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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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4/10「母子飛行」

明治43年、日本の空に初めて飛行機が飛びましたが、
その後、大正10年には日本初の民間パイロットが誕生し、航空免許が発行されました。
その人は、後藤勇吉。宮崎県の延岡出身で、根っからの飛行機好きです。

彼はパイロットとして旅客飛行や郵便飛行、農産物輸送などを初めて行い、
また飛行大会で優勝したり、高度5000mを突破したり、日本一周飛行に挑戦したりと、
さまざまな記録を打ち立てています。
ところが後年、彼自身が一番思い出に残る飛行として挙げたのは、
そんな偉業を成し遂げた飛行ではなく、故郷・延岡への訪問飛行です。

当時の九州の人たちにとって飛行機はまだまだ珍しい代物。
1万人の群衆が見守る中、後藤は海岸から自慢の飛行機を操って舞い上がり、
宙返りなどを披露して拍手喝采を浴びました。
その後には、次に見物していた友人知人の誰かを飛行機に乗せてあげようと、希望者を募りました。
しかし、皆怖がって、だれも乗ろうとはしません。
そこで勇吉は父親を誘いますが、「ちょっと体調が悪くて」と尻込みする始末。

そのとき「私が乗せてもらおう」と申し出た人がいます。
勇吉の母親・チカです。
「勇ちゃんの操縦なら安心じゃもんね」と彼女は着物の裾をたくし上げて、勇吉の後ろの座席に乗り込んだのです。
二人を乗せた飛行機は空に舞い上がり、しばらく旋回して下りてきました。
チカは相変わらずニコニコと満足げな顔。
「飛行機が思ったよりよっぽど安全な乗り物だと分かりましたよ」と群衆に向かって言ったそうです。

我が子ゆえに安心して身を委ねてくれた母の気持ち。
勇吉にとってこの飛行は、忘れられない思い出だったのです。