FM 福岡 FUKUOKA

2021年5月22日のゲストは 上妻 宏光さんです。

  


毎回、素敵なゲストをお迎えしてその音世界をアーティスト自らひもといていただくプログラム『SOUND PUREDIO presents 音解《オトトキ》』。

5月は、音解の新作録りおろしインタビューを5週に渡ってお届けします。

今週は先週に引き続き三味線演奏家、上妻宏光さん。

前回も興味深いお話をたくさん聞かせていただきましたが、今週はコロナ禍で延期されていたコンサート復活のお話や、メロディメイカーとしての上妻宏光さんのお話など、さらに深くひもといていきます。

どうぞお楽しみに。

まずは今回も上妻宏光さんがピックアップしたドライビングミュージックから。ここでは意外な『あの人』の思い出も聴かせてくれました。

今日の音解は上妻宏光さんの『風林火山~月冴ゆ夜~』からスタートです。


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(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員が聞くことができます)。


2007年のアルバム「蒼風」にも収められたこのナンバーは、大河ドラマ 「風林火山」の曲としておなじみの方も多いでしょう。そして、「BEAMS」と同じくSound Puredioのカーオディオのサウンドチェックに使われているそうです。

「作曲は千住明さんなんですけど、僕のお弟子さんでもある志村けんさんも大好きな曲で、志村さんご自身の舞台でもこの『風林火山~月冴ゆ夜~』を演奏してくれていました。僕にとっても大変思い出深い曲になりましたね」

今さら説明するまでもない不世出のコメディアン志村けんさん。
昨年の3月に惜しまれつつこの世を去ってもう1年。この時期はついつい思い出してしまいます。 志村けんさんは、生前上妻宏光さんに師事していて上妻さん自身「唯一の弟子」と公言されていた仲。その師弟が演奏する姿はCMでも観ることができました。 三味線演奏家のお弟子さんとしての志村けんさんってどんな方だったんでしょう?

とても真面目な方。ストイックな方で練習したものを次のお稽古ではちゃんと完璧に仕上げてくるというような人でしたね」

言葉少なに淀みなく答える上妻さんでした。

さて、上妻さんは去年3月に、ソロデビュー20周年を記念して、ご自身の原点である津軽五大民謡に取り組んだアルバム『TSUGARU』をリリース

さらに、矢野顕子さんとのコラボユニット『やのとあがつま』の1stアルバム『Asteroid and Butterfly』をリリースと精力的に活動を行ってきました。

「『TSUGARU』というアルバムは基本的には三味線のソロの演奏を聞いていただくというものなんですけども、ゲストに津軽三味線の名手である澤田勝秋さん(澤田流家元)に三味線演奏家の本條秀太郎さん(本條流家元)をお迎えして、さらに青森県の地元、昔ながらの歌い方を伝承している民謡歌手、長谷川勝枝さんの歌に僕が伴奏をつけるというアルバムになっております。

そして矢野顕子さんとのアルバム『Asteroid and Butterfly』。これは民謡の楽曲も多く取り上げているんですけども『やのとあがつま』による民謡の新たな構築をしたものと、オリジナルも混ぜながら二人にしかできない世界観を一枚に収めたアルバムになっております」

『やのとあがつま』については前回、上妻さんにたっぷりとお話しいただきましたので、よければ併せてお読みください。

さて、お話をうかがうにつれ生の演奏を間近で聴いてみたいという期待が高まるわけですが、昨年は残念ながら予定されていたコンサートがコロナ禍の影響で延期となっていました。そんなステージが今年の秋、ついに再びの開催が決定しました。


『ソロデビュー20周年 特別公演 上妻宏光- 伝統と革新-』

・10月23日(土) 『兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
・10月24日(日) 『東京Bunkamura オーチャードホール』


※詳しくは公式ページなどでご確認ください


「待望の!」というわけですね。

「長かったですよねー。ほんと長いです(苦笑)。
2つの会場で行いますが、兵庫と東京では違うゲストの方をお招きしてですね、アルバムに収録された曲もあれば、今回のコンサートのための新たな競演曲も考えています。その舞台でしかできないアーティスト同士のぶつかり合いであったり、融合であったりを楽しんでもらえるコンサートになっています。また、僕のオリジナル曲などもたくさん演奏する予定ですので、昔から知ってくださっている方も新たなファンのみなさんにも楽しんでいただけると思います、上妻のいろんな面を楽しんでもらえばと思っていますね」

今回、そんなお話しをしている上妻さんのお顔はリモート画面越しに確認できるのですが、本当に楽しそうで今回のコンサートを誰よりも心待ちにしていらっしゃるように見えます。

いやー、やっぱり楽しみですよね。音楽ってリモートでやる良さはもちろんあるんですけど、やはり目の前でお話してコミュニケーションを取るというのはね。音楽はやっぱり生で空気感を感じながら奏でることができるってぜんぜん違うもんなんでワクワクしますよね。久々に、そしてこういう自分の周年の特別公演なんで、いやあ、今からとっても気合入ってます!

そういえば、以前ゲストにお迎えした際に『津軽三味線はその源流をたどればストリートミュージック』というお話をされていたことを思い出します。まさにお客様と対峙して演奏してこその津軽三味線ということなのかもしれません。

満面の笑みの上妻さんを拝見しているといよいよ、渾身のステージへの期待がいやが上にも高まりますね。


さて、ここで上妻宏光さんの音楽をさらに深くひもとくべく、上妻さん自身に一曲ピックアップしていただきました。

上妻さんが選んでくれたのは、先週もお話していただいた佐藤竹善さんとのコラボナンバー、上妻宏光 feat, 佐藤竹善で「この道のむこう」です。

「これは作詞が竹善さんで、作曲が上妻なんですけど、竹善さんにお願いした詞のテーマがですね、多くの方が経験する、中学から高校に進学するとか、仕事で自分の生まれた土地から離れた場所に行くとか、新たなことに挑戦する、そんな人達の背中を押してあげるような応援ソング。勇気や元気がでるような楽曲をつくりたいなと思って竹善さんにいくつかのワードを伝えながらお願いしたんですね」

確かに竹善さんの熟練のボーカルで歌われる歌詞は、新しい世界に一歩踏み出す人々へ向けての前向きな空気にあふれています。そして上妻さんの少し憂いを含みつつ跳ねるようなメロディは美しい旋律がとても印象的です。

あらためて上妻さんがオリジナルで書き下ろす作品は、どのような形であってもいつも繊細でメロディアス。メロディメイカーの資質に恵まれている方だなと思います。

「津軽三味線っていうのはどうしても細かいフレーズとかに注目されがちで、演奏家もそういうところを重点的に演奏する方が多いんですね。そういう中でテクニックとかももちろんあるんでしょうが、僕はやっぱりメロディなんですよね。鼻歌でも歌えるようなフレーズってのをずっと心がけてきたので、歌ものを作るときにも培ってきたものが出てきて、三味線弾きらしくないような曲も何曲かつくることがあったんですね」

上妻さんのそんな楽曲を聴いていると、ギターで言うところのコードやリフであれ旋律であれしっかりしたメロディが浮かび上がってくるというのは特徴だなと思うのです。一方でそれはもしかしたら津軽三味線という楽器自体が潜在的に持つ特徴なんだろうかとも思えるのですが。

「多分、自分だからということなのかなと思いますね。なんなんでしょうねえ。やっぱりメロディの強さというのはあると思うんですね。三味線というのは打楽器的なグルーヴを生むという躍動感、高揚感もあるんですけど、一方でメロディを奏でることができるので、できるだけ心地良いというか自分らしいメロディーを三味線でも演奏したいし、作曲するものに関してもやっぱりメロディをすごく大切に心がけてつくっていますね」

なるほど。 一人の音楽家としてメロディに対する意識が非常に高いことがよくわかります。
津軽三味線のパーカッシブで豪快な打楽器的なイメージに隠れがちなのかもしれませんが、メロディメイカーとしての上妻宏光さんにも今後注目が集まるといいなと思います。

さて、前回は佐藤竹善さん、矢野顕子さんとのコラボレーションについて、和楽器とポップス、あるいは西洋音楽とコラボする際の難しさなどについて色々お話を聞くことが出来たのですが、もうひとつぜひお聞きしたい質問がありました。

多くのアーティストとコラボレーションを重ねる上妻さん。
一緒に組むアーティストによってその都度アプローチを変えたり違いというのはどのくらいあるのでしょうか。ここではせっかくですので佐藤竹善さんと矢野顕子さんとの比較でお話していただきました。

「うーん、なんかねえ。矢野さんとは自分が矢野さんに寄り添うというところがあるし、矢野さんが僕に寄り添うところもあって、竹善さんだと僕が寄るってところもありますしね。そういう意味ではそれぞれアーティストごとにバックボーンもベーシックな部分から違うんですよね。なので極端に言うとクラシックの方とやるのとジャズの方とやるのではアプローチが自分の中では変わってくるんですよね。根本の自分の中の筋というのはあるんですけども、その枝葉に色んなタイプのものがあるので一緒に共演するアーティストによって自分の手法はちょっと変えていきます

それぞれ全く異なる相手に合わせて柔軟に合わせつつ、芯となる部分は決してブらさない。ということでしょうか。
これこそ上妻宏光流コラボレーションの極意、なのかもしれませんね。

それにつけても、やっぱり距離感というのはそれぞれかなり違うものなんですねえ。

「違いますね。矢野さんと打ち合わせする時に僕が例えばニューヨークでご飯を食べながらその空気感でクリエイトするものと、竹善さんの場合ももちろんクリエイトするんですけど、竹善さんはコンサートのあとの打ち上げがまた楽しいんですよ(笑)。なーんかその『打ち上げ感』というか人間の距離というかね。矢野さんとは違う部分が竹善さんにあり、竹善さんにない矢野さんの面白さっていうのがあるんですよねえ」

そのいろんな距離感、空気感の違いがあればこそ、上妻さんが積極的にコラボレーションしている意味があるのだとも言えそうです。

「そうですね。一人一人違うのが面白いんですよね
上妻さんの我が意を得たりの表情にすべてが現れているように思いました。


さて、2週に渡って色々なお話を聞かせていただいた上妻宏光さんの音解、そろそろお時間です。
上妻さん本当にありがとうございました。

「ほんとに毎回時間が過ぎるのが早いですね。自分の楽曲っていうものについて、普段のトークでは出てこないようなこともお話させていただいているので、毎回楽しみにさせてもらってます」
不躾な質問ばかりの私たちにもそんな優しいお褒めの言葉をかけてくれる上妻さん、本当に人としての懐の深さを毎回感じます。

最後に、これから控えているコンサートについて、ラジオをお聞きの皆さんに改めて一言づついただいてまた次回としましょう。



ソロデビュー20周年 特別公演 上妻宏光- 伝統と革新-
・10月23日(土) 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
・10月24日(日) 東京Bunkamura オーチャードホール

※詳しくは公式ページにてご確認ください

「20周年特別公演の方はですね、各会場にゲストの方も参加していただいて、自分の音楽のいろんなつながりだとか音楽の表現を総括して楽しんでいただけるコンサートになっております」


05 Anniversary Tour 上妻宏光“Standard Songs” feat 佐藤竹善 -三味線とPIANOで奏でる名曲達-
福岡公演 9月23日(木・祝)開場15:00/開演15:30
    電気ビル・みらいホール

山口公演『Sound Puredio presents』  9月25日(土) 開場15:00/開演15:45
    防府市地域交流センター アスピラート

※詳しくは公式ページにてご確認ください。

「竹善さんとの公演はいろんな名曲を聴いていただける、名曲を通じて二人の良さというもの、音楽の広がりを楽しんでいただける、三味線ってこんなこともできるんだな。楽しいなってことも感じていただけるコンサートになっていますんでぜひ見に来ていただきたいなと思います」



上妻宏光さん、ありがとうございました。



上妻宏光 Official Web Site(外部リンク)