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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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10/14 放送分 「民俗学発祥の村」

全国でも珍しい焼畑農業がいまも行われている宮崎県椎葉村。山深いこの村は、「民族学発祥の地」としても知られています。
それは、今からおよそ100年前、当時、農商務省の役人だった柳田国男がこの地を訪れたことから始まりました。

明治41年、農業政策の一環として九州一円を調査していた柳田は、椎葉村で古代からの原始的な焼畑農業が存続していると聞き、本来視察ルートには入っていなかったこの村へ、山道を歩いてやってきます。
初めての東京からのお客様に驚きながらも、村長と村人たちは彼を手厚くもてなし、村の暮らしぶりを丁寧に説明しました。
それは、稲作が伝来する以前のような暮らしぶりで、すっかり感激した柳田は村長の案内で、一週間村の民家を泊まり歩きました。そして、村人たちが熱心に語る、イノシシ狩りにまつわる猟のやり方や儀式、しきたり、焼畑の技術、そして村に伝わる古い言葉や言い伝えなどを、興味深く見聞きします。
時代は急速に近代化が進んでいた頃。こうした記録をいま残さなければ、日本の伝統文化は失われてしまう、という危機感があったのかもしれません。

翌年、この貴重な椎葉村での体験は一冊の本になりました。
それは同時に、民族や地域社会の生活や風俗を研究するという新しい学問、「民俗学」が誕生した瞬間でもあります。
それ以後、彼は全国各地の方言から昔話にいたるまで、あらゆる資料を収集し、生涯を通じて100冊を超える民俗学の著書を残しています。

柳田国男は語っています。
「書物で学ぼうとしたら、一生あっても足りない。現地を歩いて、人々の思想にふれることが大切である」と。
椎葉村でのふれあいが、後世に残る学問の第一歩となったのです。