2007年11月アーカイブ

11/25 放送分 「日本ペンクラブ」

明日、11月26日は「ペンの日」。1935年、日本の小説家や詩人、新聞記者などの文筆家を会員とする日本ペンクラブが発足した記念日です。

初代会長を務めた島崎藤村は、当時、世界各国のペンクラブとの交流を目指し、また日本の文学も海外へ広めたいという大きな夢を持っていました。
翌年には、島崎自身や夏目漱石の作品などがスペイン語に翻訳され、日本の文学がようやく世界に向けて発信されることになります。

ところが、夏目漱石の「こころ」のフランス語訳がパリで出版されたと同時に、第2次世界大戦が勃発。言論の自由はいっきに奪われてしまいます。
日本ペンクラブの存続が危ぶまれる中、会長の島崎藤村は資金集めに奔走。徴兵されたペンクラブの書記長は、活動の再開を願い、戦場でも日本ペンクラブの預金通帳を肌身離さなかったといわれています。
また、ペンクラブの常任理事は、海外で開かれていた「国際ペン大会」からの招待状に「もはや、連絡することすら不可能な状態にある。しかしわが日本ペンクラブは存在する」と戦火の中から返事を送ります。

ようやく終戦を迎えたとき、日本ペンクラブの会員は、戦争をテーマにした作品を一斉に発表します。
これは、国内でも反響を呼び、広島・長崎の惨状を世界に知らしめる役割をも果たしました。

そして1968年。日本ペンクラブの第4代会長を務めた川端康成が、日本人初となるノーベル文学賞を受賞します。
発足して72年の「日本ペンクラブ」・・・。
日本文学が世界との接点を絶やさないように、まるでタスキを渡すように、文筆家たちが守り続けたクラブなのです。

宮崎県児湯郡都農町。日向灘に面した町に、昭和の初め、永友百二(ひゃくじ)という18歳の若者が、雨の多い宮崎では不可能と言われた果物の栽培に取り組みました。

彼は、雑木林を切り開き、苗を育て、家の周りの田んぼにもナシの苗を植えました。「田んぼに木を植えるなんて」と周囲から非難されながらも、彼は研究に研究を重ね、ついにナシの栽培に成功します。

戦後になると彼は再び新しい取り組みを始めます。それはブドウの栽培。雨が多い土地で、ブドウは絶対出来ないのは、当時の常識でした。それでも彼は、この町の土地や気候に合った栽培法を試行錯誤しながら工夫していきます。そんな彼の情熱に突き動かされ、次第に仲間の農家が増えていきました。
雨や台風、塩害、病気と戦いながら、昭和43年には都農町ぶどう協議会が発足。その後も永友たちは新しい品種の開拓に情熱を傾け、ついに昭和55年、「尾鈴」「日向」というふたつの新しい品種を誕生させたのです。
1本の苗から宮崎の小さな町に奇跡のブドウを実らせた伝説の人・永友百二。ひとりの夢がみんなの夢に広がりました。

その先人たちの夢が、いま、次の世代に受け継がれています。
平成5年に誕生した都農ワイナリー。町役場や地元の企業、有志らが出資する第三セクターのワイナリーです。
みんなの思いは一つ。先人たちの夢の結晶である地元産のブドウだけを使って、この町ならではの風味豊かなワインを造ることです。

今年もボジョレーヌーボーが解禁。日本でも気軽にフランスワインの新酒を味わうことができますが、九州ではそんな本場ワインに負けない国産ワインが育っています。

11/11 放送分 「竹楽(ちくらく)の灯り」

「竹を楽しむ」と書いて「竹楽」。滝廉太郎の『荒城の月』で知られる大分県竹田市では、秋が深まると、城下町を2万本の竹灯籠(たけとうろう)が照らす行事「竹楽」が始まります。

毎年、10万人以上の観光客を集めるお祭りですが、目的は観光客の数ではありません。竹田はその名の通り、食用や生活用品をつくる材料となる竹の名産地。ところが近年過疎化が進んだ里山では竹の手入れをする人手がなく、放置される竹林が増えてきました。その結果、繁殖力が強い竹の茎が杉やひのき、田畑にまで広がって被害を与え、山の保水力まで奪ってしまったのです。

里山がこのまま荒れていくのを見過ごすことはできない、と立ち上がったのは、地元の団体や企業、学校などで結成した「里山保全竹活用百人会」。
子供たちも含め、総勢1800人のボランティアが里山の竹を伐採し、運び出したのです。こうして集められた厄介者の竹。それに新たな命を吹き込んだのが竹楽です。伐採した竹を加工して灯籠をこしらえ、それを城下町に飾り、1本1本に火をともす・・・・。これもすべて市民ボランティアの力。竹楽期間中は、近所の人もいっしょになって夕方に2万本の竹灯篭を道に並べて火を灯し、町中を巡回して風で消えたロウソクに火をともし、夜中になったら全部片付けるという、中腰での大変な作業を繰り返すのです。

里山を守ろうとする竹田の大勢の市民たちによって7年前に生まれた新しい祭り「竹楽」。今年は今度の週末、11月16日から18日まで開催されます。
竹灯籠の柔らかく幻想的な灯り、そしてその灯りを支える竹田の人々の思いにも触れてください。

11/4 放送分 「車椅子を着せ替える」

車椅子を利用している人々に、カラフルなシートで元気づけたい・・・。
そう考えたのは福岡市の浦野智光(うらのともみつ)さんです。

彼は、2年前に友人が交通事故で車椅子の生活になったのをきっかけに、おしゃれな着せ替えシートをプレゼントすることを思い立ちました。
浦野さんと、事故に遭った友の共通の友人が、たまたま車椅子シートを作る会社に勤めていたこともあり、いつも遊んでいた仲間を元気づけたいという思いが一致したのです。
記念すべき作品第一号となったのは、クロコダイル柄のシート。既成の車椅子にかぶせてアジャスターで留めるだけで、おしゃれな車椅子に変身します。
それまでの病院の車椅子といえば、グレーや紺といった地味な色が多かったので、プレゼントされた友人は想像していた以上に喜んで、浦野さんたちと再び繁華街にも出かけるようになったそうです。

「こんなに喜んでもらえるのなら」と、浦野さんは友人の会社と共同開発という形で、女性に人気のビタミンカラーや、ヒョウやシマウマの柄をあしらったアニマルシリーズなど、次々と新作を商品化しました。
一番苦労したのは、材質。汚れをふき取りやすいようにビニールレザーを使用したり、座り心地も考えて弾力素材のウレタンを多めに使用したり。
すべてに「使う人の立場になる」という気持ちが込められています。

車椅子を利用する人々にとって、それは自分の身体の一部となるもの。だからこそ、服を着替える感覚で車椅子を着せ替え、街をにぎやかにしたい、と浦野さんは思いを語ります。
そんなカラフルな車椅子は、街だけでなく、使う人の気持ちまでカラフルにしているのです。

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