今年も残りわずかとなりました。
年の瀬の慌しさの中で、お正月を迎える華やいだ気持ちが高まるこの時期に、
多くの人に親しまれている歌が「お正月」です。
「もういくつねると、お正月
お正月には凧あげて
独楽をまわして 遊びましょう
早く来い来い お正月」
お正月を待ちわびる子供達の気持ちが素直な言葉で歌われていますが、
実はこの歌は明治時代、難しい言葉で書かれていた唱歌の世界に
新風をもたらしました。作詞は東(ひがし)くめ、作曲は滝廉太郎。
そして、この歌の誕生のきっかけをつくったのは、
くめの夫、東基吉(ひがし・もときち)でした。
明治の幼児教育の黎明期に、子供達の立場に立った教育を実践し、
日本で最初の保育論「幼稚園教育法」を発表するなど活躍した基吉は、
音楽教師で作詞活動も始めていた妻に「子供の言葉で書かれた、子供達が喜んで歌う歌」を作るよう薦めます。
くめは早速、学生時代の後輩である滝廉太郎に相談。
滝も東夫妻に賛同し、明治34年、日本最初の口語体、話し言葉の唱歌集
「幼稚園唱歌」が出版されるのです。
この中に収められていたのが「お正月」でした。
2年後の明治36年、くめは5月に長男を出産。
その翌月、入れ代わるように滝廉太郎が23歳の若さで亡くなっています。
それは喜びの後の深い悲しみでした。
しかし、子供の教育と音楽に高い志を抱いた彼らが後の時代に残した歌は、
子供達に愛され歌い継がれ、今では、日本の懐かしいお正月の風景を今日に伝える貴重な歌となっています。
きっと今年も、どこかで誰かが、ふと口ずさんでいることでしょう。