FM 福岡 FUKUOKA

2021年1月16日のゲストは、KANさんです。



毎回、素敵なゲストをお迎えしてその音世界をアーティスト自らひもといていただくプログラム『SOUND PUREDIO presents 音解(おととき)』。

今月は、音解の新作録りおろしインタビューを5週に渡ってお届けしています。

今回は福岡出身、1987年にデビュー以来、ポップスを追求し続けるKANさんとリモートで繋いでお話をお聞きします。

新しいアルバムのお話を中心に、意外なお話も含めてざっくばらんにたくさんお話していただきました。

お相手はこはまもとこさんです。




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FM福岡 FM山口
(radikoタイムフリー、放送後1週間に限り放送エリア内(無料)とプレミアム会員が聞くことができます)


まずはいつものように番組は、KANさんがセレクトしたドライビングミュージックでスタート。

選んでくれたのは、昨年11月25日に発売された17枚目のオリジナルアルバム「23歳」収録の『君のマスクをはずしたい』です。

TRICERATOPSが参加したこのナンバー。
こはまさんは、このアルバムの特典メイキングDVDを見てTRICERATOPSとKANさんのやりとりにハマったそう。

「トライセラの和田さんがね、ギターのコードを『これジミヘンコードで』っていう話をするところがあるんですけど。それがすごくおもしろくって」

「そうなんです。僕はPOPSという漠然としたカテゴリの中で、できるだけいろんな曲をつくりたいと思ってまして、自分なりのハードロックなんですよね。TRICERATOPSはロックの専門家ですから、

曲を作ったのは僕ですけども、実際のレコーディングはTRICERATOPSのみんなに教えてもらいながら録りましたね」

できあがった作品はプライベートでも親交が深いという、息のあったコラボレーションが楽しめる一曲に。そんなふうに、今回のアルバムでは「専門家」を招きながつくりあげていったそう。

その成果が昨年11月25日に発売された「23歳」に結実しています。

TRICERATOPSや秦基博さんをゲストプレイヤーに迎えている他、一昨年、急逝したヨースケ@HOMEさんとの2011年の共作曲も初音源化したアルバムとなっています。

今なぜ「23歳」というタイトルなんでしょう。

「なんででしょうね。いつもそうなんですけど、コンセプトを決めてその中でつくる、なーんてそんな器用なことできないのでいつも今作りたいものをできるだけ色んなタイプでつくって10曲になったら出す、ってそんなかんじなんです(笑)ただ、そんな中で『23歳』って曲をつくってるうちに、なんとなくこれを真ん中に置きたいなって思いました。曲順じゃなくてですよ、存在感としてね?それでこれをタイトルにしてみました」

KANさんは作詞作曲をする際は、歌詞と曲どちらが先なんですか?

「この曲に関しては、ほぼ同時進行ですね。以前は歌詞がない状態で、曲をつくってアレンジまでほぼ固まって、さて歌詞はどうしようってものが多かったんですけど。そうすると曲は曲で固まってしまうじゃないですか。だからいざ歌詞を書く時にはかなり制約が多いというのもありますし、曲は気に入っているんだけど、歌詞を書こうとすると何書いていいかまったくわからなくなって、そのままずっと何年も放置っていうようなこともよく起こっていたので、ここ数年はもうなるべく曲と歌詞を一緒につくっていくっていう風にしています。もう曲はできたけど歌詞が全く無いっていうのだけはもうやめようって」

歌詞が浮かばなくて何年も置いておくこともあるんですね。

「例えば同じアルバムに入っている『ふたり』っていう曲は、2008年に曲はできていて、やっと今回歌詞がつきました。『ほっぺたにオリオン』って曲も7,8年前ですね」

へえ。『ほっぺたにオリオン』は、すごく面白いナンバーですよね。

「なんとなく『ほっぺたにオリオ~ン♪』て部分だけがあったんですよ。それがなんなのか、8年位かかってるんですけど(笑)」

ある日突然、歌詞が降りてくるってかんじなのですか?

「降りるってことはないですね。もちろん最初のモチーフは何の意味もなく出てくるもんですから、まあ降りてくるというほど高尚なものではないですけどね。そこから先はほとんど考えて組み立てていくので。あのー、お酒飲んだ状態で歌詞を書いているので、なぜできたのかもよくわからない(笑)

思わずこちらも吹き出してしまいました。

「ま、頭は柔らかくなると思うんですね。アレンジ、録音の作業では一切呑まないんですけども、歌詞に関しては昼間シラフの状態だと何も出てこない。出てくる前に面白くないって自分でシャットアウトしちゃうんですよね、きっとね。ある程度つくったデモ音源とかを聞きながら、その音に合わせてなんか言葉を、お酒呑みつつ考えているんですね。それを次の日の昼間に見ると『なんだそれ』みたいなのがいっぱい書いてあるんですけどね。その中にたまに面白いものが一行あればそれを残して、また次の日呑んで(笑)という繰り返しで歌詞を書いています。方法論として自分の中で残っていかないですけどね」

自分の脳内をリラックスさせて、すごく主観的に言葉を紡いでいくのかもしれませんね。
KANさんは作詞作曲、歌、演奏となんでもこなすわけですが。
それぞれの作業で、主観的な部分と客観的な部分をどんなバランスで使い分けているのか興味があります。

客観はないと思います。大事なことは自分自身がこれ相当面白いぞって本当に思えるかどうかということでやっていますので、もう客観はないですね。というか、僕一人で客観視というのは不可能。客観的に考えている『つもり』であって、ありえないことだと思っています」


そんなKANさんに、さらに音世界をひもといていただくべく、このアルバムから一曲ピックアップしてお話していただきます。

選んでくれたのは、このアルバムの中でもお気に入りという、とびきりキャッチーなエレクトロポップ「メモトキレナガール」です。

中田ヤスタカさんを意識してつくったというこの曲。
遊び心あふれるオマージュかと思いきや、実は中田ヤスタカさんの一連の作品の大ファン。ということが判明しました。ちょっと意外です。

「最初は2008年にPerfumeの『ポリリズム』を聞いてなぁんだこれ!と思って『GAME』というアルバムを買いまして。素晴らしいなと思ったんですね。それでPerfumeを聞くようになって、Capsuleも買いましたし、その後のきゃりーちゃんも中田さんがつくっているっていうことで。この12年くらいはずっと中田ヤスタカ作品しか聞いていないってくらい本当に好きで

そんなKANさんのリスペクトは、ついに自身の楽曲の中に生かされます。

「あんな曲つくりたいって思って、まず2010年のアルバムで「REGIKOSTAR ~レジ子スターの刺激~」っていうのをつくったんですね。これはきゃりーちゃんが出てくる前なので、Perfumeイメージの曲なんですけども。2016年のアルバムでは『ブログ! ブログ! ブログ!』って曲で、これはきゃりーちゃん寄りのサウンドで、今回もきゃりーちゃん寄りですかね。中田さんリスペクト第三弾なんですけど」

そんな中田ヤスタカさんのエレクトロ・ダンスミュージック由来の新しいポップ表現に刺激を受けたKANさん。一聴してキュートでキャッチーな「メモトキレナガール」には、KANさん流のポップスの定形にとらわれない挑戦的なアプローチが溢れています。

その複雑な構成をKANさん自ら詳細に解説してくれました。
以降、実はかなり専門的でちょっと難解です。しかし実際に楽曲を聞きながら確認すれば、きっと驚きがあるはずです。

「これ、言えば言うほど絶対わかんないと思うんですけども」と前置きして一息。

「いわゆるポップス形式というのは、AメロがあってBメロがあってサビ、戻ってAメロ、Bメロ、サビ。そこから、ちょっと展開部があって、間奏に行ってもう一回サビみたいなかんじ。

ですが、今回のこの曲は、そういう考え方ではまったくなくってですね。
まず出だしのメロディがあって、サビ、ブリッジの1っていうメロディがあるんですね。この後にAメロが来て、それでまたサビの2回めが来ます。

この後の展開部が、実はブリッジでシンセのどっちかというとシロフォンとかの音でやっていたメロディがそのまま歌のメロディになるんですね。それでサビ2のあとにブリッジ2になるんですけども。これがまたブリッジ1とは違うメロディをシンセリードの音色でやっています。

そのブリッジ2の後の出だし、メロディが一回来て、その後に歌がそのままブリッジ1のメロディをなぞるんですね。その歌に今度はブリッジ2のメロディが楽器で絡んできます。そこからサビ(3回目)に戻りますけども、3回目のサビは1回目、2回目とは違ってですね、前回の自分のアルバムに入っている『桜ナイトフィーバー』のイントロが3回目のサビにまるまるハマっているんです。ここだけ『桜ナイトフィーバー』とキーは同じなんですがテンポが全然違いますので、ストリングスを8小節、今回生で録りなおしています。で最終的にサビ3があって、そこに一回目は楽器だった、二回目は歌だった、ブリッジ1のメロディが最終的にサビに絡んできて終わります。

いわゆるポップス形式ではありえない、すごくヘンなつくりかたをしてます。完全に頭でつくった曲。ピアノ弾きながらとか、ギター弾きながら鼻歌で歌ってとかいうんじゃなくて、完全にデジタルの画面を睨みつけながら頭でつくった曲ですね。ちょっとわかんないでしょ(笑)」

む、難しい...
だけど、王道のポップスの構成でないことはよくわかりました。

「間奏とかブリッジというのが独立したものではなく、実はその後、歌になり全然違う箇所が同じくくりの中で絡むというようなことを考えてつくりました」

KANさん、満足そうにそう言って、少し戸惑う私達にこうも付け加えてくれました。

「音解なので絶対わからないだろうと思いつつ解説しましたけどね。だけど、この曲はカワイイと思ってもらえばそれでいいんです(笑)

確かに、一聴してかわいいポップチューン。だけど、その裏に縦横無尽に意欲的な曲構成と張り巡らされたテクニックがあるのですね。そして、なによりそれを感じさせないポップソングとして成立しているところに凄みを感じますね。

他にもバラエティ豊かな楽曲が並んでいるこのアルバム。TRICERATOPSと並んでゲストとして秦基博さんも参加しているのも話題です。

「そうです。秦基博が参加しているってことを繰り返し大きな声で言わないとだめですよ。ギターソロも弾いてもらっているんですけど、秦基博が弾いたってことをプロモーションで最大限に利用していかないといけない(笑)」

そんなKANさん。
現在は単身弾き語りツアー『弾き語りばったり #30 ファーストクラス・ディスタンス』を開催中です。

これは、客席数を従来の半分以下に抑えて、席の間隔を充分に確保した、ファーストクラスなディスタンスでの単身弾き語りツアーとなっています。

福岡では来週1月23日(土) 『Zepp Fukuoka』で開催が予定されています。
(実施については、事前に公式サイトなどでご確認ください)

「演出というものを一切排除した、ピアノが一台あるだけで。それでお客様に納得していただけるかどうかという。どちらかというと修行です」

まだまだ聞きたいお話たくさんあったのですが、今回はここまで。
回線越しに音楽について熱く語るKANさん。
デビュー34年目を迎えてもなおポップスへの情熱と興味は高まるばかり。貪欲にチャレンジし続けている姿に感銘を受けました。

KANさん、ありがとうございました。