バリスタの技能を競う『日本バリスタチャンピオンシップ』で、2度の優勝歴を誇るバリスタ、竹元俊一さん。
鹿児島市の中心街で、『Coffee Soldier(コーヒーソルジャー)』という名のコーヒースタンドを営み、科学的な理論と知識、卓越した技術で人々の心を動かす一杯を届ける。
「コーヒーソルジャーとは苗床からコーヒーの芽が一斉に出た時のニックネームで、美味しいコーヒーになる為に、元気に成長していく様子に自分を重ねて命名しました」。ちなみにバリスタとは、コーヒーなどのドリンクの知識を幅広く熟知し、バールやカフェ、レストランなどで客へ最高の一杯を提供するプロフェッショナルのこと。日本ではエスプレッソを淹れる人というイメージばかりが先行しているが、接客のプロとして、来店した客一人ひとりに喜んでもらえるような質の高いサービスを提供し、心地よい空間を演出することも仕事だという。
「もともと僕はフランス料理のシェフを目指していたのですが、料理学校で科学的に味の理論が確立しているケーキに魅了されて、パテシエの道へと進みました。しかしケーキは毎日、作り立てをお客様に提供できませんよね。その点、バリスタであれば常に淹れ立てのコーヒーをお客様に提供できます。自分が美味しいと感じた味を、狂いなく、そのまま提供できる仕事に魅力を感じて、最終的にコーヒーの世界に身を置いています」。そんなコーヒーは世界中で、水の次に多く飲まれている飲料であり、マーケットが成熟している(ビジネスとして成立する)が故に、様々な人が、様々な分野で研究を重ね、ワインと同様に科学的な理論が確立されているという。
「ケーキもそうですが、科学的なモノに僕は魅力を感じるんですよね。しかし、いくらコーヒーが科学的な飲料であっても、コーヒー豆の一粒一粒が違うように、科学的な側面と、そうではない側面があるんですよ。そこを日々修正して、コンスタントに合格点の味を生み出す。それもバリスタの仕事の魅力のひとつだと思います」。そんな世界中で研究されているコーヒーの科学的な理論は、俗にいう『秘伝の味』などという閉鎖的な考え方で守られている訳ではなく、その殆どがオープンになっているという。
「知りたいと思うか、知りたくないと思うか。その意欲の差でバリスタの力量は変わると思います。コーヒーはグローバルな商品ですので、情報が非常にオープンなんですよ。ですから勉強しようと思えば、かなりの情報を無料で手に入れることができます。しかも明らかにライバル店同士でも、互いの店で、あ〜だこ〜だと語り合うなど、非常に仲が良いんですよね。また、もっとグローバルに見ると、世界には日本とアメリカとヨーロッパに3つの大きなコーヒー協会があって、そこが常に大会などを開いて、最新の情報を共有しているんですよね。そこではコーヒー産業を小さなビジネスとして捉えるのではなく、大きなビジネスとして捉え、世界中のコーヒーの地位を上げていこうとしているんですよ。その為には小さなところで競い合っても仕方がないじゃない、情報を共有することでお客様に還元した方が、もっと伸びていくんじゃない、という考え方が根付いているんですよね」。博多の明太子がそうであったように、情報は閉じ込めるのではなくオープンにした方が裾野は広がり、その文化は育っていく。スペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質なコーヒーを根付かせることで、コーヒーの地位を向上させようとする概念が主流の業界で、誰よりも意欲的にコーヒーと向き合う竹元さんは、『好きこそモノの上手なれ』と笑った。
「最終的には好奇心ですね。僕はバリスタの世界大会で、エスプレッソとアボガドを合わせてみたのですが、そんなコレとコレを合わせたら美味しいんじゃないだろうか?といった好奇心が、自らを高みに連れて行ってくれると信じています。しかし、そうして生まれたモノの8割くらいは不味いんですけどね(笑)」。
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