5月4日のゲストは、引き続き藤井フミヤさんでした。

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毎回、素敵なゲストをお迎えして、その音世界を紐解いていくプログラム「SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)」 。お相手はちんです。

今回のゲストは先週に引き続き藤井フミヤさん。 #藤井フミヤ

昨年チェッカーズから35周年、ソロデビューから25周年。昨年発売された3枚組ベストアルバム『FUMIYA FUJII ANNIVERSARY BEST "25/35"』にからめて、フミヤさんの音楽活動についていろいろと振り返ってもらいました。

今週はさらに、音楽の嗜好の変遷から、数々のヒット曲を送り出してきたフミヤさんにヒット曲とはなにか?そして名曲の裏側について直接ぶつけて語っていただきました。

そんな面倒な質問にも、ゆったり構えて、しっかり考えながら答えてくれるフミヤさん。
成熟した大人のアーティストの音楽に向き合う姿を垣間見ることがことができたかも。

この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く!→  FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員 の方が聞くことができます)


今日はドライビングミュージックもフミヤさんの楽曲から選んでくれました。

「ゆっくりアクセル踏むくらいの感じで」と選んでくれたのは1997年の『SLOWLY』。
青空の下に伸びる真っ直ぐな道路を走るような気持ちのいいアメリカン・ロックと言った風情の一曲。

「この頃はどちらかというと、夜の歌というよりは昼の歌を作りたかった時期で。子供がちょうどちっちゃかったんで遊びに行くところが夜の街ではなくなり、それまではニューヨーク行こうとかだったのが、プールとか海があるとかそういうところになり(笑)だんだん夜の音楽が薄れてきてね」

フミヤさんと言えばチェッカーズの頃のソウルやドゥーワップ、ブラックミュージックのイメージだったんですが、ソロになっ途端にフォーク・ロックになって。 ああ、もともとそういう音楽が好きだったんだなあと思っていたんですけど。

ぜんっぜん聞いたことなかった(笑) いわゆるアメリカン・ロックって。

あのね僕、若い頃ね、ビジュアルがある程度かっこよくないと好きじゃなかったんですよ。アメリカだったらブロンディとかね。ああいう都会的なスタイリッシュなのは好きだったんですけど、(アメリカン・ロックの)Gパン、Tシャツ、挑発、ヒゲ面みたいな、何のかっこよさもないと思って。だからビジュアルが嫌いだったんですよ(笑)だからほとんど聞いてこなかったんですよ。例えばドゥービーとかイーグルスにしても」

いままで溜め込んでいた個人的な嗜好がソロになって爆発してってわけじゃあないんですね。

「そうなんです。で、チェッカーズの解散が見えてきた後半辺りから急激に聞き始めたんですよ。急激にディストーションの効いたギターを聞き始めて(笑)それでソロになる頃にはすっかりそういう音楽になっていて」

音楽との出会いって不思議ですねえ。
そして、これ以降のソロ活動ではありとあらゆる音楽ジャンルに取り組んで多様な音楽性を取り入れてきましたね。

「もうほんとに。やっぱりポップスシンガーですね

あ、ご自身ではやっぱり自分はポップスシンガーだと。

「そうですね。ロックンロールもロックもパンクも今でいうR&Bもバラードもなんでも歌います」

フミヤさんの音楽を聞いていると揺るぎない部分はもちろん、時代時代の音楽に敏感だなと思うことは多いですね。

「若い頃はね、 意外と敏感でしたけど。今もうなんかほどでもないっていうか、一番新しいとされているブルーノマーズ、あれなんて僕らの頃のころの懐かしいものしか詰まってないんだもん(笑)」

時代のほうが近づいてきちゃったんですね。

「そうそうそうそう(笑)。 だからアレが新しいんだったら新しいもんをもう追っかけなくていいかなっていう。むしろ日本のロックのほうが独特な進化をしていると思いますね。歌詞カードなんかこーんなに長い!リフレインがほとんどないんですよね」

なるほど歌詞。確かにフミヤさんの歌詞の特徴は、深みはあるけどシンプルってイメージですね。真逆。

「そうですね。僕らの年代で言うとやっぱりそうなっちゃいます。なるべく耳に残るようにという。
だいたい洋楽の歌詞なんて同じことしか歌ってないですもんね」

確かに往年のR&Bなんてシモネタと女性のことばっかりだったり。

「そうですね。ジェームス・ブラウンあたりはひどいもんです(笑)」


そんなソロ活動も25周年。
ここでは代表曲中の代表曲を選んでいただいて、数々のヒット曲を持つアーティストとしての藤井フミヤさんの核の部分を紐解いていきたいと思います。

その曲は「Another Orion」。
もはや説明不要の代表曲の一つです。

「そうですね。「TRUE LOVE」と「Another Orion」この2曲は歌わないと怒られるヤツですね

ぶしつけな質問をひとつ。
常に歌ってほしいと言われるような楽曲を持っていると、その楽曲に対してどう思い、どう付き合っているものなのか尋ねてみました。

「『TRUE LOVE』とかは嫌っていうくらい歌ってますね。結婚式出たら歌ってくれと言われますし。またかー、と思った頃もあったんですけど、今はもうあんまり思わないですね。こうなったらとことん歌ってやるっていうか

やっぱりお客さんが望むものは良いものだってことでしょうか。

「うん。代表曲は歌わなきゃいけないっていうか。それを聞きに来てるってところもありますしね」

日本中の人が知っている、そして生涯背負っていかざるを得なくなる、それくらいの特大の代表曲を持っているアーティストさんの気持ちなど分かる人はこの世界にほんの一握り。とても興味があったのですが、フミヤさんのお話を聞いているとそれはもはや本人の手を少し離れて聞く人との間に独立して存在しているような風にも聞こえました。


さて、この楽曲を作曲したのは増本直樹さん。
フミヤさんとは「Another  Orion」以外にも「ALIVE」「風の時代」などなど多数の楽曲を手がけ、名だたるアーティストへの楽曲提供やプロデュース、さらにソロ活動と大活躍の方ですが、元をたどるとフミヤさんとのこの楽曲に劇的な出会いによって始まったのだそうです。

「この曲は増本(増本直樹)ってヤツがつくったんですけど、当時はミュージシャンっていうか。
関西で大震災が起きたじゃないですか。あん時にそこにいて、その頃はそこで電気工みたいなことをやっていて、命が危ういくらいの目に遭っていたんです。その時にいつ死ぬかわからないって思っちゃって、だったらやっぱり好きな音楽をやろうと思って東京に出てきたんです。それで(増本さんは)たまたま知り合いのディレクターにカセット渡したんですよ。それが僕んトコに来て『何この曲』って、『もらった!コレ』って

すーっとお話してくれて、なんとなく受け止めてしまったんですけど、つまりはそれが歴史に残る名曲。藤井フミヤさんとしても増本直樹さんとしてもその後の人生の大きなターニングポイントとなったわけですね。


そしてこの楽曲は藤井フミヤさんの はじめての主演ドラマの主題歌でもありました。
ここで話していただけたのは、あの美しい歌詞の誕生秘話です。

「当時、「硝子のかけらたち」(1996年)ってドラマ役者をやっていたこともあったんですけど。最初のミーティングから参加しましてその時に、秋元康さんが基本の原案を書くことになっていて『船の中で完結する舞台のようなドラマにする』って言ったんですよ。最初は。

そいで『え。全部船?』って。そしたら『そう。そういうのを作りたい』って(笑)え。船から見えるものって何?って思って。星と月しか無いじゃんと思って、じゃあ星だってことで星の曲を書いたんですよ。それで星ってことは星座だなって思って、そん時にウチの今は藤井アナになってますけど(笑)息子の幼稚園がオリオン組とカシオペア組があってオリオン組だったんですよ。そしたらオリオンだろうと思って、ビールのようなタイトルですが『オリオン』ってタイトルを付けたんですね」

なんと「オリオン」は幼稚園のオリオン組からインスパイア。
そんな傍ら、ドラマの方は大変なことに。

「で、肝心のドラマが結局二転三転して船のドラマはムリ!ってことになったんです。結局、松雪泰子さんのいろんな過去が暴かれていくドラマになったんですけど、ドラマは変わっちゃったんですけど曲はもう作っちゃってたんでそのまま。

そしたらある時ディレクターが『フミヤ、オリオン座って冬の星座だぞ』って『一年中無いの?』『無いよ』って(笑)」

ドラマは夏のど真ん中7月の放送でした。

「あ、マズいっ!つって『アナザー』を付けて、それで心の中のオリオンってことで『Another  Orion』になったんですね」

意外すぎる誕生の経緯。「Another  Orion」は始終意外すぎるエピソードばかりですね。

「そうなんです。始まりは一個のカセット。神戸から夢を持ってやってきた(笑)」

でも、そんなエピソードをお聞きすると、この曲のものすごくロマンティックというか希望にあふれる意味ってわかるような気もしますね。


そんなメロディの美しさもそうですが、どの楽曲もフミヤさんの歌詞の魅力も重要です。しかし、こうやってお話を聞くと詞が先ってことはあまりなさそうですね。

詞先ってのはほとんどやったことがないですね。
どっちかっていうと真っ白なキャンバスにさあ書け!って言われるよりデザインのようにある程度形の決まった中に入れてったほうが楽ですね。 でも売野雅勇(日本を代表する作詞家。チェッカーズの楽曲も多数手がけた)さんが言うには、詞先のほうが作詞家の醍醐味がダイナミックなかんじはあるつってましたよ。だからやってみようかなって思うんですけどねえ」

フミヤさんの歌詞は自由で文学的表現が織り込まれていて独特の詞世界があるように思うので、常にメロディに合わせているというのは意外です。

「そうですね。難しいんですよね。
例えば井上陽水さんの詞ってもっと詩的じゃないですか。
だった『窓の外にはリンゴ売り』『リンゴ売りのフリをしているだけなんだろう』ってそんなのポップスではありえないでしょう(笑)。 そこまでは自分の歌詞は飛ばない。もうちょっと大衆的であるかんじですね。

僕は阿久悠さん(同じ国本を代表する作詞家)が好きで。阿久悠さんの墓参りとか行ったことありますよ」

なんとなくわかるような。阿久悠さんもそうですけど大衆に寄り添うっていうのはフミヤさんの音楽全体に共通するような気がします。

「そうですね。だから難しい言葉はあまり使わないです、英語も」

初期の頃は歌詞の中に英語も織り込んでいましたけど、作品を重ねるに連れてだんだん日本語の比重が圧倒的に多くなってますね。

「やっぱ若いとね。使いたがるんですよね(笑)。どんどん 日本語だけで作るってのが多くなってきましたね」

とここまで話してこちらを見てニヤリ。

「でも今作ってるアルバムは真逆で、ものすごく英語使ってますね(笑)」

理解したような気になっても油断してはなりません。

改めてお伺いしたいんですけど、フミヤさんがこの『Another  Orion』って楽曲自体の魅力についてどういうふうに思われてます?

「まずねメロディもそうなんですけどドラマティックな曲ですよね。4分くらいしかないんですけど、泣けるんですよね(笑)たった4分で。4分間でどれくらい人を感動させるかがポップスなんですよ

短い時間に人の心を揺さぶる要素が詰まっているっていう意味では「True Love」もそうですね。
「True Love」に至ってはものすご簡単な単語でできてますね。コードもですけどね(笑)」

フミヤさんが考えるポップス。ここには藤井フミヤさんの音楽の原点があるように思いますね。そして、実は「True Love」はギターの教則本によく掲載される楽曲でもあります。


ここまでいろいろなお話を聞いて、数々のヒット曲を持っているフミヤさんにあえて「ヒット曲とはなにか?」をぶつけてみました。
そうすると腕を組んでうーーーんと考えてくれました。

ヒット曲だけはねー。ホントに読めないです。
え。なんでこの曲が売れてんの?みたいな曲もいっぱいありますね。 狙って作れるものじゃないんで、やっぱりなにかこうピピピピピって波動が合った時にパッと生まれるもんですね」

では、フミヤさんが考える「理想の曲」はどんな曲でしょう。

「自分の曲としては、古くも新しくもない。今ここで「True Love」聞いてもそんなに懐メロ感はないと思うんですね。10年後に出しても音質的にもそんなにないと思うんですね。チェッカーズの『涙のリクエスト』を聞くとすごい懐メロなんですね。あれはそれでその良さがあるんですけど。 でも古くもなく新しくもなくっていうのがスタンダード、それを目指してますけどね」

今回のベストを聞いてもどの曲もその懐メロ感はないですね。

「ソロから後はホントにそんな気がしますね自分でも」


ここまで藤井フミヤさんの音楽の魅力について、本当に丁寧に答えてくれました。
最後にしつこいようですが、フミヤさんにとって『Another  Orion』はどんな曲でしょう。

「ホントに私の代表バラードです」ときっぱり。

そこで改めて聴き直すと、複雑な構成の楽曲でありながら一本まっすぐ芯の通ってシンプルにも聞こえることに驚かされます。

それを聞きつつリラックスした様子で「この曲はピアノ一本でも歌いますし、ギター一本でも歌いますね」と教えてくれました。

どんな楽器でも編成でもその曲の本質をブレること無く、その上でその時々の気分や状況を織り込むことができる。そんなところもまた歌い継がれる曲の条件かもしれませんね。


そんなフミヤさん、デビュー35周年記念の一環として、7月6日からまた新しいチャレンジ、16都市26公演の全国ツアー『十音楽団(とおんがくだん)』がスタートです。


35周年記念公演 藤井フミヤ "十音楽団"

9月7日 (土) 福岡サンパレス
開場:15:15 / 開演:16:00
※他会場や詳細は藤井フミヤ オフィシャルサイト (外部リンク)でご確認ください。


「僕を入れて10人の楽団。10人で音をなんでしょうね、シアターの演劇のような感じで、第一章、第二章、第三章というふうに綴っていく。そういう音の演劇のようなコンサートですね」

こちらも楽しみです。


さて、2週に渡って深く深く藤井フミヤさんの音楽を紐解いてきた今回の音解。いかがだったでしょうか。

しつこいしつこい質問にも嫌な顔もせず、自分の音楽を語ってくれたフミヤさんに恐る恐る感想をお尋ねすると、

「楽しかったですよ。音楽的な話しかしない番組なんで(笑)」

と、返してくれて笑顔です。
ホークスの話題したほうが良かったのかな。ちょっとあとで思いましたけど。

本当に素晴らしいシンガーのお話が聞けて大感激でした。
ありがとうございました。

  

藤井フミヤ オフィシャルサイト (外部リンク)

次週、5月11日は引き続き Curly Giraff をお迎えします。どうぞお楽しみに。