FM 福岡 FUKUOKA

2025年4月5日放送
「60代の家具職人が、この春に独立した30代の弟子へ宛てた手紙」

「機械の音はノイズで、手加工の音はサウンドです」。

これは修行を始めて数年後の君の言葉だが、面白い表現だと感心したのをいまでも覚えている。

私なりに分析すると、それは君が常にニュートラルな気持ちで木と向き合っていたからこそ、

無機的な機械音が耳に入ることで、気持ちに影響してしまうことが嫌だったのだろう。

そのような感性をもつ君は、これから多くの独創性溢れる家具を、

手加工のサウンドに乗せて生み出していくと思う。

そんな君に私から贈る言葉は、やはり「ネクスト・ワン」がふさわしい。

これは、かのチャールズ・チャップリンが、

「あなたの最高傑作は?」と尋ねられた時に、「次の作品だ」と答えた有名な言葉だが、

私は職人の世界に限らず、あらゆる分野で大事にしなければならない精神だと思っている。

修行には「これまで」という終点はない。

むしろ努力を重ねるほど、完成への道程は遠く険しく思われてくるのが、

創造という営みの厳しさであり宿命であるといえる。

君のこれからの人生が最後の一瞬まで、自らの技と感性を磨き続ける建設の連続であることを願っている。

そして、まだ誰も見たことがないような、新しい家具の世界を切り拓いてくれることを期待している。

独立、おめでとう。