一年で最も寒い、大寒を迎えています。
雪深い東北地方では、その昔、布はとても貴重なものでした。
寒冷地では綿花の栽培ができないため、人々は麻を植え、繊維から糸を作って麻の布を織りました。
そして、目の粗い麻のすき間を埋めて保温性を高めるために、
女性たちが一針ひと針丁寧に縫い綴っていった技術が、「刺し子」と呼ばれるものです。
寒さをしのぐもう一つの知恵が、江戸時代から伝わる「ドンジャ」と呼ばれる夜具。
丹前のような形をした麻布の蒲団で、囲炉裏の前でこれを着て座り、寝るときはこれがそのまま蒲団となるのです。
何世代にもわたって使われたドンジャは、冬を越すごとに新しいツギハギが重ねられ、
重さは10キロを超えるものもあります。
このドンジャは家族一人一人にあるわけではありません。
ひとつのドンジャに夫婦や親子が裸になって肌を寄せ合って眠ります。
お互いの体温で温め合うための工夫なのです。
だから、たとえ昼間に夫婦喧嘩や親子の諍いがあったとしても、
夜になればお互いを許し合って眠るという暮らしがありました。
九州の気候では考えられないかもしれませんが、
ドンジャは、家族全員が仲良く力を合わせて生き抜いてきた証でもあるのです。
あらゆるものが全国に流通するようになったいま、ドンジャは東北の暮らしから消えていきました。
しかし、ドンジャは、かつての東北の貧しい時代の遺物ではなく、
家族を想う愛情と、人々が育んできた命が刻まれている布の文化として、
民俗学の分野で保存され、現在に伝えられています。