2013年1月アーカイブ

1/27「雪の使命」

雪国にとって、降り積もる雪は厄介な存在ですが、それを新たなエネルギーとして活かした町があります。
冬の間の積雪は2mを超えるという日本有数の豪雪地帯、山形県の舟形町(ふながたまち)です。

その要となったのが町役場の職員、高橋剛(たかはし・つよし)さんでした。
「雪さえなければ、いいところなのに・・・」という町の人々の声を耳にするたびに、高橋さんは「水や空気と同じように、雪にも何か大切な使命があって天から舞い降りてくるのではないか」と考えるようになったといいます。

そんな高橋さんの思いが発端となって、舟形町では雪を積極的に利用する「利雪事業」に取り組み始め、雪を貯蔵する施設を作って、夏に米や蕎麦、ラ・フランスなどを貯蔵。鮮度が保たれ、うま味が高まるなど、農産物の貯蔵に雪が大きく貢献することを証明しました。
平成2年には通産省資源エネルギー庁の「地域エネルギー開発利用モデル事業」の指定を受け、雪のエネルギーを対象とした国内初の調査研究が実施されます。その後、世界初の雪冷房システムを町営の建物に導入。
雪の貯蔵室と建物を配管で結び、送風機で雪の冷気を建物に送り込むというシンプルなシステムで、夏を涼しく快適に過ごせることを実証。
これが「雪の国際会議」で発表され、国連を通じて世界中に紹介されたのです。

雪に悩まされていた小さな町が世界に発信した新たなエネルギー。
「雪にも大切な使命がある」と信じた人々の熱い思いが生み出した、そのエネルギーの大切さに、今、ようやく時代が追いつこうとしています。

1/20「お使いの少年」

吉田さんはテレビ番組の制作スタッフ。
海外ロケでネパールの山岳地帯の村に滞在したときの話です。

クルマも通らない山道を何時間もかけて歩いて登る標高1500mの村。
「ここでビールを飲んだらうまいだろうな」とつぶやいた吉田さんの言葉を聞きつけた村の少年が、「ぼくが買ってくる」と申し出ます。
買ってくるといっても、店は山の麓にしかありません。
吉田さんは遠慮しましたが、少年があまりにも張り切って請け合うので、それならとお金を渡したら、少年は一目散に山を下り、夜になるとビールを背負って帰ってきました。

そして翌日。「また買ってくる」という少年の言葉が嬉しくて、吉田さんはもっとたくさんのお金を預けたのです。
しかし、少年は夜になっても、翌日になっても帰ってきません。
心配する吉田さんですが、村人たちや少年の通う学校の教師は「あれだけのお金を手にしたら帰って来ないよ。逃げたんだ」と言います。
「つい日本の感覚で気軽にお金を渡したことが、あの少年の人生を狂わせたのか」と吉田さんは後悔しました。

ところが3日目の夜、少年は泥まみれの姿で帰ってきたのです。
聞けば「麓の店ではビールが足りなかったので、さらに4つの山を越えた町まで行って買ってきた。でも帰りに転んで3本を割ってしまった」とべそをかきながら、ビール瓶の破片と釣り銭を差し出します。
その瞬間、吉田さんは少年を抱きしめて泣き崩れました。

その涙は、健気な少年への愛おしさと、その少年の心を疑った大人の自分を恥ずかしく情けなく思う涙だったのです。

1/13「ブンゼンの心遣い」

19世紀のドイツの化学者ロベルト・ウィルヘルム・ブンゼン。
彼は新しい元素のセシウムとルビジウムを発見したり、バーナーや電池、熱量計などを発明するなど数々の業績を挙げた大学者ですが、私生活でも数々の逸話を残しています。

あるときブンゼンが友人の家に招かれたとき、夜になって天気が急変し、大雨となりました。
そこで友人はブンゼンに、今夜はぜひこの家に泊まっていくようにと勧めました。
最初は遠慮していたブンゼンですが、あまりに友人が懇願するので、この申し出をありがたく受けることにしました。
ところが、しばらくするとブンゼンの姿が消えています。
「やはり遠慮してお帰りになったのか」と友人はがっかりしましたが、それから2時間ほど経ったころ、玄関のドアを叩く音がします。
開けてみると、立っているのは、ずぶ濡れのブンゼン。
手には大きな包みを抱えています。
「いったい、どうなさったんですか!」
驚く友人にブンゼンは、こう答えたのです。
「いやあ、泊めていただくのだから、せめて寝間着は自分のものをと思って、取りに帰ってきたところです」

偉大な化学者でありながら、どこかとぼけたような天真爛漫な人柄のブンゼンを、周りの人たちは尊敬と親しみを込めて「ブンゼン先生」と呼んでいたそうです。

1/6「16光年の初夢」

広い宇宙には、地球と同じように高度な文明を持った生物が暮らす星がきっとある・・・そんな夢を抱いて、地球から未知の宇宙人に向けてメッセージを送る試みが、日本人の天文学者の手で行われました。

当時の東京天文台・野辺山宇宙電波観測所の森本雅樹所長と平林久さん。二人は昭和58年、アメリカ・カリフォルニアにある直径46mのアンテナから、わし座のアルタイルという星に向けて、メッセージを乗せた強力な電波を30分間にわたって発射したのです。

森本さんと平林さんが作成したメッセージは、13点の画像。数字の定義から始まって、太陽系の仕組みと地球の位置、DNAの構造、原始生物から魚類、恐竜、類人猿までの生物の進化、そして人間の姿などで、いわば地球のプロフィールを紹介する内容です。
そして、締めくくりとなる13点目の画像は、エチルアルコールの分子式と、「乾杯」という文字。これは、地球人とアルタイル人との出会いを祝して乾杯しましょう、という呼びかけなのです。
ちなみに森本さんも平林さんもお酒が大好きで、メッセージを考えながら水割りを飲んでいた成り行きで、こんな呼びかけを思いついたそうです。

ところで、地球からアルタイルまでの距離は約16光年。電波がアルタイルに届くのは16年後です。
そして、もしアルタイルに知的な生命が住んでいて、すぐに返信をくれたとすると、平成27年ごろに返事のメッセージが地球に届きます。
もしかすると「いっしょに乾杯を!」という返事がくるかもしれません。

アーカイブ