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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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3/8「星の海を走る夜汽車」

博多駅から東京駅まで、新幹線に乗ればおよそ5時間。
同じく博多駅から寝台特急列車、いわゆるブルートレインを利用すると、東京駅まで16時間以上。
この速さの違いから年々利用者が減り、全国を走っていたブルートレインが次々に姿を消していきました。
でも、たっぷりと時間をかけて夜をひた走るブルートレインの旅は、新幹線や飛行機ではけっして味わえない、時間と空間のロマンがあります。

福岡出身の漫画家・松本零士さんは、18歳でプロの漫画家をめざし、夜行列車で上京しました。
身の回りのめぼしい持ち物を洗いざらい質屋に入れて旅費を工面。学生服姿のまま、荷物は、700円の全財産と漫画道具一式を入れた薄っぺらなスーツケースだけです。
見知らぬ地での新しい暮らしに不安と期待を抱きながら、弁当代わりに家から持ってきた茹で卵を窓枠に並べ、水も飲まずにひたすら移りゆく車窓の景色を見続ける松本さん。
列車の窓から暗闇を見ていると、さっき別れの手を振っていた弟たちの姿や、貧しい暮らしの中で快く送り出してくれ、「苦しくなったら帰っておいで」と言った母親の顔が瞼に浮かんでは消え、切なくなりました。
真っ暗な夜ですが、時おり、人家の窓の明かりや街灯の光が、窓の前方から後ろへと流れていきます。
その繰り返しの風景を、眠るに眠れずぼんやり眺めているうち、その光が次第に、星の流れのように見えてきました。
まるで夜汽車がきらめく星の海を走っているような、なんとも不思議な感覚。
そこで彼は、将来に何か希望の光を見いだしたような気がしました。
そして後年、この日の夜行列車の体験をモチーフに、松本さんが世に送り出したのが、『銀河鉄道999』なのです。

このようなロマンと郷愁を運び続けたブルートレインが、ついに姿を消すときがやってきました。
今月のダイヤ改正で、九州と本州を結ぶ唯一のブルートレイン「はやぶさ/富士」が廃止になるのです。
およそ半世紀にわたるたくさんの乗客たちの、それぞれの思い出を乗せて、最後の列車が今週13日に発車します。