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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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5/22「駅は人生の玄関口」

鹿児島県霧島の山中にぽつんと建つ嘉例川(かれいがわ)駅の開業は明治36年。
県内で最も古い駅舎で、そのノスタルジックな佇まいにひかれて
休日には見学に訪れる人も多い観光スポットとなっています。

この駅は27年前から無人駅となっていますが、なぜか駅長がいます。
レトロな黒い詰襟の制服を着てホームに立ち、列車を迎える福本平(ひとし)さん。
じつは平成16年に任命された名誉駅長なのです。
出勤は土曜・日曜。
駅を訪れる観光客一人ひとりに笑顔で「おじゃったもんせ」と鹿児島弁で声を掛け、駅の歴史を語り、案内します。
非番のときでも線路端の草刈。これらの業務を手弁当でしているのです。

地元出身の福本さんは二十歳のとき、この駅から出征兵士として見送りを受けて戦地に赴き、
戦争が終わると、再びこの駅に復員してきました。
戦後は36年間鉄道マンとして働き、嘉例川駅にも10年間勤めた人です。
この嘉例川駅が百周年を迎えた平成14年。
その祝賀会を地元に呼びかけたのが福本さんです。
ローカル線の小さな無人駅での祝賀会は誰にも相手にされませんでした。
それでも、「百年間も地域の皆がお世話になった駅にお礼をしよう」と説得して回った結果、
次第に賛同者が増え、祝賀会当日は駅前に1300人もの人が集まりました。
そして、このことがJR九州を動かし、観光列車が嘉例川駅で停車するようにダイヤが組まれ、
多くの観光客が訪れるようになったのです。

「この駅は私の人生の玄関口。だから恩返ししているだけ」
と名誉駅長をしてきた福本さんは、去年の暮れに85歳で退任。
嘉例川駅とともに人生を歩んだ福本さんの思いは、いまも地域の方々と、後任の名誉駅長に引き継がれています。