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V2X環境における無線伝送特性をデジタルツインで評価するワイヤレスエミュレータを開発

京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻 原田研究室

2026年8月26日
京都大学 原田博司研究室

国立大学法人 京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループは、自動運転支援や交通事故の低減を目的としたV2X (Vehicle-to-Everything)環境において、実空間に無線機を設置して伝送試験を行うことなく、実環境における無線伝送特性を評価できるデジタルツイン技術を用いたワイヤレスエミュレータを開発しました。本ワイヤレスエミュレータは、都市空間の3Dデータ、基地局および端末の配置、利用する無線通信システムの情報および端末の移動パターンを入力することにより、端末移動時の電波伝搬特性を生成します。さらに、生成した電波伝搬特性を、電波伝搬環境を実験室内で再現するフェージングエミュレータに入力することにより、屋外実験を行うことなく、実環境における無線伝送特性を実験室内で評価できます。このワイヤレスエミュレータを用いてV2X交差点環境における5G信号の伝送特性を評価し、屋外実験結果との比較により、実用レベルの再現性を有することを確認しました。本成果により、実空間に無線機を設置して伝送試験を行うことなく、現実の無線環境を模擬した検証が可能となり、V2Xをはじめとする無線通信システムの研究開発および性能評価の効率化が期待されます。

 

1.背景

近年、第5世代移動通信システム(5G)を活用したさまざまなアプリケーションの研究開発が進められています。例えば、自動運転支援や交通事故の低減を目的としたV2X(Vehicle-to-Everything)では、5Gなどのセルラー通信技術を適用したCellular-V2Xの検討が進められています。V2Xでは、5.9 GHz帯の利用が検討されており、交差点に設置された路側機を介して車両間で情報を共有することにより、交通事故の防止や交通流の円滑化を図ることが期待されています。このようなV2X通信システムの性能を評価するためには、実環境における電波伝搬特性および5Gシステムの伝送特性を把握する必要があります。しかし、5.9 GHz帯で屋外実験を実施するためには、詳細な干渉評価や周波数共用の検討が必要となります。また、交差点は車線数や道路構造、周辺建物の配置、都市部・郊外といった周辺環境が大きく異なるため、多様な環境における評価が求められます。このため、実環境における実証実験には多大な時間とコストを要するという課題があります。これらの課題を解決する手段として、ワイヤレスエミュレータの活用が期待されています。ワイヤレスエミュレータは、地図・地形データを基に実環境を仮想空間上にデジタルツインとして再現し、無線機の位置や周波数、送信電力、アンテナ特性などの無線利用条件を入力することで、実環境に近い電波伝搬特性を生成します。さらに、生成した電波伝搬特性をソフトウェアまたはハードウェアにより再現し、実無線機またはソフトウェアで実装した無線機エミュレータを接続することで、実環境における大規模な実証実験を行うことなく、各種無線通信システムの性能を評価できます。一方、従来のワイヤレスエミュレータでは、大規模計算機や大規模なハードウェア無線リンクエミュレータを必要とするため、より簡便な構成で実現可能なワイヤレスエミュレータの開発が課題となっています。また、生成した電波伝搬特性と実環境における測定結果との比較による妥当性の検証も十分に行われていません。

 

2. 研究開発の概要

V2X環境において、実空間に無線機を設置して伝送試験を行うことなく、実環境における無線伝送特性を評価できるデジタルツイン技術を用いたワイヤレスエミュレータを開発しました。本ワイヤレスエミュレータは、レイトレーシング電波伝搬シミュレータ部、チャネルインパルス応答生成部、およびフェージングエミュレータ部から構成されます。各部では、以下の開発を行いました。



レイトレーシング電波伝搬シミュレータ部:送信機および受信機の位置、送信機の情報(周波数、送信電力、アンテナ関連情報)、ならびに受信機の移動シナリオに基づいて、3D地図環境上でレイトレーシングによる電波伝搬シミュレーションを行い、各受信位置における電波伝搬特性を算出します。

 

チャネルインパルス応答生成部:レイトレーシング電波伝搬シミュレータ部により得られたマルチパス成分から、チャネルインパルス応答を生成します。その際、フェージングエミュレータ部における演算負荷を低減するため、マルチパス成分のクラスタリングおよび不要なパスの削減を行います。さらに、受信機の移動に伴う各地点間のフェージングによるチャネル変動を再現するため、各地点におけるクラスタおよびパスの対応付け(カップリング)を行い、補間処理によって連続したチャネルインパルス応答を生成します。

 

フェージングエミュレータ部:チャネルインパルス応答生成部で生成されたチャネルインパルス応答を、電波伝搬環境を実験室内で再現する市販のハードウェアフェージングエミュレータに入力します。これにより、屋外実験を行うことなく、実環境における電波伝搬環境を実験室内で再現します。以上説明した各機能は、PC上で動作するソフトウェアとして提供されます。このソフトウェアと市販のハードウェアフェージングエミュレータを組み合わせることにより、本ワイヤレスエミュレータを構成します。

 

3.研究開発成果の評価

研究開発したワイヤレスエミュレータの妥当性を検証するため、V2Xを想定した実際の交差点環境において5 GHz帯を用いて実施した屋外実験の測定結果と、本ワイヤレスエミュレータにより得られた評価結果を比較しました。評価では、任意波形発生器を用いて生成した中心周波数5.25 GHz、帯域幅100 MHzの5G New Radio(NR)信号を使用しました。送信機は交差点の一角に高さ13.5 mで設置し、受信機は移動車両に搭載しました。受信車両の走行経路として、交差点を右折するルート(ルート1)および直進するルート(ルート2)の2つを設定しました。また、屋外実験とワイヤレスエミュレータによる評価では、同一の送信信号生成装置を使用しました。

 

屋外実験とワイヤレスエミュレータによる評価結果について、受信信号電力および遅延スプレッドの累積分布、ならびに5G NR信号のBLER(Block Error Rate)特性を比較しました。その結果、受信信号電力および遅延スプレッドには一部差異が見られたものの、実環境では車両、歩行者、街路樹など、3D地図データではモデル化されていない物体による遮蔽の影響を受けることを考慮すると、両者は非常に近い分布となることを確認しました。また、BLER特性について、V2X通信システムのBLER要求値以下を受信可能条件と定義して比較した結果、受信可能エリアの割合の差異は、ルート1およびルート2のいずれにおいても15%以下となりました。 以上の結果から、開発したワイヤレスエミュレータを用いることにより、実際の交差点環境における5G NRシステムの物理層伝送特性を一定の精度で再現・評価できることを確認しました。

 

4.波及効果、今後の予定

今回、屋外実験を行うことなく、実環境における無線伝送特性を実験室内で評価できるワイヤレスエミュレータを開発しました。本成果により、現実の無線環境を実験室内で模擬した検証が可能となり、V2X環境における路側機の設置場所などを事前に検討できるようになります。また、さまざまな環境を想定した伝送試験を実験室内で行うことが可能となるため、V2Xにおける無線通信システムの研究開発および性能評価の効率化が期待されます。

 

また本成果は、8月27日に開催される電子情報通信学会無線通信システム(RCS)研究会で発表を行う予定です。

 

詳しくは
https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/PL/PL_2026_06.html

をご覧ください。

 

 


プレスリリースURL

https://kyodonewsprwire.jp/release/202608264737

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