじゃないかといえばそうじゃない。ひたすら気持ちいい音楽になっているのも不思議です。
「アルバム全体の印象を大事にしたいというか。あっさりというとまた違うんですが、普通のことを普通に歌って広がりのある世界に落とし込みたいと思いました。そのために言葉の載せ方まで腐心しながら一枚通して気持ちよく聞けるアルバムにしたいなあと」
そんなお二人がこのアルバムからピックアップしたのはアルバムの最後を飾る「ひとつだけ変えた」。
「変わりなくあるためにひとつだけ変えた」一貫して変わらないためには大事なことを変えていかなくっちゃというまさにキセルそのものを歌っているようにも聞こえる大人っぽい歌詞。
「一番時間がかかっていて、前のアルバムの『明るい幻』を録り終わってすぐに書いた曲なんで完成するまでに3年近くかかっていることになりますねえ。じっくり時間をかけて漬物みたいな(笑)」
音楽的には近年その影響を強く感じるブラジルのポピュラー音楽がキモのようです。
「ブラジル音楽のコード感とかに真正面から取り組んだことがなかったなあなんて思って、やってみるとやっぱりなかなか難しくて、言葉の載せ方とかアレンジとか二転三転しながら」
そして色んな刺激を受けながら少しづつ理想に近づけていきました。
「例えばカエタノヴェローゾっていうブラジルの大スターが息子世代とやってるセー・バンドっていう、バンドが好きで、中でもギタリストのペドロサーって人がすごく好きでエフェクター使いに刺激受けてこの曲のギターに生かされていたり」
シンプルで奥深い歌詞にはさらに様々な経験やその間吸収したものが含まれているそうです。そこには福岡の意外なお店まで。
「Cafe Teco(警固の人気カフェ)オーナーの手嶋さんと『なかなか変わらんように見せるって大変やな』っていう話をしたことも原点ですし、能楽師の安田登さんの本を読んで、能って世界は変わらへんようにするためにやっぱりなんかすごい努力をしてて。今目の前で見ることができる能はすでに当時のものとはまったく違うものになってるかもしれないけれど、ど真ん中の大事なものは残ったまま。むしろ『変わらないな』と思われるための大変な苦労を知って、すごく共感しました。あと映画の『恋はデジャヴ』ですね」
ここまで言うとすかさず傍らの友晴さんから牽制が入って苦笑い。
「コレはちょっとネタバレになるんで」
そんな風に色んな刺激や参考にしながら少しづつ少しづつ理想に近づけるように完成させていったそう。
それにしても贅沢というかなんというマイペース。
アルバム自体も前作『明るい幻』から3年ぶり。ご本人は別に間があいたようなつもりもないようですが、出来上がった作品はここまででお分かりのように極上の仕上がりとなりました。
レーベル側も辛抱強く出来上がりを待ってくれたということでもありますね。
番組ではそんな「レーベルとアーティスト」についてもお話してくれました。ぜひ聴いてみてくださいね。インディーレーベルながら数々のアーティスト、名作を送り続ける「カクバリズム」について貴重なお話もしてくれました。
さてそんな自信作を携えてのライブも予定されています。
「そうですね。今回のアルバムもそうですし、今回のライブは踊れてファンキーなものになる と思います」
え。踊れるキセル、期待していいですか?
「ええ、まあ、多分ですけど(笑)」
キセル「The Blue Hour」発売記念ワンマンTOUR 2018
2018/02/04(日)福岡 福岡 イムズホール
OPEN 16:30 / START 17:00
スタジオでのお二人も音楽そのままに自然体で、こちらがグイグイ行くとスイっと引いて微笑んでるような不思議でおだやかな雰囲気でした。尽きること無い音楽の話に心底楽しんでしまいました。
表現者のみならず、少しでも刺激的な存在をアピールしたい風潮の中で、キセルは「変わらないね」と言われるために変化やチャレンジを続ける というお話に感銘を受けました。
すっかり忘れていましたけどそんな音楽を「エヴァーグリーン」といって、そんなスタイルの表現者は「品がいい」とか言うんじゃないでしょうかね。きっとご本人は「恥ずかしい」と苦笑いしそうですけども。
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次回1月27日のゲストは光田健一 さんをお迎えします。どうぞお楽しみに。