7/13「星になった一貫齋」
夏の夜空に輝く無数の星・・・。
その神秘の姿を初めて天体望遠鏡で見た日本人を紹介します。
その人の名は、国友一貫齋(くにともいっかんさい)。
幕末の江戸時代に生きた鉄砲の鍛冶職人です。
旺盛な研究心にあふれていた彼が興味をもったのは、星がきらめく宇宙の世界。
当時の日本は「遠眼鏡」と呼ばれる望遠鏡はありましたが、それは測量に使うもので、天体観測をする性能はありませんでした。
そこで一貫齋は、自らの手で天体望遠鏡を作ります。
書物も指導者もない中、苦心と失敗を重ねながら1833年に完成させたのは、今日でいうグレゴリー式反射望遠鏡。
それを使って星空をのぞき見た彼は、その神秘的な姿に心を奪われ、月や惑星の天体観測に夢中になりました。
観測した土星の輪、木星のしま模様やその5つの衛星、金星が欠けている様子などを観測図に記していますが、それは実に正確な内容となっています。
また、彼は半年にわたって太陽の黒点の様子を観察して記録に残していますが、それもまた世界の天文学史上大変貴重な文献とされています。
ところが、このころ日本は厳しい日照りが続き、やがて全国で作物が取れなくなってしまいました。
いわゆる「天保の大飢饉」。
そのとき一貫齋は、片時も手放さなかった望遠鏡をすべて各地の大名に売って、そのお金で村人を飢えから救ったのです。
そのため彼の天体観測はそこで途切れ、後を引き継ぐ者もなく、やがて彼の残した記録も忘れ去られていきました。
そんな一貫齋の名がよみがえったのは、1998年。
火星と木星の間を回る小惑星が発見され、その名が「kunitomoikkansai」と命名されたのです。
その新しい小惑星を発見したのは、かつて一貫齋が飢饉から救った滋賀県の村の近くに建つ天文台です・・・・。
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