fmfukuoka

【その1】 制作の始まりと物語の背景作り

作演出の阿久根です。

今日は、物語の舞台となる時代や場所、そして、これをやることになったキッカケについて書こうと思います。

企画を出してきた大塚さんが、描きたいと思ったのは中国を扱ったもの。
少し前に中国を題材にドラマを作ったこともあって、いろいろお勉強した結果、彼の中で空前の中国ブームが起きてました。

それで中国が舞台。

そして、ラジオなので、音中心でドラマ構成出来るツールとして、【琴】という楽器を扱うことを思いついたらしいです。

そもそも大塚さんったら、大の韓流メロドラマファン。
『冬のソナタ』のロケ地なんぞを巡ったりするオヤジさんだったりするのです。
それで、どうしても感動して涙する物語を作りたかった。
悲恋モノ悲恋モノうるさかった。
ホントに。

で。

大塚さんは感銘を受けたり、心に響いたりすることを

『琴線に触れる』

というのを発見し、ある日、僕を呼び出し、

「ねー、阿久根君、カンドーしたりすること『琴線に触れる』って言うんだよ。知ってた?」

てなことを言ってきました。

そんな周知のことを高い目線から言うオヤジさんには、もちろん現場ではたくさんツッコんどきましたが、結果、そーゆーのがキッカケで、彼の中では

【琴の響き=感動物語】

という式が完成していたようで......
そんで、箏(こと)を悲しそうに爪弾く女性像が先行してヒラメいて、「悲恋物語が出来る!」と思ったみたいです。

で、僕は箏テーマの物語を書くハメに。

書く前に、もちろん大塚さんが調べておいた琴(こと)についての資料も受け取っていたのですが、それを見てみると、琴は狩猟民族の弓から発展した楽器で、弦楽器全般を【琴】というとありました。
なので、ハープを始め、琵琶やギターや三味線もぜーんぶ【琴】ということに......

現在、あの横に寝かせて弾く楽器は【こと】とは言いますが、正しく書くと【箏】と書いて、これで【こと】だったりします。
中国では、現在【古箏】(こそう)と呼ばれています。

日本の箏と、中国の古箏では、カタチは同じようでも、音を響かせる構造などが違っていて、それぞれ、その土地で独自の進化を遂げた楽器だったりします。

中国地図.JPG
では、その【箏】(寝かせて弾く楽器)の原型が、どの時代にどこで広まったのかというと、2200年くらい前の中国、それも西方の『秦』辺りだと言いますから、戦国時代の終わり...秦の始皇帝が中国を統一する頃です。

だから、舞台は春秋戦国末期の中国です。
始皇帝が即位した紀元前246年から少しあとで、秦が中国を統一する前にしました。

西の端に位置していることから蛮族の国として疎まれていた秦が、国力を持ったことで世界各国から人が集まってくるようになり、アラビア方面や北方民族から文化が流入しました。
そこには多くの楽器も渡ってきて、箏の原型もそこにあったのではないかと思います。

物語の舞台は、魏という国です。
それは、秦にまだ対抗できる力を持つ大きな国であり、秦から新しい文化が一番に入ってくる国だったのでそうしました。
ヒロインの姜琰(きょうえん)は、秦から流れてきた大道芸人一座の踊り子です。
姜琰の名前も、そのルーツが西の少数民族の出であると暗示させています。

一方、甘沢(かんたく)は、前249年に楚(そ)から滅ぼされた魯(ろ)という国の楽士です。
魯は、東にある国です。
なぜ東の魯にしたのかというと、そこは儒家を多く輩出した国で民度が高いため、西方の国を蛮族扱いする気風があったからです。

編鍾(へんしょう)という楽器の楽士であった甘沢は、魯が滅んで失業し、一人で扱える新しい楽器を探しているところで、箏を弾いている姜琰と出会います。

甘沢は、始めに箏を見たとき、寝かせて弾く楽器を珍しがっていますが、

「私は新しい楽器を求めている。しかし、お前の様な大道芸人の楽器では、王侯貴族に取入ることは出来まい」

と、ちょっとした差別的発言をしているのは、弦楽器は蛮族のものであるという当時の常識から出てきているのです。

秦などでは一般的に普及し始め、女性のみならず、男性でも弾く者もいるのに、気位の高い東の人間である甘沢らしいセリフとなっています。

そういう背景も知っているとより一層楽しめます(と思います)。

この物語は、悲恋ドラマとしても面白く作り、歴史好きの聴取者をも満足させたいと思っていろんな考証を組んでいますので、それはそれは苦労したワケです。


長くなりましたので、続きはまた今度。

作演出 阿久根知昭

Podcast

アーカイブ