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VRヘッドセットの使用でドライアイが生じにくくなる可能性
早稲田大学
2025年10月14日
VRヘッドセットの使用でドライアイが生じにくくなる可能性
〜 VR ゲーム中の涙液層を観察〜
発表のポイント
●超小型カメラをVRヘッドセット※1に組み込み、VRゲーム中の涙液層を観察したところ、時間が経つほど、ドライアイ※2の重症度の評価指標である涙液油層※3の干渉像グレード※4が増加しました。
●これは涙液油層が厚くなったことを示しており、VRヘッドセットの使用がドライアイを生じにくくさせる可能性があることが明らかになりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202510106923-O6-0aZiUL9f】
図1:VRゴーグルに搭載した涙液層観察システム
VRゲーム中の涙には何が起きているのか?
早稲田大学人間科学学術院の岡崎 善朗(おかざき よしろう)准教授と京都府立医科大学の横井 則彦(よこい のりひこ)客員教授らの研究チームは、VRヘッドセット使用中の涙液層を観察するシステムを開発し、14名を対象に30分間VRゲーム(テトリス)を行ってもらい、ゲームプレイ中の涙液層の様子を調べました。その結果、プレイ時間の経過に伴って、涙液油層の干渉像グレードが増加しました。また、プレイ前後の角膜とまぶたの表面温度も増加しました。干渉像グレードの増加は、涙液油層の厚みが増加したことを示しています。本研究により、VRゴーグルの装用によってドライアイを生じにくくする可能性が示されました。
本研究成果は、2025年9月26日(金)に『Scientific Reports』に掲載されました。
キーワード:
VRヘッドセット、涙液層、ドライアイ、涙液油層、超小型カメラ
(1)これまでの研究で分かっていたこと
VRヘッドセットは至近距離の画面を注視し続けるため、著しく目に負荷を与える装置です。このため安全な使用が求められているにも関わらず、眼表面への影響、とりわけ涙液への影響に関する研究は多くありません。従来の研究ではVRヘッドセット使用時にまばたきの回数が減少することや、眼不快感が増加することが報告されています。また、VRヘッドセットの使用前と使用後の比較において、涙液層の安定性が向上したという報告がある一方、安定性には有意差がなかったという結果もあり、統一的な見解には至っていませんでした。いずれの報告もVR使用前後のみで涙液層の状態を比較していますが、VR使用中の涙液層の経時変化を捉えたものではありませんでした。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究では、VRヘッドセットの使用が涙液層に与える影響を明らかにすることを目的としました。そのため、ヘッドセット内に超小型カメラと照明器具を搭載した涙液層観察システムを開発し、健常者14名を対象に30分間VRゲーム(テトリス)を行ってもらい、ゲームプレイ中の涙液層の経時変化を観察しました。
その結果、ゲーム開始から20分以降で、涙液油層の干渉像グレードが有意に増加しました(図2、図3)。その他の涙液層、涙液、瞬目に関わる指標(涙液油層の伸展グレード、涙液油層伸展時間、最大開瞼維持時間、涙液メニスカス高※5)には変化が見られませんでした。また、角膜および上眼瞼の表面温度は実験後に有意に増加しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202510106923-O4-VBV7QSXT】
図2:VRヘッドセット装用中の涙液画像の一例
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202510106923-O5-EHoD1GIz】
図3:VRヘッドセット装用中の涙液油層の干渉像グレードの経時変化
(3)研究の波及効果や社会的影響
超小型カメラと照明器具を搭載した涙液層観察システムを開発することで、VRヘッドセット内での涙液油層がどのように変化するかを可視化できました。これにより、VRヘッドセットの安全な設計や使用の指針となることが期待されます。また、VR使用中のドライアイ予防メカニズムの解明の一助につながる可能性があります。
(4)今後の課題、展望
本研究では、VRヘッドセットの使用時間の経過とともに涙液油層の干渉像グレードが増加し、涙液油層が厚くなることを示しましたが、いくつかの課題が残されています。まず、実験で示された涙液油層の厚みの増加が、ドライアイやマイボーム腺※6機能不全の患者においても同様に起こるかどうかは不明です。涙液油層の状態は眼表面疾患の病態によって異なる可能性があるため、患者を含めたさらなる研究が必要です。また、VRヘッドセットを着用していない参加者を含む対照群が欠如していたことも本研究の課題です。今後は、ヘッドセットによる断熱効果などの要因を排除するため、適切な対照群を組み込んだ検討を進める予定です。
(5)研究者のコメント
スマートフォンやパソコンで目を酷使するデジタル社会では、眼精疲労やドライアイになる人が増えています。本研究では、今後普及が見込まれるVRヘッドセットに超小型カメラを搭載し、健常成人の30分間のVRセッション中の涙液油層を非侵襲、かつ経時的に観察しました。時間とともに涙液油層の干渉像グレードが増加し、他の涙液指標および自覚症状スコアには有意な変化は認められませんでした。この結果から、短時間のVRヘッドセットの使用によって涙液油層が厚くなり、涙液層の安定性が向上した可能性が示唆されました。今後は、ヘッドセットを装用しない対称群を含む検討により一般化の可能性を検証し、機器の安全使用と目の健康につながる研究を進めていきます。
(6)用語解説
※1 VR(Virtual Reality)ヘッドセット:
頭に装着するヘッドマウントディスプレイ。内蔵ディスプレイとレンズ、位置・姿勢センサーなどにより、頭の動きに応じて映像と音が変わるため、仮想空間への没入体験を実現する装置。
※2 ドライアイ:
様々な要因により「涙液層の安定性」が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある(ドライアイ研究会より)。
※3 涙液油層:
角膜の表面を覆う涙液層は、主に油層・液層の2層で成り立っている。油層は涙液の表面をカバーし、水分の蒸発を抑える働きがある。主にマイボーム腺から分泌された脂質からなる。
※4 涙液油層の干渉像グレード:
涙液の最外層である油層観察し、光の干渉によって現れる像のパターンや色彩変化から、ドライアイの重症度を評価する指標である。
※5 涙液メニスカス高:
涙液メニスカスとは、上下の眼瞼縁に沿って涙液が凹面形状に貯留した部位であり、そこに眼表面全体の涙液量の75〜90%が存在する。涙液メニスカス高は涙液量を反映する指標である。
※6 マイボーム腺:
上下のまぶたに並ぶ脂質分泌腺。分泌物(マイボーム)が涙液油層を形成。
(7)論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Time-course observation of tear film dynamics during VR headset use
執筆者名(所属機関名): 岡崎 善朗*(早稲田大学)、横井 則彦(京都府立医科大学)*責任著者
掲載日時:2025年9月26日(金)
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-025-16634-w
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-025-16634-w
(8)論文情報
研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援(JSPS科研費JP22K20513)
研究課題名:VRゴーグル装用が涙液層の安定性に与える影響に関する研究
研究代表者名(所属機関名):岡崎 善朗(早稲田大学)
プレスリリースURL
https://kyodonewsprwire.jp/release/202510106923
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