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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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7/11「帝王のやさしさ」

オーケストラの指揮者は、手にした小さな指揮棒を動かすだけで演奏者全員を完全に支配し、
オーケストラの演奏を自在に操ります。
20世紀に活躍した指揮者の中で、クラシック音楽に親しみのない人でもその名前を知っているのが、
ヘルベルト・フォン・カラヤンでしょう。
優れた指揮者はよく巨匠と呼ばれますが、カラヤンの場合は帝王と称されるほど、
近寄りがたい畏敬の念をもたれていました。

デビューは1929年。
1989年に亡くなるまで、ベルリン・フィルを中心に、世界の主要歌劇場とオーケストラに君臨したカラヤンは、
音楽に対して独特の美学をもち、オーケストラの楽団員には、ゆるぎない正確さと完璧さを要求しました。
そのうえで、重厚で緻密なアンサンブルを追求していきました。
ところが、そんなカラヤンも、思いがけない面をみせることがありました。

ある日、ウィーンの国立歌劇場でモーツァルトの『レクイエム』を指揮していたときのこと。
管楽器奏者の一人がリズムを乱してしまったのです。
ごくごく小さな乱れではありましたが、それがだんだん皆の演奏とずれていきます。
カラヤンはなんとかそのズレを戻そうと試みましたが、修復できません。
そのうち、演奏を聴いている聴衆たちにも気づかれそうになりました。
その瞬間、カラヤンは演奏を中断。そして振り返って聴衆のほうを睨みました。
つまり、演奏を中断したのは、演奏者のほうではなく、
聴いている聴衆のほうに何か問題があるかのように振る舞ったのです。
その後、気を取り直したかのように、カラヤンはまた最初から『レクイエム』の指揮を始めました。

トラブルが起きた際の素早い判断と対処。
そこには聴衆の面前で演奏者に恥をかかせない、そんなやさしさが込められていたのです。
ちなみに、2回目の演奏は完璧。
聴衆たちもまた、名演奏を満喫することができました。