FM 福岡 FUKUOKA

2021年5月29日のゲストはゴスペラーズの安岡優さんです。



毎回、素敵なゲストをお迎えしてその音世界をアーティスト自らひもといていただくプログラム『SOUND PUREDIO presents 音解《オトトキ》』。

5月は、音解の新作録りおろしインタビューを5週に渡ってお届けします。

最終週はメジャーデビュー27年目、福岡出身のゴスペラーズ、安岡優さんです。

日本のアカペラシーンを牽引し続けてきたゴスペラーズ。ヴォーカリストとして溶け合うようなコーラスワークとソロでの甘い声で魅了する傍ら、ゴスペラーズの多くの曲で歌詞を書き、鈴木雅之さんや藤井フミヤさんなど名だたるアーティストに曲提供をしているのが安岡さんです。

そんな安岡さんと今回は回線をつないで、自身の歴史を振り返りつつ、改めてシンガーでありクリエイターである安岡さんに、アカペラとはなにか、そしてシンプルなようで奥深い音楽の裏側なども聞かせてくれました。

お相手はこはまもとこさんです。


この回をradikoタイムフリーでもう一度聴く! → FM福岡 / FM山口

(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員が聞くことができます)。



まずは安岡さんが選んだドライビングミュージックから。
セレクトしたのは、ヴォーカル・サンプリングの『El Cuarto de Tula(エル・クァルト・デ・トゥーラ)』でスタートです。

スペイン語ですね。

「キューバ出身の6人組アカペラグループで、キャリアは僕らに近いかちょっと上だと思うんですけど、20年ほど前に来日して、東京のライブで共演させていただいたんですね。で、この曲はアカペラなので全部人の身体から出ている音だけで構成されているんですよ」

パーカッションの音も全て声で表現されているってことですか。

「そうなんです。いろんな楽器の音も口で表現してますし、サルサの特徴的なリズムも、例えば口の舌で鳴らす(鳴らせてみせる)という音だったり、(指をパチンと鳴らす)指パッチンの音だったり、それだけじゃなく、手拍子の叩き方もラジオでは伝わりにくいかもしれませんが、普通に叩くと(叩く)パツっと音がするんですが、手で筒を作って叩くと(叩く)こんな音がするんです」

ぜんぜん違いますね。

「だからパーカッションを担当しているメンバーのところには、口元にはもちろんマイクがあるんでけども、手のひらの高さにももう一本マイクがついているんです」

まさに身体中から音が出ているわけですね。

「だから手のひらという『楽器』も使ってサルサのリズムもアカペラで表現している、ラテンのグループらしい構成でやっているんですね」

こうやって聞くと、やっぱりラテンのグループのアカペラの音は、ラテンの乾いた音色というか...

「青空の感じがありますよね。ドライブにぴったりなんじゃないかと思って選びました」

カラッとして気持ちいいサウンドですね。

流れるラテンのグルーヴと安岡さんの楽しそうにお話してくれるトーンがよく似合って、安岡さんの人柄も伺えるようなスタートとなりました。


さて、ゴスペラーズは今年3月に、およそ18年振りとなるオリジナル・アカペラアルバム『アカペラ2』をリリース。

メジャーデビュー25周年シングルとしてリリースされた『VOXers』をはじめ、去年10月から今年2月まで、毎月5日に5カ月連続配信リリースした楽曲を含む、全曲オリジナルのアカペラ13曲が収録されています。

まずはアルバムにも収録された25周年シングル『VOXers』のお話から。

「ちょうどおととしの年末、我々ゴスペラーズがメジャーデビュー25周年を迎えた時に、記念シングルはやっぱりアカペラがいいだろうと。なんだけど、この時代だからこそみたいなアカペラを作りたいっていうことで、ヒューマンビートボックスも入っていて、アカペラなんだけどビートも効いていて熱量のあるもの。ただ綺麗だな、とか癒やされます、というだけじゃない作品を出したいということでこの曲が出来上がりました」

まさに原点回帰であり、同時に積み上げてきた経験をもとにさらにチャレンジする姿勢を示した意欲的なナンバー。ただ、アルバムの方は最初からアカペラアルバムを意図したものではなかったようです。

「『アカペラ』以来、もう18年もお待たせしてしまったんですけども、今回、メンバー全員が作詞、作曲、アレンジするので、5人それぞれ曲を書いて持ち寄ったんですね。そしたらメンバーそれぞれ自分以外も意外といい曲が集まったぞと。コレ、もしかしたらアカペラアルバム作れるんじゃないかということになりまして」

そうやって出来上がった「アカペラ2」は、自分たちの原点に立ち返るだけではなく、注目のアカペラクリエイター、とおるす、アカペラグループの新世代を代表するNagie Laneの松原ヒロ、注目のシンガーソングライターMayu Wakisaka 、楽曲の一般公募で今回参加となったシンガーソングライター細井タカフミ、そして実力派シンガー植松陽介といったゆかりのある若いアーティストが参加しているのも聞き所のひとつです。

「18年前の最初の「アカペラ」っていうアルバムを作ったときには、自分たちだけで作るしかなかったんですよね。

当時の音楽業界の中では、オリジナルソングだけでアカペラのアルバムを作る日本人のアーティストはほとんどいない時代だったので、全部自分たちだけで作るってのはなかなかの重労働だったわけですね。一曲だけ、今でもライブで一緒に回ってくれている宇佐美秀文さんが作ってくださった曲は入ったんですけどね。

今回、作詞、作曲、コーラス、アレンジまで5人で完結するというところからはじめてみたら、その頃のそのアルバムを学生のうちに聞いててくれて活躍している後輩のミュージシャンと出会うことができて。18年の時間が経ったことによって、いろんな楽曲をいただいたり、アカペラアレンジしてくれたりとかいろんな出会いがありました。

だから18年時間が経ったということも、ひとつ良かったことなのかなあと。

あの頃の僕らが、日本に、日本語で、日本人が歌うアカペラを根付かせたいと思っていた種が芽吹いて、もう一回音楽を返してくれたというか。今回は本当に5人だけじゃなく、今の日本のアカペラの音を詰め込んだ現在進行形のアルバムになったかなと思いました

なるほど。影響を受けたミュージシャンたちと一緒につくったアカペラアルバムというのはまた大きな意味を持ちそうですね。

いろんなギフトを若いミュージシャンからいただいたような、そんなアルバムになりました」

一方で皆さんもいろいろな活動を通して、5人のメンバーの音楽的な豊かさや技術がどんどんレベルアップしてきて、やり方などもバージョンアップしたりしたのではと思いますが。

「本当にいろんな経験をさせてもらいましたし、それぞれがソロ活動なんかもしていますから、そこで手に入れた自分の新しい音楽的な引き出しをまた自分のグループに持ち帰って『こんなやり方も実はあるんだぜ』みたいな。今回はそんなふうに本当に楽しみながらね、レコーディングすることができました」

今回収録のほとんどの楽曲はコロナ禍の中で制作され、いつもと違う困難もあったようです。

「コロナ禍のレコーディングになってしまったので、なるべく人が集まる時間と人数を減らすということで、一人ずつスタジオに入ったんですね。作曲者と歌う人、二人づつ交代交代でメンバーがスタジオに入って録っていくというちょっと変わった形のレコーディングになったんです。

ただ、だからこそ全員がそれぞれ自宅でその曲を理解しようと練習を重ねてから来るわけですよ。そうするとこの曲にはこの歌い方が一番いいだろうっていうのをある程度それぞれが理解してからレコーディングに臨みましたから、時間はかかりましたけど作りたいサウンドにより近づけることもできたかなとも思いますね」

悪いことばかりではなかったということですね。

できないことで失ってばかりもいられないので。逆手に取れば時間がかかってしまった分だけクオリティを上げることもできるわけですね。本当だったらマイク一本で5人で輪になって録りたいような曲もあったんですが、それは使わずに。ゼロではないですけど」

そうやって出来上がったアルバム。聞いているだけではわからない見えない苦労も、収穫もたくさん詰まった作品なんですね。

さて、それではこのアルバムから一曲、安岡さんにピックアップしていただいてさらにその秘密を自ら解き明かしていただきましょう。

セレクトしたのは「マジックナンバー」。安岡さんが作詞、作曲、アレンジまで手掛けた楽曲です。

「この曲を作る前にですね、25周年を迎えていろんな取材を受けていたんですね。その中である昔話をしたら異常に周りが興味を持ってくれたので、そのエピソードを歌にしようかなと。

僕が大学に入ってアカペラサークルに出会った頃の話なんですけれども、大学って4月にいろんなサークルが新入生を勧誘するじゃないですか。その時期たまたまキャンパスを歩いていたらアカペラを歌っている人たちがいたんですよ。

14カラット・ソウルっていうですね、僕が高校の頃に山下達郎さんがプロデュースしたアメリカのアカペラグループなんですけども、それのカバーをしていたんですよ。

で『あ、これ僕知ってますよ』って言ったら
『じゃあ、お前なんか歌えるんだろう?』
『彼らのバージョンのSTAND BY MEだったら今すぐ歌えますよ』
『じゃあ歌えよ』っていきなり言われて。

その場でいきなりストリートライブに参加させられて。その時に僕のアカペラのコーラスをしてくれたのが、当時のゴスペラーズのメンバー、プラス酒井さんだったんですよ。で、その時に僕に偉そうに『なんか歌え』って言った先輩が黒沢さんで(笑)

だけど僕が足を止めた理由はその時にリードヴォーカルで歌っていたのが黒沢さんで、たいそううまい人がいるなって思って話を聞きに行ったんで。

なんかそれを、まるで映画のワンシーンみたいだってみんな言ってくれるんで、じゃあこれは物語のまま歌にしたら面白いんじゃないかと思って、歌とお芝居の中間みたいな感じで歌っていけるといいなと思ったんですね」

じゃあこの楽曲の冒頭、遠くで聞こえているアカペラは、そのストリートで歌っていた先輩たちなんですね。そこから「手の鳴る方へ迷わずついていこう」と始まり、「何て言うんだっけ、確かこういうのアカペラ!」で、俺も混じっちゃおうっていう話なんですね。

「そうです、途中途中でセリフみたいのが入っているんですけど歌もセリフもワンテイクで。
セリフだけ後から足したんじゃなくって、歌いながらセリフにいって、また歌に戻ってっていうのをそのまま録音したので。だからまあ、ドラマの再現VTRを5分間の楽曲にまとめたっていうような曲なんですね(笑)」

そんな物語としての面白さはもちろん、この曲ではトラックの部分でも安岡さんが大活躍です。

「で、リズムになってる部分は僕が5パターンの手拍子を入れたものを組み合わせて作っているんですね。僕はヒューマンビートボックス、口ではできないので手の平でいろんな音の出し方、高い音でパチンって鳴ったり低い音でパフって鳴ったりいろんな音色を手のひらで作りながら、さっきのボーカル・サンプリングの話じゃないですけど、いろんなサウンドを手のひらで作って、それをビートボックスのように組み合わせてバックトラックとして作っているんです」

いろんな手拍子が聞こえるなと思ったら、お一人だったんですねえ。

「そうなんです。5人分の手の小さい人、手の大きい人、肉厚の人、骨ばってる人、いろんな音でやってみたんです。これは多分5人いないと再現できないと思うんですけど、ライブで5人で再現するのはかなり難しいと思います(笑)」

そして安岡さんのこの曲の曲紹介はこんなふう。

「46歳の安岡ですけども18歳の気持ちで歌ってみました。聞いてみてください」


人の声だけで完成する、究極にシンプルな音楽、アカペラ。
時代を経るごとに多くの人々に磨き上げられてそのテクニックも可能性も無限大に広がり、高度な音楽に進化してきました。

そんな原点と最先端、自らの歴史をも含んだまさにゴスペラーズにしかできないアルバムができあがりました。


そして、ゴスペラーズといえば圧倒的な生のパフォーマンス。
ファンの皆さんが待ち望んだライブ『GOSMANIAファンの集い2021』の振替公演の日程が決定しています。


GOSMANIAファンの集い2021


福岡 9月1日(水)『Zepp Fukuoka』
午後3時30分からと夜7時からの2回公演。

広島 9月2日(木)『広島 JMSアステールプラザ 中ホール』
午後3時30分からと夜7時からの2回公演。

いずれもゴスペラーズオフィシャルファンクラブ『GOSMANIA』に、6月6日(日)までに入会した方を対象に、チケット抽選予約で申し込みが可能となります。詳しくはオフィシャルサイトなどでご確認ください。


「本来は今年の1月にやろうと思っていたものが振替公演になってしまって、その分みなさんも待っている気持ちが高まっていると思うのでそれに応えるようなライブにしたいと思います」



さていろいろなお話を聞かせていただいた今回も、あっという間にお時間です。
ゴスペラーズの音解、いかがだったでしょうか。

「ありがとうございます。でも、アカペラのことだけでこんなにたくさん語らせていただけて、デビュー当時の僕たちからすると『アカペラ』って言葉自体が伝わらなかったような時代だったので、本当に素敵な未来が訪れたんだなあと思っております」

感慨深そうにそう言う安岡さん。
陽気で楽しいお話を聞かせてくれた安岡さんですが、一貫して日本のアカペラシーンを開拓してきたという自負とこの状況下でも、仲間とともに前に前に進んでいこうという熱い気持ちが伝わってきた今回でした。

安岡さんは最後に、ゴスペラーズの27年を振り返ってこんな風に語ってくれました。

「もちろん先輩方から受け取ったバトンを持って走ってきただけなんですけども、たくさんのバトンが次の世代に渡ったんだなっていうのを確認できると、先輩方にもなんとか恩を返せたかなと思ってます」

安岡さん、本当にありがとうございました。




ゴスペラーズ公式サイト|GosTV (外部リンク)