5/13「タマゴに込めた思い」
今、スーパーなどではパック入りの卵が安く売られていますが、昭和の初めごろ、1個の卵はとても高価で貴重なものでした。
これはその時代のお話です。
小学6年生の秀子さん。
近所の川で泳ぎを覚えた彼女は水泳が大好きで、その腕前も地域の水泳大会に出て優勝するほどでした。
ある朝の食事時のこと。
すぐ下の弟が秀子さんに卵を差し出しました。
秀子さんの家の暮らしはけっして裕福ではなく、5人の子どもたちに、月に一度だけ、順番で卵を1個食べさせるのが精一杯。
その卵を食べる番になった弟が、譲るというのです。
「だって、お姉ちゃん、もうすぐ水泳大会だろ? この卵を食べて、うんとがんばってよ」
そう言って弟は恥ずかしそうにうつむきました。
数日後、今度はその下の弟が、そして、まだ学校に行ってない一番下の弟までが卵を譲ってくれたのです。
小さな兄弟たちの思いやりに胸を熱くした秀子さんは、その年の水泳大会では、小学生にして日本新記録で優勝しました。
泳ぐ力を家族からもらった秀子さんは、「私を支えてくれる周りの人たちのためにもっとがんばる!」と心に誓い、水泳を続けていきました。
秀子さんとは、後にベルリン・オリンピックで、日本人女性として初めて金メダリストとなった前畑秀子選手。
レースの実況で、アナウンサーが「前畑がんばれ!」と繰り返し叫んだことが、今も語りぐさになっています。
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