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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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7/15「幻の山下弁当」

千葉県のJR常磐線・我孫子駅には、「山下弁当」と呼ばれる名物の駅弁がありました。

中身はごく普通の幕の内ですが、その包み紙は、放浪の天才画家・山下清が描いたもの。
有名画家がデザインした駅弁包装紙は、ほかに例がありません。
実は山下清は昭和16年から4年間、この弁当屋さんに住み込みで働いていました。
ひたすらイモやニンジンなどの皮むきをやったり、出来た弁当を駅まで運んだり、その仕事ぶりはとても丁寧だったそうです。

でも、ときにはふいに姿を消し、何か月間も放浪に出ることもありました。
そんな清を弁当屋の人たちは咎めるでもなく、またふらりと戻った彼を温かく迎え入れていたそうです。
これが縁で、後年になって貼り絵画家として有名になった彼は、お世話になったお礼にと、駅弁の包み紙用に絵を描いたのです。

その絵には我孫子駅を走る汽車や、海辺で釣りをする子どもなど、のどかな風景が描かれ、その余白に山下清がこう署名しています。
「おべんとう、僕が働いていた所です あじはいかがですか 山下清」

しかしその後、我孫子駅の周辺は宅地開発が進み、電車を利用するのが通勤客ばかりになると、駅弁は次第に売れなくなりました。
そして昭和から平成へと時代が変わったころ、のどかな風情の山下弁当はついに姿を消し、「幻の駅弁」となったのです。