2021年5月15日のゲストは 上妻 宏光さんです。
毎回、素敵なゲストをお迎えしてその音世界をアーティスト自らひもといていただくプログラム『SOUND PUREDIO presents 音解《オトトキ》』。
5月は、音解の新作録りおろしインタビューを5週に渡ってお届けします。
今週は三味線演奏家、上妻宏光さん。
ジャンルも国境も飛び越えて八面六臂の大活躍、デビュー20周年を経て原点の『「伝統」と「革新」』に立ち返り、津軽三味線を後世に伝える活動にも力を入れていらっしゃいます。
今回はリモートでつないで、全く違うジャンルのボーカリストと共演する上妻宏光さんの音楽家としての矜持や実践的なテクニックについてお話をおうかがいすることができました。
今週のお相手はちんです。
この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く! → FM福岡 / FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員が聞くことができます)。
いつものように、まずは上妻宏光さんが選んだドライビングミュージックからスタートです。
上妻さんが選んでくれたのは自身のナンバーから「BEAMS」。
この曲が収められた2002年のアルバム「BEAMS~AGATSUMAII」では全米でのデビューも果たし、上妻宏光の名前を世に知らしめたまさに代表曲のひとつです。
改めてご自身ではこの「BEAMS」という曲についてどのように思われているのでしょうか。
「この『BAMES』という曲はもともとじょんから節のリズムを基調にしていて、2002年発売のアルバムの中の一曲なんですが、もう躍動感、疾走するようなサウンドも三味線の未来を感じさせるような勢いのある曲に仕上がってるかなと思いますね」
この番組を提供しているSOUND PUREDIOの井川社長は、カーオーディオのサウンドチェックにこの曲を使用しているそうです。ご存知でしたか?
「はい、昔から井川社長からお話は聞いていて、大切なサウンドチェックに自分の曲を使っていただいているっていうことに嬉しさもありましたね」
SOUND PUREDIOの原音の再現へのこだわりは番組でも何度も紹介していますが、その原点に上妻さんのCDがあったのかもしれませんね。
「いやあ、それに携わるというか自分の音を使っていただいているのはものすごくありがたいですね」
少し照れた笑顔を見せる上妻さん。
こういったエピソードにも上妻宏光さんのサウンドへのこだわりが、音のプロフェッショナルにどのように評価されているのかを垣間見ることができます。
そんな上妻さんは今年の秋からツアー『05 ANNIVERSARY TOUR 上妻宏光“Standard songs”feat.佐藤竹善 -三味線とPIANOで奏でる名曲達--』を開催。
多くの人に三味線の音色を聴いてもらいたいという上妻さんの想いから始めた“Standard Songs”公演に、SING LIKE TALKINGのボーカリスト、佐藤竹善さんをフィーチャーしたものです。
恒例のツアー、今年でもう5年なんですね?
「そうなんです。タイトル通り、いろんなジャンルの名曲、スタンダードを竹善さんの歌声と自分の三味線の組み合わせを通して新たな表現の違いを楽しんでいただけるコンサートになっています」
上妻さんはジャンルを超えて、さまざまなアーティストとのコラボレーションも積極的に行ってきました。そんな中で5年の長きに渡ってツアーを行っている佐藤竹善さんとは、同じステージに立つ面白さや共通点といったものがあるのでしょうか。
「そうですね。佐藤竹善さんはJ-popはもちろん演歌もすごく大好きなかたなんですね。なのでライブでは色んなジャンルの歌声も聴くことができるのですが、自分も何曲か民謡を歌ったりするので、みなさんに色んなジャンルの歌を聞いていただけます。
あと共通というところでは、竹善さんは青森県の出身で、僕が演奏しているのは青森県の津軽三味線。竹善さんも小さい頃から津軽三味線を何度も聞いて造詣も深いんですね。ステージで、三味線についても細かく、竹善さん目線での紹介の仕方をしてくれるんですよ。だから一般の方も、なるほどそういうことでこうなんだなと、すごくわかりやすく説明してくれるのでとてもありがたいですよね。
自分じゃ言いづらいんですが、『こういうジャンルとやるのは三味線は大変なんだけど、上妻くんはさらっとやってくれるんです』みたいに割といい感じに褒めてもくれるんですね。そんなふうに理解していただいていることはすごくありがたいです」
そう言って笑う上妻さん。
個人的には、なんとなくお二人の雰囲気にちょっと共通点も感じます。
佐藤竹善さんの独特の大人のユーモアみたいなものを上妻さんにも少し感じたりすることもありますよ。
「(笑) 竹善さんもラジオを色々やられててトークも立つ人なので、僕自身も毎回トークの絡みっていうのがすごく面白いし、勉強になりますよね」
息のあったお二人のおしゃべりもライブでぜひ堪能したいポイントですね。
さて、今回のようにボーカリストの方との共演も多い上妻さんですが、いわゆる「歌もの」などでは通常の演奏とはアプローチや考え方など異なるものなのでしょうか。
「そうですね。もともと三味線というものは伴奏する楽器なんですよ。なので民謡に伴奏をつけるということは僕は6歳からやってはいるんですけども、違うジャンルの歌につけていくとなると、民謡とはコード進行も違うわけですよね。なので民謡のようについていけるかというと、それはそう簡単ではないなと。
あくまで歌を邪魔しないように、でもたまに歌を先導するような、あるいは歌をあとから追いかけるような、オブリ(オブリガード)と言うんですかね。そういう歌の合間に三味線のフレーズを入れていく、かつ間奏で三味線のソロを弾き、最後にユニゾンなどで歌を盛り上げていくというような手法って、なかなかデビューの頃は難しかったんですけど、多くのボーカリストの方と共演させていだたくことでノウハウというか引き出しはだいぶ多くなりましたね」
世界中のミュージシャンやボーカリストとジャンルを超えて共演することで、独自のテクニックをコツコツと積み上げてきたんですね。
「そうですね、本当に現場現場で鍛えられました」
同じ音楽とはいえ、和楽器のルールや民謡の世界の根本的な音階構造やリズムなど、ポップスや西洋音楽との間には乗り越えるべき壁が数多くある中で道なき道を開拓し続けてきた上妻宏光さん。
そんな上妻宏光さんと佐藤竹善さんの息のあった極上のステージ、福岡、山口でも開催されます。
『05 ANNIVERSARY TOUR 上妻宏光“Standard songs”feat.佐藤竹善 -三味線とPIANOで奏でる名曲達--』
福岡公演:上妻宏光“Standard Songs”通算50公演記念公演
日時:9月23日(木) 開場15:00/開演15:30
会場:電気ビル・みらいホール
山口公演: SOUND PUREDIO PRESENTS
日時:9月25日(土) 開場15:00/開演15:45
会場:防府市地域交流センターアスピラート
詳しくは公式WEBでご確認ください。
さて、ここで上妻宏光さんに、自身の楽曲から一曲選んでいただいて、自らその楽曲へのこだわりなどを解説していただきました。
上妻宏光さんが選んでくれたのは、矢野顕子さんとのユニット「やのとあがつま」として昨年リリースしたアルバム「Asteroid and Butterfly」から「おてもやん」です。
日本を代表する異能のシンガーソングライターであり、上妻さんと同じくジャンルや国境を超えて縦横無尽に活躍する矢野顕子さん。2つの才能が手を取り合って、誰もが知り、数多くの人々に歌われてきた民謡「おてもやん」を独自の音楽へと昇華した、まさに「やのとあがつま」ならではの一曲です。
「僕の三味線のアプローチでいうと民謡で同じようなフレーズを繰り返すやり方があるんですが、今回は民謡とは異なる、あえてリズムをずらしながらのアプローチをしました。だけど、よく聴いていただくとやっぱりどこか民謡とか三味線らしさみたいなものも感じるという。反面、歌は民謡なんだけども矢野さんが歌うとやっぱり矢野顕子ワールドになって、しかも2コーラス目はなんと日本語じゃなくて民謡を英語で歌うという(笑)。これもやのとあがつまならではかなぁと思いますね」
確かに突然、矢野さんが英語で歌いはじめ、驚かされると同時にそこから加速度的にスリリングに展開していくあたりにはゾクゾクさせられました。歌詞は矢野さんのオリジナルなんですか?
「そうです、矢野さんが作った歌詞なんですけども、内容を尋ねたらおてもやんとは全然関係ない歌詞だって言ってました。まあ、でもあの意外性ってのはおもしろかったですねえ」
先程のお話からすると、この曲のように民謡と矢野顕子さんの独自の音世界、さらにリズムの工夫などが盛り込まれているような楽曲では非常に高度な技術が必要とされるんですね。
「そうですね。このリズムのままバンバーンと弾くことは多分できるんですけども、今回そうじゃない、もっと違う領域を矢野さん自体も求めているところもあるので、それにどう自分も応えていこうかなという部分もあるし、民謡のフレーズをリフレイン、繰り返すことでトランスになるような面白さも欲しい。民謡とは違うんだけども民謡の匂いもする、というこの微妙なバランスですよね。これねえ、なかなか難しくて本当に現場で練り上げていく。
家で考えていく作業もあるんですけど、現場で矢野さんと色々話して、コミュニケーションをとって、こうしていこうかってのを一曲一曲作っていくっていう作業ですよね」
なるほど、完成した楽曲でとても印象的な独特の酩酊感のようなものは、現場でやり取りを重ねながら積み上げていけばこそのライブ感なのかなとも思えます。
「原曲の「おてもやん」を聴くと『あれ、ちょっと違うな』と思うんだけど、矢野さんが歌っている旋律は民謡の旋律そのものなんで「おてもやん」は『ああ、やのとあがつまで聞いたな』と思われても民謡で聴くとまたぜんぜん違うカラーなんです」
このやのとあがつまの『おてもやん』は聞けば聞くほど『不思議』としかいいようがない味わいがありますね。
「本当にそうです。
以前、坂本龍一さんの番組で前に聞いたことがあって。同じメロディーをクラシックのプロの方に歌ってもらうのと矢野顕子さんが歌うのでは世界がぜんぜん違うらしいんです。でもこの世界観が違うことこそが音楽だと坂本龍一さんは言ってたんですね」
そのお話を聞くと、やはりこの楽曲での矢野顕子効果みたいなものって非常に大きいんですね。
「やはりボーカルというか、この声の響き方って大きいですよねえ」
その声の魅力はもちろんですが、そこに果敢に切り込んでいく上妻さんのダイナミックな津軽三味線が素晴らしく、終盤に向けて2つの才能がぶつかり合う様は音楽を聴く喜びに溢れています。その秘密が少しだけ理解できたようにも思います。
さて、今週はここまで。
上妻宏光さんとお話をすると、いつも笑顔でざっくばらんになんでもお話していただけるのですが、一方でこちらの勝手な思い込みかもしれませんが、どこか凛とした「名人」の緊張感のようなものも感じられます。そんな中でも、とりわけ矢野顕子さんのお話では、時に無邪気にその共演を面白がっているような楽しそうな表情が印象的でした。
もちろん上妻宏光さんの世界はこれだけではとてもとても収まりきれません。
次回も引き続きお招きして、さらにその音世界についてお話を聞かせていただきます。
どうぞお楽しみに。
最後に『05 ANNIVERSARY TOUR 上妻宏光“Standard songs”feat.佐藤竹善 -三味線とPIANOで奏でる名曲達--』について、上妻さんからラジオをお聞きの皆さんに一言頂きました。
「一言というのはなかなか難しいんですが、皆さんが本当に知っている名曲を竹善さんと自分の世界観でまた違う角度で楽しんでいただける。はじめて来ていただいた方でも楽しんでいただけるコンサートになっているので、ぜひ遊びに来ていただきたいなと思います」
上妻宏光 Official Web Site (外部リンク)