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FLP-MOF触媒の作用機構解明により設計を高速化

国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学

CO₂資源化や水素キャリア開発に向けて

2025年12月5日
横浜市立大学
岐阜大学

FLP-MOF触媒の作用機構解明により設計を高速化 〜CO₂資源化や水素キャリア開発に向けて〜

 

 

 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 立川仁典教授、岐阜大学工学部 化学・生命工学科 宇田川太郎准教授らの研究グループは、タイのSilpakorn UniversityのNuttapon Yodsin博士、King Mongkut’s Institute of Technology LadkrabangのRathawat Daengngern准教授、Ubon Ratchathani UniversityのSiriporn Jungsutthiwong 教授らとの国際共同研究により、Frustrated Lewis Pair(FLP)*1 を組み込んだMetal-Organic Framework(MOF)*2 触媒によるCO₂水素化反応の反応メカニズムを明らかにしました。特にFLP触媒の酸性度を指標とすることで、触媒性能を迅速に予測できることを明らかにしました。本研究により、FLP-MOF触媒候補のハイスループットスクリーニングが可能となり、より高効率な触媒開発が促進されると期待されます。

 本研究成果は、国際学術誌「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載されました(2025年11月12日)。

 

 

研究成果のポイント

・FLP-UiO-67-MOF*3 のH₂解離・CO₂水素化反応機構を解明

・開発した独自手法により反応に対する水素原子核の量子効果を解明

・官能基*4 の電子的性質とFLP酸性度指標から触媒活性が予測可能であることを示した

 

 

研究背景

 CO₂の回収・資源化は持続可能な社会を実現する上で重要な課題であり、中でもCO₂をギ酸(HCOOH)へと変換する水素化反応は、安全で可逆的な水素キャリアとして注目されています。Frustrated Lewis Pair(FLP)は金属を用いずにH₂を活性化できる希少な分子システムとして知られ、MOFに組み込むことで実用的な高効率不均一系触媒としての応用が期待されています。本研究では、官能基を変化させたFLP–UiO-67-MOF系を幅広く比較し、どのような性質がH₂活性化およびCO₂の水素化によるギ酸生成効率を左右するかを解明しました。特にH₂の活性化やCO₂の水素化反応は、FLPの特性だけでなく、水素原子核の量子力学的性質(原子核量子効果:Nuclear Quantum Effect)*5 によっても影響を受けることが示唆されており、これらの影響を体系的に理解する必要があります。

 

 

研究内容

 本研究では、官能基を導入した種々のFLP-UiO-67-MOFによるCO₂の水素化反応の反応機構を明らかにしました。水素は最も軽い原子核をもつため、零点振動のような量子力学的性質(NQE)がしばしば顕著に現れます。我々の開発した多成分系密度汎関数理論(MC_DFT)*6 を用いることで、NQEがH₂の解離およびCO₂水素化反応の活性化障壁を低下させ、反応を促進することを明らかにしました。

 特に、反応の進みやすさが FLPの酸性度の指標であるヒドリド付加エネルギー*7 と強い相関を示すことを明らかにしました。ヒドリド付加エネルギーの計算には複雑な遷移状態探索を必要としないため、触媒性能を短時間で評価できる効率的な指標として有用であると考えられます。これにより、多数のFLP-MOF触媒候補の性能を短時間で評価することが可能となり、ハイスループット触媒スクリーニングの実現に大きく貢献すると期待されます。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202512040351-O1-4SEndrhC

 

 

今後の展開

 本研究は、FLP–MOFにおける官能基設計と反応特性の関係を、電子的性質と原子核量子効果の両面から明らかにしたものです。これにより、金属フリー触媒の合理的設計指針が提供され、CO₂資源化や水素キャリア開発へ広く応用できると期待されます。また、ヒドリド付加エネルギーを活用したスクリーニング手法により、大規模な材料探索が可能となり、今後の触媒設計の効率化・高度化がさらに加速すると見込まれます。

 

 

研究費

 本研究は、JST NEXUS(Networked exchange, united strength for stronger partnership between Japan and ASEAN)の支援を受けて実施されました。

 

 

論文情報

タイトル:Unraveling H₂ dissociation in CO₂ hydrogenation on frustrated Lewis pair-functionalized UiO–67: DFT and nuclear quantum effects

著者:Nuttapon Yodsin, Siriporn Jungsutthiwong, Taro Udagawa, Rathawat Daengngern, Masanori Tachikawa

掲載雑誌:International Journal of Hydrogen Energy

DOI: 10.1016/j.ijhydene.2025.152499

 

 

用語説明

*1 Frustrated Lewis Pair(FLP):構造的な制約で直接錯形成できないルイス酸とルイス塩基の組み合わせ。非常に反応性が高く、H₂分子を活性化させることが可能。

 

*2 Metal-organic framework(MOF):金属原子が有機分子により架橋されて形成される錯体であり、比表面積が大きく、内部に多数の小さい孔を持つ多孔質物質である。孔のサイズを調整することで、混合物の分離や、分子の吸着による貯蔵、触媒を組み込んだ分子変換なども可能である。

 

*3 FLP-UiO-67-MOF:オスロ大の研究グループにより開発されたUiO-67-MOFに対して、FLPを組み込んだMOF。CO₂水素化反応に対する触媒として機能する。

 

*4 官能基:有機化合物の性質や反応性を特徴づける特定の構造をもつ原子団。同じ官能基をもつ化合物は類似した化学的挙動を示す。官能基の導入により、化合物の性質や反応性を設計・制御することも可能である。

 

*5 水素原子核の量子力学的性質(原子核量子効果:Nuclear Quantum Effect):全ての粒子は量子力学的には粒子性と波動性を併せ持つが、原子核は電子よりはるかに重いため、その波動性は多くの場合で無視される。一方で水素原子核は最も軽く、その波としての性質(原子核量子効果)がしばしば無視できず、化学反応や同位体効果に顕著な影響を及ぼす。

 

*6 多成分系密度汎関数理論(MC_DFT):計算速度と精度を兼ね備え、現在の量子化学計算における標準的手法となっている密度汎関数理論(DFT)を拡張し、電子に加えて水素原子核の量子力学的性質も取り扱えるようにした量子化学計算手法。

 

*7 ヒドリド付加エネルギー:ヒドリド(H⁻:電子を1つ多く持つ水素負イオン)が化合物に付加した際に生じるエネルギー変化。

 





プレスリリースPDF

https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106389/202512040351/_prw_PR1fl_l7wT5gmP.pdf

プレスリリースURL

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