「手を洗おう」。
大変有効で手軽な感染予防対策として、今、改めてその重要性が注目されていますが、実は手洗いの歴史は、ひとりの医師の奮闘から始まりました。
今から170年余り前の1840年代。
当時ヨーロッパでは分娩後の女性に発生する産褥熱が死亡率も高く大きな問題でしたが、ハンガリー出身の産科医センメルワイスは、勤務していたウィーンの病院での発生状況を調べる中で、医療行為によって汚染された医師の手が原因であると発見。
次亜塩素酸カルシウム液で手洗いすることで産褥熱の発生を劇的に軽減させたのです。
しかし、細菌もウイルスの存在も認識されていなかった時代のヨーロッパの医学界は評価するどころか、「医師の手が汚れ病気を広めている」ことを認めず、センメルワイスを批判し嘲笑したのでした。
これに屈することなく、センメルワイスはハンガリーの病院でも大きな成果を挙げて多くの産婦の命を救い、手洗いの普及に懸命に努めましたが、理解する医師は少なく、失意の内に亡くなったのでした。
しかし彼の偉大な業績は、その後の医学の発展が証明することとなるのです。
現在、センメルワイスは「院内感染予防の父」「母親たちの救い主」と呼ばれ、ハンガリーの医学部では、その意思を受け継いだ教育が行われています。