「夏が来れば思いだす はるかな尾瀬 遠い空」
今も歌い継がれる「夏の思い出」を作詞したのは江間章子(えま・しょうこ)さん。
戦後間もない昭和24年のことでした。
当時、「ラジオ歌謡」という番組を放送していたNHKが
「荒廃した国土に暮らす日本国民に夢と希望を与える歌を流したい」と、詩人の江間さんに作詞を依頼したのです。
しかし、疎開先から戻ったばかりの江間さんも、夢も希望も失った一人でした。
そんな江間さんの心に浮かんだのが、戦時中に食料を求めて訪れた
群馬の尾瀬で辺り一面に咲き揃っていた水芭蕉の美しい姿でした。
故郷・岩手でも咲いていましたが、水芭蕉が群生する尾瀬の景色には思わず見とれてしまったといわれます。
戦争の最中(さなか)の苦しい思いを、ひととき忘れさせてくれた、その思い出を江間さんは歌にしたのです。
そして、ラジオから流れた「夏の思い出」は多くの人々の心を癒し、絶えることなく歌い継がれました。
江間さんの故郷、岩手県八幡平市(はちまんたいし)では、
江間さんを称えて小中学生を対象にした詩のコンテスト、江間章子賞を創設。
江間さんも賞の授与式に出席していましたが、平成17年に91歳で亡くなりました。
それから5年、13回を迎えた昨年のコンテストでは846篇もの応募作品の中から4人の少年少女の詩が選ばれています。
江間さんの詩の心は、今も若き世代に受け継がれているのです。