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異なる2つの国際無線通信規格「Wi-SUN HAN」と「Wi-SUN FAN」の 同時動作を単一無線機で実現
京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻 原田研究室
2026年10月21日
京都大学 原田博司研究室
国立大学法人京都大学の原田博司 情報学研究科教授、額見怜央 同博士課程学生らの研究グループ(以下 京都大学)は、電力スマートメーターと電力会社間の屋外側通信(Aルート)に適用可能な国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」と、スマートメーターと家庭内のエネルギー管理システム(HEMS)間の宅内側通信(Bルート)に用いられる国際無線通信規格「Wi-SUN HAN」を、1つの無線機と共通ファームウェアで同時に動作させる技術を開発し、その動作を実証しました。本技術は、2026年5月に発表した両規格の共通ファームウェアに、1つの無線機を両規格で時間的に共用する「無線共用調停部」と、両規格の接続状態を維持したまま往復約1ミリ秒で通信方式を切り替える「高速物理層切替え」機能を新たに追加したものです。開発したファームウェアを搭載した無線モジュールについて、スマートメーターとHEMS機器への適用を想定した2つの利用モデルで実証実験を行いました。スマートメーターへの適用では、Wi-SUN FANによる電力会社向けの検針データ送信と、Wi-SUN HANによるHEMS機器からの電力値読み出し要求への応答を両立できることを確認しました。また、HEMS機器への適用では、Wi-SUN HANによってスマートメーターから電力値を読み出しながら、Wi-SUN FANを用いた独自IoT無線ネットワークに接続し、Wi-SUN FAN側で99.99%以上のデータ到達率、Wi-SUN HAN側で10秒間隔の電力値読み出しに対して99.95%の期限内応答率を確認しました。本成果により、スマートメーターやHEMS機器の無線通信部の低コスト化・小型化が可能となり、次世代スマートメータリングシステムに加え、電力スマートメーターのネットワークを活用したガス・水道との共同検針や、広域のエネルギーマネジメントシステムなどへの応用が期待されます。
ポイント
・1つの無線機でWi-SUN FANとWi-SUN HANを同時に動作させる共通ファームウェアを開発。両規格の無線利用時間を調整する「無線共用調停部」と、接続状態を維持したまま約1ミリ秒で通信方式を切り替える「高速物理層切替え」機能を実現。
・スマートメーターへの適用を想定した実証において、Wi-SUN FANによる電力会社への検針データ送信と、Wi-SUN HANによるHEMS機器からの電力値読み出し要求への応答を、1つの無線機で両立できることを確認。
・HEMS機器への適用を想定した実証において、Wi-SUN HANによるスマートメーターからの電力値読み出しと、Wi-SUN FANを用いた独自IoT無線ネットワークへの接続を両立。Wi-SUN FAN側で99.99%以上のデータ到達率、Wi-SUN HAN側で99.95%の期限内応答率を確認。
1.背景
電力のスマートメータリングシステムでは、電力会社が各家庭に設置するスマートメーターと電力会社のシステムを接続する通信経路(Aルート)と、スマートメーターと家庭内のエネルギー管理システム(HEMS)などを接続する通信経路(Bルート)の2つが利用されています。2025年度から導入が進められている次世代スマートメーターでは、Aルートの無線マルチホップ通信方式として国際無線通信規格「Wi-SUN FAN」の利用が検討されており、Bルートでは従来から利用されている国際無線通信規格「Wi-SUN HAN」が引き続き採用されています。両規格は、いずれも920 MHz帯のIEEE 802.15.4gを物理層に採用した無線通信規格ですが、ネットワークへの接続手順、認証方式、周波数の利用方式などが異なります。このため、従来はそれぞれの規格に対応した無線モジュールを個別に使用するか、1つの無線モジュールで動作する規格を切り替えて使用する必要がありました。
京都大学では、2026年5月に、Wi-SUN HAN(Enhanced HAN)とWi-SUN FAN 1.1を1つの無線モジュール上で動作させ、起動時に利用する規格を選択できる共通ファームウェアを開発・発表しました。しかし、スマートメーターのAルートとBルートを1つの無線機で同時に利用するためには、両規格の接続状態を維持しながら、無線機を共用する仕組みが必要となります。両規格は、それぞれが独立して無線機を利用することを前提としているため、単純に無線機を切り替えるだけでは、通信の中断や接続状態の喪失などが発生する可能性があります。このため、両規格の接続状態を維持しながら1つの無線機を時間的に共用する仕組みを開発するとともに、両規格の通信性能への影響を実機によって検証することが課題となっていました。
2.研究成果
京都大学では、2026年5月に発表したWi-SUN HANとWi-SUN FANの共通ファームウェアを拡張し、1つの無線機(RF)を共用しながら両規格を同時に動作させるファームウェアを開発しました。 本ファームウェアでは、両規格による無線機の利用時間を調整する「無線共用調停部」と、両規格の接続状態を維持したまま無線機の設定を高速に変更する「高速物理層切替え」機能を新たに実装しました。これにより、1つの無線機でWi-SUN HANとWi-SUN FANの通信を並行して実行することが可能となりました。
同時動作を実現するための特徴の一つは、新たに開発した「無線共用調停部」です。本機能では、通常はWi-SUN FANが無線機を使用し、Wi-SUN HANによるBルート通信が必要な場合に、一定時間だけ無線機の使用を切り替えます。切替えには、Bルート側の通信要求に応じて設定する時間帯と、Bルート側の受信のために定期的に設定する時間帯の2種類があり、Wi-SUN FANのブロードキャスト受信時間帯を避けるように制御します。また、無線機を切り替えている間も、両規格のネットワークへの加入状態、認証情報、通信スケジュールなどを保持することで、それぞれの接続状態を維持します。
もう一つの特徴は、「高速物理層切替え」機能です。Wi-SUN HANとWi-SUN FANでは、通信速度、変調方式、周波数の利用方式などが異なるため、無線機を共用するには、それぞれの規格に応じて無線ICの設定を変更する必要があります。そこで、開発したファームウェアでは、無線機の初期化やネットワークへの再加入を行うことなく、物理層の設定変更とMAC層のタイマー制御のみで通信方式を切り替える仕組みを実現しました。その結果、Wi-SUN FANからWi-SUN HANへの切替えを約0.4ミリ秒、Wi-SUN HANからWi-SUN FANへの切替えを約0.5ミリ秒で完了できることを確認しました。
次に、開発したファームウェアを搭載した無線モジュールの有効性を検証するため、スマートメーターおよびHEMS機器への適用を想定した2つの利用モデルについて実証実験を行いました。
利用モデル1では、開発した無線モジュールを電力スマートメーターの通信部として利用し、電力会社との通信経路であるAルートをWi-SUN FANで実現するとともに、家庭内のHEMS機器との通信経路であるBルートをWi-SUN HANで実現する構成としました。
本モデルでは、スマートメーターを想定した機器が、Wi-SUN FANのボーダールーターを介して電力会社側のネットワークに接続しながら、Wi-SUN HANのBルート端末としてHEMS機器からの電力値読み出し要求に応答します。開発したファームウェアをROHM社製無線モジュールBP35C5に搭載し、Wi-SUN FANのボーダールーター機能を備えた機器およびWi-SUN HANに対応したHEMS機器を模擬する装置と組み合わせ、実証試験環境を構築しました。本利用モデルでは、HEMS機器からの電力値読み出し要求に応答するため、Wi-SUN HAN側に無線機を割り当てる時間の割合を10%、30%、45%に変更し、AルートおよびBルートの通信特性を評価しました。 その結果、Wi-SUN HAN側への割当割合を10%、30%、45%とした場合、HEMS機器から10秒間隔で送信される電力値読み出し要求に対する応答成功率は、それぞれ43%、83%、100%となりました。特に、割当割合を45%とすることで、すべての読み出し要求に応答できることを確認しました。また、Wi-SUN FANによるAルート側の通信では、電力会社への検針データの送信を想定し、200バイトのデータを1分間隔で送信した場合にも、全データの伝送に成功しました。さらに、電力会社側からの遠隔要求を想定した下り通信についても、再送を含めたアプリケーションレベルで100%の伝送成功率を確認しました。
一方、利用モデル2では、開発した無線モジュールを家庭内のHEMS機器に搭載し、Wi-SUN HANによって電力スマートメーターから電力計測情報を取得するとともに、Wi-SUN FANのルーターとして屋外のマルチホップ無線ネットワークに接続する構成としました。 本モデルでは、電力会社以外の事業者などが構築する独自のIoTネットワークを想定し、スマートメーターから取得した電力計測情報をWi-SUN FANのボーダールーターへ伝送します。開発した無線モジュールを搭載したHEMS機器を模擬する装置、Wi-SUN HANに対応したスマートメーターを模擬する装置、およびWi-SUN FANのボーダールーター機能を備えた装置を組み合わせ、実証試験環境を構築しました。本利用モデルでは、Wi-SUN FAN側のデータ送信量と、Wi-SUN HANによる電力値の読み出し間隔を変化させ、両規格の通信性能を評価しました。
その結果、Wi-SUN FAN側では、評価したすべての条件において99.99%以上のデータ到達率を維持しました。また、Wi-SUN FAN側の送信量が増加した場合でも、Wi-SUN HAN側の読み出し間隔を適切に設定することにより、所定の時間内に電力値の読み出し応答を得られることを確認しました。特に、スマートメーター向けのアプリケーション通信インターフェース仕様で想定される10秒間隔の読み出しでは、評価したすべての条件において99.95%の期限内応答率を確認しました。さらに、48時間の連続運転においても両規格の接続状態が維持され、Wi-SUN FANのマルチホップ通信における中継動作も継続できることを確認しました。
以上の結果から、開発した共通ファームウェアにより、1つの無線機でWi-SUN FANとWi-SUN HANの接続状態を維持しながら両規格の通信を並行して実行でき、スマートメーターおよびHEMS機器の双方に適用可能であることを実証しました。
3.今後の展開
今回開発したWi-SUN HANとWi-SUN FANの同時動作技術により、スマートメーターのAルートとBルートの通信機能を単一の無線モジュールに統合することが可能となりました。本成果は、スマートメーターやHEMS機器に搭載される無線通信部の低コスト化・小型化に貢献するとともに、スマートメーターから取得した電力情報を、Wi-SUN FANによる広域のマルチホップ無線ネットワークを介して収集・活用する新たなIoTシステムの構築につながるものです。また、両規格のネットワークを分離したまま通信を行うことができるため、それぞれのネットワークの独立性を維持しながら、多様なエネルギー管理サービスへの展開が可能となります。 さらに、次世代スマートメータリングシステムでは、電力スマートメーターのネットワークを活用して、ガス・水道メーターなどの検針情報を共同で収集する「IoTルート」の導入が進められています。このIoTルートには、今回開発したシステムで採用しているWi-SUN Enhanced HANが無線通信規格として採用されていることから、本技術を電気・ガス・水道の共同検針システムへ展開することも期待されます。これにより、電力スマートメーターを中心とした複数の社会インフラの情報収集を効率化し、通信設備の共用によるシステム構築・運用コストの削減にも貢献することが期待されます。
今後は、家庭内の電力使用量の把握に加え、太陽光発電設備、蓄電池、EV充電設備などを含むエネルギーマネジメントシステムや、電気・ガス・水道の共同検針システムへの応用を進めます。さらに、認証鍵の更新を含む長期間の安定動作、実際のスマートメーターとの相互接続、および電波減衰や干渉が存在する実環境での通信性能の評価を進め、スマートメータリング、エネルギーマネジメント、スマートシティなどの社会インフラを支えるIoT通信基盤としての実用化を目指します。
詳しくは
https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/PL/PL_2026_09.html
をご覧ください。
プレスリリースURL
https://kyodonewsprwire.jp/release/202610208256
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