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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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10/26「本が結んだ二つの人生」

明治維新の激動のときに、北海道では函館戦争が繰り広げられましたが、このとき、ひと組の本が人と人を結び、人生を、歴史を変える大きな役割を果たしました。

戦いの終盤、明治新政府軍の参謀であった薩摩藩の黒田清隆は、五稜郭で旧幕府軍を指揮する榎本武揚に降伏を勧める使者を送りますが、榎本は玉砕の覚悟を伝えると「万国海律全書」2巻が戦火で失われることを惜しみ新政府軍に送り届けるのです。
それは榎本がオランダ留学から持ち帰った本で、海上の国際法を論じた日本の近代化に欠かせぬ貴重なものでした。

黒田は深く感銘を受け、新政府軍は本の返礼として酒五樽を贈り、さらに最後まで存分に戦えるようにと武器弾薬まで送ろうとしたのです。
本が結んだこの出会いが、榎本に降伏を決意させ、函館戦争を終結に導いたのでした。

この後、黒田は榎本死罪を求める声の中、坊主頭に剃髪してまで助命嘆願に奔走し、榎本を明治政府の官吏に登用して活躍の道を拓くと、榎本はやがて総理大臣となった黒田を支えて大臣を歴任。
さらに黒田の娘が榎本の長男に嫁ぎ、黒田が亡くなった際には、並いる薩摩藩出身の政府高官ではなく榎本が葬儀委員長を務めたのです。

二人の生涯の結び目となった本は、宮内庁が所蔵して今日に伝えています。