2021年1月30日のゲストは、DEEN 池森秀一さんです。
毎回、素敵なゲストをお迎えしてその音世界をアーティスト自らひもといていただくプログラム『SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)』。
1月は、音解の新作録りおろしインタビューを5週に渡ってお届けしてきましたが、今週はその最終週。
登場していただくのは「音解」ではすっかりおなじみDEENの池森秀一さん。今回はオンラインで繋いでお話していただきました。
数々のヒット曲を送り出してきた音楽家としての「ヒットソング論」、少年時代からブラックミュージックに心ときめかせてきた「音楽愛」。同じようで異なる視点のお話や、現在の充実した音楽活動まで過去色々お話していただいた池森さん。
今回は初のシティ・ポップカバーアルバムを通じて、そんな音楽との様々な関わり方が一つの形に収斂していく様子もお話ししていただきました。どんなお話になるのかどうぞご期待ください。
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この日、池森さんがセレクトしてくれたドライビングミュージックは、ニューアルバムも発売されたばかりのアリアナ・グランデ。話題の最新アルバムから「Positions」でスタートです。
「この番組ってなんとなくグルーヴィーな曲が似合うじゃないですか(笑)昨年10月にアリアナ・グランデの新しいアルバムが出て、いやもう相変わらずかっこいいなあと思って。この曲は最近ヘビーローテーションしてますね」
この番組でも以前伺いましたが、池森さんはいつも最新のチャートのチェックに余念がなく、常に新しい音楽や動向をいつも探っています。そんな傍らで現在お気に入りの音楽もあるようです。
「今もヒットチャートはもちろん聞いていますけど、最近は『ジャワイアン』ですね。ハワイのアーティストがポップなレゲエをやっていてずーっと聞いていますね」
ハワイでは以前からポピュラーでしたが、その後世界的に広まっていった「アイランド・レゲエ」などとも呼ばれる「ジャマイカ×ハワイアン」の音楽トレンドです。
池森さんにとってこの『ジャワイアン』はここ数年のかなりのお気に入りのようで、過去にもあの大ヒットシングル「瞳そらさないで」や「Power of Love」をそれぞれジャワイアンスタイルとして配信限定シングルとしてリリースしたりジャワイアンスタイルのオリジナル楽曲も発表しています。
「非常に心が解き放たれますね。ファンキーでリラックスできる音楽ってあんまりないじゃないですか。ジャワイアンはすっごい僕の中のポピュラーミュージックになりましたね」
さて、DEENといえば去年11月にZepp Tokyoでの ライヴを全曲完全映像化した作品『DEEN LIVE JOY 2020 ~All your request!!~』をリリースしました。
「新しいアルバムを引っさげてというツアーではなかったので、皆さんにDEENの曲でね『ライブで聞きたい曲はなんですかー』って募集して、全曲セットリストに反映させたツアーでしたね」
まさに新旧の名曲から、あまりライブで演奏されなかったレア曲まで、オールタイム・ベストなステージになりました。
「そうなんですよね。そうなっちゃいましたね(笑)」
そしてニューアルバムとしては、今月20日に幅広い世代のアーティストや音楽ファンから再評価されている「ジャパニーズ・シティ・ポップ」の名曲の数々を初カバーしたアルバム『POP IN CITY ~for covers only~』をリリースしました。
「シティ・ポップ」とは70年代後半から80年代にかけて、それまでのチャート音楽に飽き足らない若いアーティストたちが洋楽のテイストをストレートに反映させて人気となった「都会的なイメージの音楽」を指して呼ばれたジャンルです。
そんな名曲の数々をDEEN流の新たなシティ・ポップ・サウンドとして蘇らせた究極のポップアルバムとなっています。
「僕らAOR的なアルバムを作ったことがあってね。
『play(2002)』『UTOPIA(2003)』『ROAD CRUISIN'(2004)』と3作つくったんですけど、その頃からDEENのライブに足を運んでくれる人がまた増えたみたいで、最近、ビルボードツアーってのをやったんですけど、そこでまたその頃の作品を演奏する機会が増えたので、それじゃあまたAOR的なヤツをやろうかっていう話になっていたんです。すると、世の中が当時の『シティ・ポップ』って呼ばれている音楽が若者に広がっているというのを聞いて「えー、そうなんだ」って。じゃあそれだったらオリジナルを演る前に、カバーナンバーをDEENが歌ったらどうなるか、70年代後半から80年代のところにスポットを当てて曲をチョイスしてカバーアルバムをつくりました」
選曲はどういう風に進められたんでしょう?
「70年代後半はリアルタイムで通っていませんし、自分たちだけでは限りがあるじゃないですか。それでレコード会社のプロデューサーである山口氏を含め、より詳しい評論家の方たちに相談したりしつつ、しっかり選曲を積み上げたって感じですね」
思い入れというよりは、DEENが料理する意味のある楽曲を全員で選んだということでしょうか。そして、そのレコーディングは徹底的にこだわり抜かれ、リリース直前ギリギリまで粘りに粘っている様子はSNSなどでも発信されていましたね。
「カバーの難しさって、オリジナルをどこまでリアレンジしていいんだろうかっていうところですね。特に女性の曲が多いので女性視点の歌詞をどこまで自分が歌って良いのかなとか、考えることは多いですよね。それが少しづつ消化されて『なんか良くなってる良くなってる』と。スタジオにこもってミュージシャンシップに沿ってDEEN色を感じつつ作りました(笑)。今は自分のところで全部できるような時代になって、そんな風にしている人ってあんまりいないと思うんですけどね。今回のように音楽を積み上げていくのはやっぱり楽しいなって感じましたね」
以前の番組では、外部からの刺激を貪欲に取り込みながら作る楽しみについてのお話を聞かせていただきましたが、そんなチャレンジ精神に、スタジオにメンバーが集まってそれぞれの能力をすり合わせながら音を作り上げる王道のスタイルががっちり組み合って、まさにDEENならではの一枚になりました。
「知らないことにチャレンジするって、新しい自分をまた発見できたりするので、この作品はDEENのキャリアにとって間違いなくキーポイントになってくるかなって思いますけどね」
そんなDEENにとって重要な一枚となった『POP IN CITY ~for covers only~』から、さらにDEENの音世界をひもとくべく、池森さん自身に一曲ピックアップしていただきました。
選んでくれたナンバーは、現在のシティ・ポップ再評価のきっかけとなったナンバー。竹内まりあさんの「プラスティック・ラブ」のカバーです。
「実はこのプロジェクトの時に僕初めてこの曲を聞いたんですよね(笑)」
1984年発表のこの曲は、当時からヒット曲を連発していた竹内まりあさんの楽曲の中では「知る人ぞ知る」隠れた名曲。後に数多くのアーティストに取り上げられながら評価を高め、オリジナルはむしろ今回の再評価で多くの人の耳に届いたとも言えるナンバーです。
「ビックリでしょ?(幾多ある)カバーで親しんでいたので、竹内まりあさんとこの曲の接点が僕の中でぜんぜんつながらなかったんですよね」
と笑う池森さん。
「僕の中にある竹内まりあさんの勝手につけた爽やかなイメージと言うか。そういう中で『プラスティック・ラブ』ってすごくコンテンポラリーな曲だったんで、竹内さんのオリジナルを聞いた時に『ああ、こういう感じか!』と思いましたね。すごく洋楽とかに詳しいんだろうなと思って」
竹内さんの楽曲の中でも特別有名ではなかったこの曲が、現代の海外の音楽マニアが見つけてブレイクしたという経緯も考えてみればすごいことですよね。
「曲の構成が洋楽なのでいわゆるA(メロ)→B→A→Bみたいな(洋楽っぽい)流れなのでね、間違いなく海外の人には受けたんでしょうね」
ルーツにブラックミュージックがある池森さんとしても、改めて共鳴するところも多かったようです。その原曲を池森さんはどのようにこだわってカバーしていったのか、興味あるところですね。
「出来上がったアレンジっていうのは、最初から僕の頭の中でずーっと鳴っていた感じなんですね。もしDEENがやるんだったらこういう感じだなというのはずっとありました。竹内まりあさんの音源を聞くと、思い切り当時の達郎さんとかがやっていそうなシティ・ポップス感だなと思ったので、ここは思い切ってバンドアンサンブルで作っていくんじゃなくって、思い切りコンテンポラリーな打ち込みのファンキーなベースに歌が乗っかっているっていうアレンジにしました」
確かに聴き比べてみると曲のテンポや印象は大きく変えないまま、音の質感やサウンドの構成は原曲より少し後の90年代っぽいブラックコンテンポラリーの傾向を感じさせるサウンドになっています。
「アレンジャーに最初からこういうパターンがいいですってお願いしましたね」
一方、このDEEN版の「プラスティック・ラブ」を聞いていると、とりわけ最近のDEENのブラックミュージック的な指向も感じさせますね。
「いえ、それはどっちかっていうとDEENになる前のほうがブラックミュージックばかり追いかけていて、DEENでもカップリングではすごい好きなことやらしてもらったりしてたんですね。だから今あらためてブラックミュージックをやっているというイメージでもないんですけどね」
これは以前の「音解」に登場していただいた時に、自分の嗜好を抑えて、普遍的なヒットソングづくりを追求して、今再び自分の好きなブラックミュージックに自然体で取り組めるようになった、というようなお話を思い出させてくれます。
「僕個人の中にはこの辺の音楽のライブラリーがいっぱいあるので『このテンポだったらあのときのベースライン』とかいっぱい出てきますよね。だからこの手のミディアムファンクは自然に歌えてるかなって気がしてますね」
まさに今の池森さんにとって腑に落ちる選曲、そして腑に落ちるアレンジを施された「プラスティック・ラブ」は、今のDEENをある意味象徴するナンバーに仕上がりました。
インタビューも一段落。オンライン越しに見える池森さんも一息。
多忙な中、熱く語っていただいた池森秀一さん。ちょっとしつこく色々質問してしまいました。
「この番組に出ると、自分は音楽人だったんだなと思います」
と笑って許していただきました。
最近はDEENとしての活動はもちろんですが、豊富な知識と持ち前の楽しいトーク術で芸能界イチの蕎麦通としても様々なメディアでも引っ張りだこ。
活躍のステージは広がる一方ですが、音楽について楽しそうにお話する池森さんを見ていると、音楽家としても今充実のときなのだなと実感できました。
池森さん、ありがとうございました。
【おしらせ】
予定されていた全国ツアー『DEEN LIVE JOY-Break23 ~POP IN CITY~』は新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令に伴い、全公演の延期が決定しています。
振替公演の日程、およびチケットなどは決定し次第、DEENのオフィシャルWEBサイトで案内されますのでご確認ください。
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