「おかあさん、あの花、なんていうの?」
郵便局の中で順番を待つ人が大勢いる中、幼い女の子がお母さんに尋ねます。
その日は、お母さんが保険の手続きをするので、女の子も一緒についてきたのです。
提出書類を整理していたお母さんが、ふと手を止めて、女の子の指差す方を見ると、窓口の隅に鉢植えがあり、淡い青紫の上品な花が咲いていました。
「あら、桔梗みたいだけど、何かしらね」
やがて順番が呼ばれたとき、忙しくて迷惑かなと思いつつも、お母さんは窓口のお姉さんにそっと尋ねてみました。
すると、「申し訳ありません。私もちょっと分かりません」という返事が返ってきました。
数日後、保険の担当者が、その親子の自宅にあいさつに来た際、「うちの局員から、これを預かったのですが…」とお母さんに一通の手紙を渡しました。
その手紙には、
「先日は、申し訳ありませんでした。娘さんがせっかく花に興味を持たれていたのに、名前が分からなくてごめんなさい。あの花は、“カンパニュラ”という桔梗の種類です。元々はヨーロッパの植物で、日本では“つりがね草”ともいうそうです。きれいに咲いているのに、興味を持たなかった自分が恥ずかしいですね。娘さんのキラキラした瞳に、大切なことを教えられた気がします」
と丁寧な文字でしたためられていました。
「カンパニュラ」・・・。
新しい花の名前を覚えた女の子は、それから図鑑などで調べるようになり、ほかの花や花言葉にもどんどん興味を持つようになりました。
カンパニュラの花言葉は、「感謝、誠実」。
それは、女の子の純朴な好奇心を大切に思いやり、応えてくれた郵便局のお姉さんにぴったりの花言葉でした。