新緑の5月が近づいてきました。
この季節、風にたなびく鯉のぼりとともに多くの人に親しまれている歌があります。
「柱のきずは おととしの」で始まる「背くらべ」です。
しかし、この歌を作詞した海野厚(うんの・あつし)の名を知る人は、決して多くはありません。
早稲田大学在学中に児童雑誌「赤い鳥」に投稿した作品が北原白秋に称賛されるなどして、
童謡の世界に足を踏み入れた海野は、その後仲間とともに童謡楽譜集「子供達の歌」を発刊します。
その第三集「背くらべ」が出版されたのが大正12年5月でした。
海野は静岡の出身、7人兄弟の長男で、末っ子の弟とは17歳も離れていました。
「背くらべ」は、2年ほど会っていないふるさとの幼い弟に思いを馳せて、
兄弟で背くらべをした懐かしい風景を、弟の視点から描いたものでした。
それから2年後の5月、肺結核を患っていた海野は、28歳の若さで惜しくも亡くなります。
これからというときでした。
しかし、歌のモデルとなった弟の春樹(はるき)氏は、その後NHKのアナウンサーとなって活躍。
さらに大学教授となって人材の育成に力を注ぎ、83歳の天寿を全うしています。
弟の活躍を兄は喜んだに違いありません。
そして、海野の名は知らずとも、今年も多くの人々が「背くらべ」を懐かしく口ずさむことでしょう。