福岡から東京へ単身赴任した内田さんという男性のお話です。
50代になって初めての単身赴任生活でした。
毎日の通勤で利用する新宿駅は、乗降客数、世界一というだけあって、朝のラッシュタイムは駅も電車も、もの凄い人、人、人。
しかも、誰もが急いでいて気ぜわしく、歩くのもひと苦労でした。
そんな中、内田さんは足に大怪我をするのです。
一ヵ月近くも入院生活を送り、ゆっくりならなんとか歩けるまでに回復して、やっと退院しますが、心配なのはそれからの生活でした。
そこで、医師の勧めもあり、早く歩けないことをそれとなく知らせるためにも、杖をついて歩くことにしたのです。
もちろん、周りの迷惑顔が目に浮かびました。
ところが違ったのです。
満員電車の中で、慌ただしい人混みの中で、内田さんの杖に気がつくと、多くの人が「席をどうぞ」と代わってくれたり、歩く速度を緩めて、そっと道を開けてくれたり、数々の善意に出会ったのです。
「まるで魔法の杖のようだった」と語る内田さん。
でも一番の魔法は、「必要なときに、必要な人に、善意の窓は開けられる」
そのことを自分に気がつかせてくれたこと。
以来、東京の人混みは、内田さんにとって、とても温かいものになったのです。