兜の前立てに「愛」の文字を掲げたことで知られる戦国武将、直江兼続。
上杉景勝に仕えて激動の時代を戦い、上杉家を守り抜いて米沢藩の礎を築きました。
生涯の大半を戦場で過ごしたといわれる兼続ですが、実は大変学問を尊び、
貴重な書物を熱心に収集する、文武を兼ね備えた人物でした。
その真摯な姿に感銘を受けた高僧は中国の歴史書で宋版の「史記」と「漢書」
「後漢書」を兼続に贈っています。
兼続は亡くなる前年に、収集した書物を収めた文庫を創設し藩士の学びの場としましたが、
これが米沢藩の学問の礎となり、のちの藩校、興譲館(こうじょうかん)へとつながります。
この興譲館をへて今日に伝えられた「史記」は日本に現存する最古のものとして、
「漢書・後漢書」とともに国宝に指定されています。
兼続は米沢藩に、そして日本の未来に貴重な財産を残したのです。
そんな夫の志を継ぐかのように、妻のお船(おせん)は兼続が生前出版した60巻にのぼる「直江版文選(もんぜん)」を再出版しています。
「文選」は中国の優れた古典文学を収めた著名な書物ですが、
それを兼続は、当時大変珍しかった活字印刷で出版しました。
平和な時代に生まれていれば、学者として充実した人生を送ったかもしれない兼続。
そのことを誰よりも知っていたのが苦楽をともにしたお船だったのではないでしょうか。
「直江版文選」の再出版、それは夫の人生を見つめ続けた妻が最後に掲げた「愛」だったのかもしれません。