9/2 放送分 「小さな忘れもの」
夕刻のバスの中は、家路を急ぐ人たちで少し混雑していました。
バスは住宅街にさしかかり、とある団地前で停車します。
人ごみの中から、料金箱の前に現れたのは、ランドセルを背負った小学生の女の子でした。
「あのね、これ、お母さんから預かったの…」と言いながら、自分の料金とは別に、小銭の入った小さな白い紙の包みを運転手さんに渡しました。
運転手さんは、何度もうなずいて、満面の笑みで「はい、ありがとう」と言ってその小さな包みを受け取りました。
その女の子のお母さんは、以前、バスの中で財布を忘れたことに気が付き、運転手さんに申し出たのでしょう。
「今度でいいですよ」。そう言われた時、どんなにほっとしたか目に浮かびます。
確かに、払い忘れたバスの料金を後日返しただけのことかもしれません。
でも、そのバスに乗り合わせた誰もが、その光景に拍手を送りたい気持ちでいっぱいになりました。
忘れものをしてしまうことは、誰にでもあることですが、そのお母さんは決して忘れてはいけない大切なものを娘に教えてあげている??そんな気がしてなりませんでした。
女の子を降ろしたバスは、温かい気持ちに包まれたまま、夕焼けに照らされながら出発しました。
さまざまなふれあいに出会うバス。今日もきっとどこかで、小さなふれあいを楽しみながら、私たちの街を走っています。
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