「日本のアンデルセン」と呼ばれた児童文学者・久留島武彦(くるしまたけひこ)。
彼は、明治・大正・昭和の三代にわたって全国を回り、
子どもたちの前で身ぶり手ぶりを交えながら童話を語り聞かせ、「童話のおじさん」と親しまれました。
その久留島武彦が晩年になって打ち込んだのは、
子どもたちのために自然の中で生きた教育をしたいという思いで、
昭和12年に当時の北九州市・到津遊園に開設した林間学園です。
通常の学校行事で行われる林間学校ではありません。
夏休みの5日間、それまで見知らなかった子どもたちがこの林間学園に入学し、
動物園の森の中でさまざまな野外活動をしながら友情を育んでいくというカリキュラムは、
それまで日本ではだれも考えたこともない生きた自然教育。
自ら学園長となった久留島武彦は、講師の一人としても森の中で
子どもたちを前に童話を語り聞かせるなどの授業をしました。
彼は20年間その責務を全うし、昭和35年に86歳で亡くなりましたが、
その後も林間学園は北九州の子どもたちにとって、
なくてはならない夏の風物詩として続いていきました。
10年ほど前、累積赤字のために到津遊園の閉園が発表されました。
それに反対して立ち上がったのは北九州の人たち。
存続を求めて集まった署名が26万以上という前代未聞の数を記録したのです。
北九州市民にとって、到津の森はたんなるレジャー施設ではありません。
60余年の伝統をもつ林間学園に、親、子、孫の三代で学んだ家庭も多く、
彼らにとって到津の森は、消すことのできない大切な思い出の地なのです。
到津の森公園として再出発した到津の森。今年の夏開かれた林間学園は第72回を数えています。