2018年1月20日「ノーベル賞作家の嘘と方便」
フランスの国民的な詩人・小説家でノーベル賞作家でもあるアナトール・フランス。
彼の元には、時おり無名の若い詩人による自費出版の詩集が売り込みのために送りつけられていました。
フランスにしてみれば、そんなものにいちいち目を通している時間はありません。
ある日、若い詩人がフランスを訪ねてきました。
「先生、僕の詩集を読んでくれましたか?」
フランスは目を輝かせて答えます。
「もちろん! よかったよ。とくに24ページの詩が一番素晴らしかった」
若い詩人はフランスに礼を言って喜び勇んで帰っていきました。
そのやりとりを聞いていたフランスのマネージャーがフランスを咎めます。
「先生、嘘を言っちゃいけません。先生はあの若者の詩集を読んでないではありませんか」
するとフランスは微笑みを浮かべながらこう言い返しました。
「私はあの若者を励ましてやりたかっただけなんだ。
24ページにはもしかすると本当に素晴らしい詩があったかもしれないよ」
やさしい人間味の溢れた作品を書いたアナトール・フランスらしいエピソードですが、その一方、彼はこんな名言を残しています。
「自分の大切な本を人に貸してはならない。貸せばまず戻ってこないからだ。
現に私の書斎にいま残っている本といったら、そうやって人から借りたものばかりなんだから」。
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