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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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2017年4月8日「浅利売りの少年に教わる」

明日、4月9日は「しっくい」という語呂合わせで、左官の日。
左官は建築工事で塗り壁を塗る職人ですが、専門技術とセンスが必要とされ、一朝一夕で簡単にできるものではありません。
また、左官の塗り壁は芸術とも捉えられ、中にはその技術を作品として海外へ伝えている職人もいるほどです。

その草分けとされるのが、幕末から明治期に活躍した「伊豆の長八」と呼ばれる左官。自由な発想をもった長八は実用だけの仕事に満足できず、漆喰に色を付けた立体的な漆喰彫刻を考え出します。
この建築装飾は漆喰鏝絵と呼ばれ、長八は鏝絵の名人と崇められました。

そんな長八が江戸の魚問屋の注文で鯛の鏝絵をこしらえました。
「我ながら良い出来」と眺めていると、そばにいた浅利売りの少年が
「へただ。親方は江戸前の鯛を知らないね」と言います。
「何を!」と怒る長八に、少年は「本物を見せてやる」とひとっ走り河岸へ行って鯛を求め、それを長八の前に並べて講釈します。
「こっちが江戸前。網にかかった後に籠で囲われた鯛は、心配ごとがあるのか、面(つら)にシワがある。そっちは伊豆生まれの鯛。海岸の岩の貝を突き壊して食べるので、ほら、鼻が曲がっている」

これを聞いた長八は「初めて鯛の見分けを知った。名人とおだてられた自分が恥ずかしい」と、ただちに塗り直したそうです。