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利益未達企業の“将来志向戦略”

早稲田大学

翌期強気予想による印象緩和効果を解明

2025年6月17日
早稲田大学
東京経済大学

 利益未達企業の“将来志向戦略”
―翌期強気予想による印象緩和効果を解明―

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。

発表のポイント
●当期の利益予想を達成できなかった企業が、同時に翌期の利益について強気の経営者予想を公表し、印象悪化を和らげようとする傾向を、日本企業を対象とした本研究を通じて発見しました。
 ● 株式市場は、当期の利益予想が未達であっても、翌期の強気な利益予想に対してプラスの反応を示します。ただし、繰り返すとプラスの反応が弱くなります。
 ● 当期の利益予想未達の経営者による強気の翌期利益予想は、その約65%が未達であり、無理な予想だったと言えます。
 ● これらの結果は、明るい未来を示すことで、バッドニュースによる印象悪化を軽減する戦略を示します。
 ● 機関投資家の株式保有、アナリスト予想、女性取締役はこの傾向を弱めます。

韓国仁荷大学の閔廷媛(みん じょんうぉん)教授、東京経済大学の金鉉玉(きむ ひょんおく)教授、早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)の内田交謹(うちだ こうなり)教授による研究グループは、2003~2015年における日本企業3,273社(総サンプル21,392件)の経営者利益予想を分析し、当期の実績利益が直近の利益予想を下回った場合、翌期について株式市場の期待よりも高い利益予想を発表する傾向があることを明らかにしました。

株価は、予想を下回る実績利益に対してはマイナスの反応を示す一方で、翌期の高い利益予想に対しては、当期の実績利益が予想未達であってもプラスの反応を示しました。期待を下回る利益の発表による印象悪化を防ぐために経営者は明るい未来を示し、株式市場も好意的な反応を示しているのです。ただし、機関投資家の株式保有、アナリスト予想、女性取締役の多い企業では、このような将来志向の印象マネジメントが弱くなることも明らかにしました。

本研究成果は、2025年6月3日(現地時間)にSPRINGER NATURE社発行の『Review of Managerial Science』誌にオンライン掲載されました(論文名:Performance target setting for organizational impression management: overestimated earnings targets after previous target misses)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202506160582-O1-Y9C9P1Fn
                                   
図:過度に楽観的な経営者予想
横軸は経営者による利益予想の楽観度で、0より大きいと、株式市場の期待よりも強気の予想を公表していることになります。多くの企業が株式市場の期待とほぼ同水準の予想を公表していますが、強気の予想を公表している企業も多く存在していることが分かります。

これまでの研究で分かっていたこと
企業が存続していくためには、自らの存在とパフォーマンスがステークホルダーの期待と一致していることを示す必要があります。このため、企業はステークホルダーへの印象をマネジメントし(Organizational Impression Management)、自らの印象を悪化させる事象に戦略的に対応していると言われます(Elsbach et al. 1998; Elsbach 2006)。
これまで、企業業績がステークホルダーの期待を下回る、あるいは下回りそうな時に、経営者が印象の悪化を回避するためにさまざまな方策を採ることが示されてきました。
たとえば、企業は裁量的な会計操作(※)を通じて、当期の利益が予想を上回るよう調整を行うことが知られています(Burgstahler and Eames 2006; Roychowdhury 2006等)。
また、経営者がアナリストよりも保守的な利益予想を出すことで、意図的に関係者の期待を引き下げることも指摘されてきました(Cotter et al. 2006; Matsumoto 2002; Richardson et al. 2004)。
近年では、ステークホルダーの期待を裏切るニュースが流れてしまった後に、企業がどのような方法で印象悪化を軽減するかが研究されてきました。
Graffin 他 (2016) 等の研究は、期待を裏切る事態が生じた際に、それとは無関係のグッドニュースを大量に流すことを示しました。関係のあるニュースを流すと、期待を裏切った事実に再び注目が集まるため、無関係なニュースが印象悪化を改善する上で有効と主張しています。
Jin et al. (2021) は、買収に対してネガティブな市場反応があった場合に、企業は自らバッドニュースを公表することで関係者の期待を下げ、さらなる期待の未達成を避けると主張しました。

今回新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法
経営学では、企業の戦略的な印象マネジメントの重要性が指摘されてきました。もし経営者が実現不可能な目標を設定して実際に達成できなければ、ステークホルダーの期待を裏切ることで印象が悪化するとともに、経営者の能力不足も露呈してしまいます。これは企業にとって避けなければならない事態であり、そのために達成可能な利益予想を出すことが適切かもしれません。にもかかわらず、実際にはステークホルダーの期待を上回る利益予想を出す企業が多く存在します。では、経営者が期待を下回るリスクを負ってまで強気の予想を出すとすれば、その動機はどこにあるのでしょうか。
日本企業の経営者予想について分析した結果、私たちは、当期の利益が目標に到達しなかったことから生じる印象の悪化を軽減するために、翌期について強気の予想を提示するとの結論に至りました。企業の印象マネジメントに関するこれまでの研究は、無関係のニュースを流すことでステークホルダーの注意をそらす戦略に注目して来ました。これに対して私たちの研究は、関連のある明るい未来を提示することで、ステークホルダーの関心を現在のバッドニュースから将来に向けさせる新たな戦略を提示しています。
たしかに強気の予想は、将来達成できないコストを高める可能性があります。しかしそれ以上に、経営者は現在の予想未達による印象悪化に対応しなければいけません。将来のコストは不確実であり、期限まで時間があるので努力によって高い目標を達成できるかもしれません。また、一般に人々は過去の事象よりも、明るい将来の展望に強く反応すると言われています。このため、強気な予想が印象マネジメントの手段として有効になるのです。
この戦略は、経営者自身が利益予想を公表し、それが企業の業績目標として認識されることが前提となります。日本では東京証券取引所が企業に定期的に経営者予想を公表することを要請しており、事実上の義務になっています。本研究はこの制度を生かすことで、強気の予想による将来志向の印象マネジメントの存在を証明することができました。これまでの研究では、アナリストの予想など外部者によって設定された値が企業の目標になると仮定されてきましたが、本研究は、企業の目標は企業自身が戦略的に設定するとの立場に立ち、実際にそうであることを証明しています。この点も日本企業のデータを利用することで可能になった発見といえます。

研究の波及効果や社会的影響
学術的には、後ろ向き(backward-looking)ではなく将来志向(forward-looking)の印象マネジメントという新たな戦略を示したことが大きな成果です。
また、経営者がステークホルダーの期待形成に積極的に働きかけるエビデンスを示したことで、外部で形成された期待を企業が受け入れるという従来の考え方とは異なる視点を示したことになります。
本研究の結果は、経営者は当期の業績が期待を下回ったとしても、同時に強気の予想を公表することで印象の悪化を軽減できることを示しており、印象マネジメントが必要な経営者にとって有益な情報を提示しています。逆に言えば、強気な経営者予想の背後には経営者の戦略的な動機が存在するという警鐘をステークホルダーに鳴らしていることになります。また経営者は、この戦略を繰り返すと投資家の反応が弱くなる、つまり永久に使える戦略ではないことに注意する必要があります。
最後に、機関投資家やアナリスト、女性取締役は経営者の戦略的な印象マネジメントを弱めるという結果は、これらのプレイヤーが経営者予想という情報の質を高めることで、市場を効率的なものにすることを明らかにしています。

課題、今後の展望
本研究は強気の経営者予想に焦点を当てましたが、今後、明るい未来を示す印象マネジメントのさまざまな方策が明らかになることが期待されます。また、経営者が利益予想以外にどのような方法で関係者の期待形成に影響を及ぼすことができるのか、さらなる研究が期待されます。
本研究は、経営者予想の公表が事実上義務化されている日本において、強気の予想が印象マネジメントとして機能することを示しました。他国や他の目標についても同様の結果が得られるかを分析することは、私たちの主張の一般性を確保する上で重要です。また、経営者の特性が印象マネジメントにどのような影響を与えるかも、今後の重要な研究課題です。

研究者のコメント
一見不可能に思える目標を設定する。このような行動は、日常のさまざまな場面で目にします。私たちは、企業経営者がそのような行動を取るのか、取るとすればなぜなのかを明らかにしたいと考え、本研究に取り組みました。利益予想未達の企業が強気の業績予想を公表するという発見は、難しい目標を設定する動機を示すとともに、企業がいかにステークホルダーの印象を大事にしているか、また経営者が将来の印象悪化よりも現在の印象悪化を問題視していることを浮き彫りにしたと考えています。

用語解説
※ 裁量的な会計操作
減価償却の方法の変更など、経営者が会計基準の範囲内で報告利益を調整することを指します

論文情報
雑誌名:Review of Managerial Science
論文名:Performance target setting for organizational impression management: overestimated earnings targets after previous target misses
執筆者名(所属機関名):Hyonok Kim (Tokyo Keizai University), Jungwon Min* (Inha University), Konari Uchida (Waseda University)
掲載日時 : 2025年6月3日オンライン公開(現地時間)
掲載URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s11846-025-00910-0
DOI: https://doi.org/10.1007/s11846-025-00910-0

研究助成
研究費名:科研費 21H04394
研究課題名:「日本企業の財務特性に関する実証研究:「ガバナンス改革」と既得権益の相克の観点から」 研究代表者名(所属機関名):安田行宏(一橋大学)

キーワード
経営者予想、利益目標、組織印象マネジメント、将来志向、株価、機関投資家、アナリスト、女性取締役





プレスリリースURL

https://kyodonewsprwire.jp/release/202506160582

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