足で踏みしめて歩くと、砂が「キュッ、キュッ」と音を出す「鳴き砂」。
これは、きれいな海岸の砂浜にしか見られない特異な現象です。
もっと詳しく言えば、鳴き砂の正体は、砂の中にきらきらと光る石英という鉱物の粒。
この石英が多く含まれる砂浜が鳴き砂の条件だとされています。
日本ではおよそ30カ所の砂浜で鳴き砂が確認されていますが、その中で京都の琴引浜(ことびきはま)は全長18キロにも及ぶ全国でも最も規模の大きい鳴き砂海岸。
音の美しさも、その名の通り「琴を引いたような」音がすることで、平安時代から歌にも詠まれています。
その琴引浜に異変が起こったのは11年前。
ロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」の座礁事故です。
流出した大量の重油が琴引浜を埋めつくすほど流れ着き、目を覆うばかりの惨状となりました。
重油まみれの変わり果てた砂を見て、地元の人たちは落胆しました。
ところが、やがてこの琴引浜にたくさんの人が駆けつけます。
彼らの大半は、全国それぞれの海岸でゴミや漂流物を拾って鳴き砂の保全活動をする人たち。
琴引浜の惨状を人ごととは思えず駆けつけたのです。
大規模な浜の復元作業が始まりました。
延べ1万3000人のボランティアがふるいを使って重油を落としていくという、気の遠くなるような手作業を、3か月かけて続けたのです。
やがて琴引浜の鳴き砂はよみがえりました。
全国の鳴き砂海岸それぞれに、人知れずゴミや漂着物を広い集めながら、砂浜を守っている人たちがいます。
鳴き砂は、大自然のメカニズムがつくった遺産。
でもそれを守っているのは、私たち人間ひとりひとりの力なのです。