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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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2016年11月20日「引きこもって30年」

明治から昭和にかけて活躍した画家・熊谷守一(くまがいもりかず)。
東京美術学校を首席で卒業した熊谷は、ろうそくの明かりに浮かぶ自画像で文展に入賞し、光と影の画家・レンブラントの手法を受け継ぐ画家として将来を嘱望されます。
しかし、画風は写実的なものから単純明快な線と色を使った、いまでいうグラフィックデザインのようなものに変化していきました。
好んで描いた絵のモチーフは、身近な動物や植物などの小さな生命。

60代になると家を一歩も出ない引きこもりが始まり、それは30年間続きます。
30年もの間、一日中家の中で何をしていたのかというと、昼間は庭先で見えるチョウやカエルなどをじっと観察し、草や花に熱心に見入り、夜になればアトリエに入って、描けても描けなくても2時間制作。
寒い季節は"冬眠"と称して絵を描きませんでした。

一匹のアリを描いた作品があります。
一見、稚拙な線だけで描いた子どもの落書きのようにも見えますが、いまにも動き出しそうな生命力を感じるこの作品について、熊谷は生前、こう語っています。
「地面に頬杖つきながらアリの歩き方を何年も見ていると、アリが左の2番目の足から歩き始め、どの順序で脚を動かしていくかを発見しました」

1点の作品を描くために何年も観察を続ける。
それが、画家 熊谷守一30年間の引きこもりだったのです。